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目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。  作者: 桐山じゃろ
第四章

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23 創造主の弁明

 創造主と調律者は僕や仲間たちへ、謝罪というものを一切しなかった。

 世界を創った存在たちが「間違ってましたごめんなさい」などと認めてしまえば、『世界そのものの存在意義』に関わる。

 最悪、世界が存在しなくなると説明されてしまっては、僕も引き下がるしか無い。

 この世界へ無理やり召喚されたことや、憑依されてたとはいえマグがやらかした事は納得できないけどね。


 色々と〝会話〟をしたが、途中で僕と同じ世界から来た他の皆とも会話が繋がった。

 ネットのボイスチャットみたいに、皆の声だけが聞こえてくる。




***




 創造主は謝罪の代わりにと、腹立たしいことを提案してきた。


 僕や皆を元の世界へ返せる、なんて伝えてきたのだ。



「今更すぎる」

「おれはこっちがいい」

「元の世界とは時間の流れも違う。整合性は取れるのか」

 ジスト、ザクロ、アオミの声だ。ちなみに不東は意識が覚醒した状態で接続されているらしいものの、終始無言だった。


 アオミの質問に対して創造主は、時間の流れを正確に操ることは出来ない、みたいなことを答えた。

「それじゃ困る」

「こっちと同じだけ時間が流れてたら、ウチらいきなり受験生じゃん」

 ローズとツキコの憤りには、全員が賛同していたように思う。特に受験生の下り。高校の勉強なんて、もう殆ど覚えていないぞ。


「この世界での記憶や、私達がこの世界にいた事実はどうなるの?」


 ヒスイの言葉に、創造主は滑らかに返した。


 元の世界の人々は、既に諸君らのことを忘れ去っている。

 元の世界に帰れば、こちらの世界の住人たちは徐々に諸君らのことを忘れる。


「それなら、尚更帰れないじゃないか」

「時間の流れ以前の話だな」

 ジストとアオミが呆れたといった口調で吐き捨てる。

「それで謝罪代わりになると本気で思ってるの?」

「人の心に寄り添えないのね、創造主って」

 ローズとツキコは全員を代弁して毒を吐いてくれた。


「帰りたくないわ。返さないで」

 ヒスイの願いに全員が同意して頷くと、創造主はそれきり、帰す帰さないの話をしなくなった。




***




 創造主との〝会話〟を終えると、エルドが内容を聞きたがった。エルドには聞こえていなかったのだ。



 まず、調律者について。


 僕の世界で言うところの「天使」みたいな存在で大体合ってる、と説明された。

 元の世界の天使は人間の創作物で、実在はしないと伝えたら、なんだか妙に驚いていた。


 調律者とは創造主、つまり神の手足であり、この世界の生物たちを在るべき方向へ導く存在だとか。


 人間が「神の声」と呼んでいたものが、実際は「調律者の声」で、人間以外の生物でもレベルアップやその他創造主が必要と判断すれば声が聞こえたり内容の意味を感じ取れたりしている。

 それは魔物も同じで、魔物も別の魔物や人間を含めた動物を倒した際にレベルアップする。

 魔物もレベルが上がれば強くなる。

 僕が不東に捨てられてすぐに倒した「隻眼のキラーベア」や、レイスからレベルアップして強くなった「レイスキング」が最たる例だ。


 調律者が魔物にも声をかけるということは、魔物の存在を創造主が認めていて、この世界の理に組み込まれていることになる。



「マグは、イヴリスの影響を受けてあのような行動をしたのか」

「それは少し違うってさ」


 調律者達には、人間より希薄ではあるが個性を持たされている。

 世界をより良く導けるだろうと考えて、創造主が付与した。


「元々、一部の調律者達は異世界召喚に関して思うところがあったんだって。こればかりは創造主の考えが足りなかった……って直接的な表現じゃないけど、そんなニュアンスのことを言ってた」

「創造主が謝罪するわけがないからな。それだけの表現をさせただけでも、大したものだ」


 エルドの言う通りなのだろうな。


「で、マグは『世界は結局、人間のもの。その人間を脅かす魔物の存在自体がおかしいのでは』って極端な思考を持ってた。そこをイヴリスに付け込まれて憑依されたんだって。創造主には『世界のために必要なのです』って何度も直談判して僕への干渉権を無理やり承諾させたらしい」

「調律者に憑依するイヴリスの精神力を褒めるべきか、マグの思考の偏りを放置した創造主を非難すべきか……両方だな」


「憑依の話なんだけど、どうもイヴリスって人だけの力じゃないみたいなんだ」

「何?」


 僕は創造主から伝え聞いた「アンブロシウス」という人名を口にした。


「! 狂魔道士の名ではないか。あいつ、生きていたのか!?」

「エルドと似たような状況……とも少し違うって言ってた。だって元々この世界の人間なんだからさ、召喚された人みたいなチートを持ってたわけじゃない」

「あいつなら自力でこの域に辿り着いたとしても驚かん」

 エルドが少々興奮している。誰も恨んだり憎んだりしないと言っていたエルドでさえ、狂魔道士だけは腹に据えかねるものがあるようだ。

「イヴリスがマグに憑依できたのは、狂魔道士が死ぬ直前にたまたま近くにいたイヴリスに取り憑いたからだよ」

「そうか、ならば合点がいく話だ」


 狂魔道士は、魔王出現と同時に肉体を滅ぼされた。

 しかし様々な人体実験によって得た知識を基に自らの魂を別の場所でも保管していたため、意識だけの存在となりはしたが、ある意味生き延びていた。

 エルド達は肉体を失っても自分の意志で割りと自由に動いたり、様々なものに干渉することが出来たが、狂魔道士にはできなかった。

 そこで、本当に偶然近くにいたイヴリスの魂に、融合に近い形で取り憑いた。

 元々しつこい性質だったイヴリスに、人間としては並外れた魔力と才能、そして捻じ曲がった性格を持った人間が合わさったのだ。

 相乗効果で理の外へはみ出るほどの存在と化したからこそ、調律者であるマグに憑依し、思考を操作できた。

 操作と言っても、方向性を極端にする程度だったそうだ。

 マグの所作や言動が不安定だったのは、イヴリスや狂魔道士の影響によるものもあったのではないか、とのことだ。


 僕は単純に、マグの素の性格が出てただけじゃないかなぁと思う。


「今後は調律者が直接、世界の何かに干渉することは一切禁止するし、こちら側からの干渉も出来なくするって」

「最初からそうしておけという話だな」

「全くだよ。こちら側からの干渉は想定外だったって言うんだよ」

 狂魔道士がイレギュラー過ぎたのだろう。そのイレギュラーを許す世界にしたのは創造主に他ならない。


 どこまでも勝手に振り回してくれたよ、本当に。



 創造主は謝罪はできないが、お礼を言うことはできた。

 マグを止めた僕に、感謝を伝えてきたのだ。

 功労者は僕だけじゃないから、このことはエルドに一応報告した。

「いらん」

 エルドは、面倒くさいものを寄越すな、と虫でも追い払うように手を振った。

「僕もそう言った」

 お互いに肩をすくめた。



「ところで、謝罪の代替はなかったのか」

「一応あったよ」

「どんなものだ?」

「今後、この世界では異世界から召喚したりされたりを出来なくしてもらった」

「なるほど。俺たちの二の舞……いや、何度も行われていたのだから、二の舞どころではないか。ともかく悲劇は二度と起こらぬのだな」


 誰の提案だったかはよく覚えていない。あのグループチャットの最中、誰からともなく言い出して、満場一致で決まった。

 創造主曰く、今すぐ完璧にとはいかないが、徐々に他の世界と繋がらないよう世界を強固にしていく、とのことだった。

 神サマにもいろんな都合があるらしい。

 巻き込まれたほうは、たまったものじゃないが。



「それにしても……はっはっは! さすがは異世界召喚を許す世界の創造主なだけあるな! 穴だらけの理だ」

 僕が創造主とした話をひと通り終えると、エルドは爆笑しだした。

 理不尽に振り回され、謝罪行為は何一つ行われず、全く納得できなくて燻っていた僕も、笑い飛ばすエルドを見ていたら、どうでもよくなってきた。

「今の僕でも創造主には勝てそうにないしなぁ。ま、元の世界で生きてても儘ならないことくらい、いくらでもあるし。チート貰えただけマシって思うことにするよ」

「ヨイチ、創造主に喧嘩を売るつもりだったのか!?」

 再び爆笑し、意識だけの存在のはずなのにヒーヒーと苦しそうな呼吸を始めるエルド。

 そんなに笑わなくても、と思いつつも、僕もつられて少し笑った。


「元の世界でも儘ならない、か。すまんヨイチ。文字通り墓まで持っていくつもりだったが……俺もヨイチの過去が視えた」


 笑い止み、真面目な顔を作ったエルドが唐突にそんなことを言い出した。

「そっか。あんまり良いもんじゃないだろ、他人の過去なんて」

「ヨイチこそ憎んだり恨んだりは……していたな」

「僕はエルド程強い人間じゃないからね」

 エルドは首を横に振るような素振りを見せた。

「いいや、ヨイチの方が強い。負の感情を乗り越えたのだからな。俺は初めから、周囲に対して期待を持つことを放棄し、諦めていただけだ」

 自虐でも謙遜でもなく、エルドは本気で言っている。

 そういうところが、強いと思うんだけどな。



「ヨイチと過ごす時間はなかなか楽しかった。名残惜しいが、そろそろ送ってくれ」

「……」

「今更、約束を反故にするなよ?」

「わかってるけどさ。名残惜しいなら……」

「失言だったな。俺は気が遠くなるほどの時間、その先を待ち望んでいる」


 有無を言わせぬエルドの言葉に、僕も頷いた。


「でも、一つだけ」

「何だ」


 マグはもういない。創造主は調律者達にしっかり釘を差してくれたから、少なくとも僕がこの世界にいる間は、調律者が暴走することはないだろう。


「魔神の力は、もう必要ない。力をエルドに返したい。魂をちゃんとした状態で逝ってほしい」

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