あの梅は酸っぱかった
とあるコンテストの作品です。せっかくなのでこのサイトにも載せることにしました。お題は「梅」です。感動してもらえたら嬉しいです。
私は梅が嫌いでした。
酸っぱいのが嫌だ。変な匂いが嫌だ。そんな理由で梅が嫌いでした。でも母は違います。母は梅が大好きでした。シングルマザーなので母が仕事をしたりお弁当を作ったりします。私が何度も「嫌い」と言ってもこっそりお弁当のおかずに混ぜ込んだりしてある時があります。
そのたんびに私は
「また梅入れたでしょ!?嫌いだからやめてよ!!」
と母を怒鳴ります。母は
「ごめんね、お母さん、梅大好きだから夏帆ちゃんにも好きになってもらいたくて」
と言います。でもなぜか母は何度も何度も梅を私に食べさせようとしてきます。大きくなってくにつれ反抗期なこともあり母への当たりがきつくなっていきました。
「どうして毎回毎回、無駄に律儀に入れてくるわけ!?本当にウザイ。迷惑極まりないからやめてよ」
「お母さんが梅を食べさせようとすればするほど私どんどん梅が嫌いになっていってるんだよ!?本当に本末転倒だね」
母は言われる度に落ち込んだ顔をし
「ごめんね」
とか細く言います。
ある年の冬。私は当時17歳で母は57歳でした。私が友達と遊びに行っている時突然電話がなりました。母からでした。面倒くさかったので最初の1、2回は無視していましたがあまりにしつこかった為、電話に出て怒鳴りつけました。
「さっきから何!?今、遊んでるんだけど!」
「夏帆…?ごめんね、迷惑かけちゃって…お母さん、今、目眩がして、気持ち悪くて…ぁ…」
バタン
大きな音が電話越しに聞こえてきました。
「お母さん!?ねぇ、お母さんってば」
「……」
そうです。母は倒れてしまったんです。
私は友達に事情を話して速攻で家に帰りました。
「お母さん!大丈夫!?」
家に上がるや否や廊下を走り、そしてリビングの床に倒れ込んでいる母に声をかけました。
「お母さん、ねぇ!お母さん!」
返事はありませんでした。私は直ぐに救急車を呼び母と共に病院へ向かいました。
母は生死をさまよっていました。なんでも持病が急に悪化したんだとか。そのまま入院することに決まりました。
次の週
いつものように放課後、お見舞いに来ると母が起きてました。
「お母さん!?良かった…このまま死んじゃうかと思った…」
安心と嬉しさからか肩の力が抜け、涙が溢れてきました。
「お母さん、何か食べたいものある?買ってくるよ」
と聞くと母は答えました。
「…梅が…たべたい、な……」
「梅…?」
「うん…私の体調が、悪くなった時…いつもお母さんが梅のお粥を作ってくれたの…梅を食べると元気になるよって…そのお粥を食べると次の日にはげんきになってるの。すぐ病気が治るの。凄いわよね」
「も、もしかして…」
「夏帆も梅を…たくさん食べれば治るんじゃないかって…ごめんね、いつも迷惑かけて…」
私も生まれつき持病をもっている。それも母とおんなじもの。
「夏帆…梅が嫌いなのにね…酷かったね…私…ごめんね…」
「ううん、謝ることじゃないよ。私のためにしてくれてありがとう。いつも怒鳴ったりしてごめんね」
最後らへんは声が震えて上手く喋れなかった。そのまま、母を抱きしめた。母は暖かかった。
そして私は梅を買ってきて母と一緒にすり潰した梅を食べた。梅は酸っぱかった。
5年後
母はその出来事の翌日。死んでしまった。私は今も生きている。持病を持ちながら。小説家として。今日も小説を書く。すり潰した梅を食べながら。
最後まで読んでくださりありがとうございました。初の短編小説でした!次回作もご期待ください。