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目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。  作者: 桐山じゃろ
第四章

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1 根回し根回し

 リートグルクへは僕一人で転移魔法で移動した。モモとヒイロには、ヒスイ達と家を守るように言ってある。


 城門前で僕の姿を見つけた兵士さん達は、「お久しぶりですね!」と暢気なことを言う。アマダンが何をしてるのか、知らない様子だ。

 しかし近づいて僕の顔を見るなり、一人が城の中へ走り、他の人に控えの間へと通された。

 僕はどうやら、かなり険しい表情をしていたらしい。

 リートグルクの人たちには話を聞きに来ただけで、八つ当たりなんて格好悪いことをするつもりはない。


 ソファーに座り眉間に寄っていた皺をもみほぐしていると、ティールさんがやってきた。最初にリートグルクからの書簡を持ってきた使者さんだ。

「只事ではない様子と伺っておりましたが……」

 ティールさんが若干引いている。僕の努力虚しく、眉間の皺は寄ったままのようだ。

「すみません。アマダンについての話を聞きに来ただけなんです」

「アマダンが?」

 ティールさんも寝耳に水の様子だ。


 僕の家にアマダンの使者を名乗る男が来たこと。聖女を魔王復活阻止のための贄にすると言い出したこと。

 睨んだら逃げ帰ったことも一応付け加えておいた。

「ええと、確認させてください。私の記憶に間違いなければ、ヨイチ殿のところにいらっしゃるのは、アマダンに召喚されて『聖女ではない』と判断され、修道院へ追い出された方々ですよね?」

「はい」

 一ミリも訂正する部分がなかったので、頷く。

「それが何故、今更手のひらを返して聖女認定し、しかも贄にするなどと……」

 ティールさんが頭を抱えた。

「ヨイチ殿も困惑されたから、こうしてやってきたというわけですね。申し訳ありません、こちらでも把握しておりませんでした」

「あのっ、ティールさんを責めに来たわけじゃないですから!」

 頭を下げるティールさんに僕のほうが慌ててしまった。

「ということは、アマダンが勝手に暴走してるわけですね?」

「恐らくは」

「じゃあちょっと攻め込んできますね」

「お待ち下さい!?」

 立ち上がった僕を、ティールさんが必死に止めた。

「大丈夫です話を聞いた上で贄にしようなんて言い出したやつを突き止めて軽く小突くだけですから」

「貴方の『軽く小突く』ってめちゃくちゃ怖いのですが!?」

 今更ながらティールさんについて補足説明すると、書記官長という役職に就いている、割と偉い人だ。

 いい意味で、その時の相手に応じて言葉遣いを選んでくれる。

 ここまで砕けきったのは初めて聞いたけど。


 そんなティールさんの真剣な引き止めに、僕も一旦ソファーに座り直した。


 ティールさんは他の人を何人か呼び、いくつか話をした。

 話を聞いた人たちは、僕とティールさんを何度か交互に見た後、頷いたり「はい」と返事して駆け足で去っていった。


「アマダンの様子を調べるよう、命令を出しました。早ければ明日中にでも第一報が届くで……」


 ティールさんの話の途中で、部屋の扉がバァンと開いた。


「ヨイチ殿が来ていると聞いて!」


 開いた扉の向こうでふんぞり返っていたのは、リートグルク国王だ。


 やっぱり暇なの?




 王様の後に従ってきた侍女の皆様がハイパーメイドスキルを展開しテーブルにお茶とお菓子が瞬く間に並ぶ。

 この光景は最早恒例行事だ。

 うちのメイドさん達はもうちょっと人間味と存在感があるので、それぞれ別のベクトルに進化しているのだろうなぁ。


 少々の現実逃避の間に、王様が紅茶を一口飲みカップをソーサーに置いた。

「話の大筋は聞いておる。ヨイチ殿の気持ちはわかるが、アマダンもあれで王国なのだ。城を潰せば無辜の民にも影響が出る。しばらく辛抱してもらいたい」

 僕は攻め込むとは言ったけど、城を潰すなんて言ってないよね?

「そんな気はありませんよ。ただその、責任者を締め上げようかなー、なんて」

「責任者となると、アマダンの王ぞ。ヨイチ殿、城のことは建築物という意味ではなく、国の象徴と捉えて欲しい」

 城でも王でも、僕が物理的に潰したら、国に影響が出る。

 アマダンからの使者の言動は思い出すだけで腸が煮えくり返るが、国に住んでいる人たちは何一つ悪くない。

「使者が偽者という可能性も捨てきれぬしな」

「その発想はなかったです」

 思い返せば、使者は「アマダンから来ました」と言っていただけで、国の使者だとは言っていなかった気がする。

 以前、リートグルクから貰ったものに似た、紋章の入った封蝋をした巻紙を携えてはいたが、使者が自ら割り開いて中身を読み上げただけだ。

「僕の早とちりの可能性が……」

 早とちりで一国の王を締め上げようとしていたと気付き、思わず縮こまってしまう。

「真偽はともあれ、何者かがヨイチ殿の家にのこのこやってきて、聖女殿の命を差し出せと言い放ったのです。軽く見てよいことではありません」

 ティールさんのフォローにより、僕は気を取り直した。


「ところで、これからの連絡についてなのですが……。ヨイチ殿、いま冒険者カードはお持ちですか?」

 僕の格好は、普段より少し小綺麗な服の上から、まだあまり使い込んでいない予備の胸当てではあるものの、いつもの冒険者の装備だ。

 カードもベルトのポーチの中に携帯している。

「つい先日、冒険者カードの通信機能を冒険者以外でも活用しようと試作品が提供されまして」

 そう言って、ティールさんが黒い板をテーブルに置いた。

 冒険者カードがスマホなら、ティールさんが置いたものはタブレットPCくらいの大きさがある。

「これをこうして……あれ?」

「多分こうです」

 操作にまごつくティールさんの横から、僕が手を出すと、あっさり連絡先の交換が終わった。

 機能がシンプルだから、日本で使ってたものより解りやすい。

「いやあ、お恥ずかしい、まだ慣れませんで……。ともあれ、これでヨイチ殿に毎回来ていただかなくとも連絡が取り合えますね」

 ティールさんが笑顔で言うと、隣の王様が何故かしょんぼりと肩を落とした。

「たまには直に来ても構わぬぞ?」

 僕は苦笑いで「はい」と返事をした。




 リートグルクを出た後は、モルイの冒険者ギルドへ向かった。

 統括に、しばらくクエストは請けられないと話しておいた。

「事情が事情だから仕方がないな。ヨイチが頑張ってくれていたお陰で、冒険者の平均ランクも上がったことだし、問題ないぞ」

「僕、関係ありますか?」

 僕は僕にできるクエストしか請けていない。

 チェスタ達以外の冒険者ともあまり絡まないし。

「大いにある。ヨイチが高危険度を引き受けてくれるお陰で、他の冒険者に無理強いをさせずに済んだ。ヨイチが居なかった頃、複数の高危険度が出た時は、数で物を言わせるしかなかった。危険な上に、報酬の取り分も少なくなって、結果的に士気が下がる。今モルイにいる冒険者達は、適正な危険度の魔物を相手にできている」

「そうでしたか」

 持ち上げられているようでこそばゆくて、素っ気ない返事をしてしまった。




 チェスタ達とは冒険者カードで連絡を取った。

「なっ、なにそれ!? そんなっ……!! アマダンの……!!」

 チェスタの冒険者カードと通信していたはずなのに、横で話を聞いていたキュアンが不適切な言葉を発しながら割り込んできた。

 キュアンはヒスイ達と面識がある。

 僕とヒスイが町で買い物をしている最中にばったり出会った時、キュアンとヒスイはお互いにプラム食堂で顔を知っていたのだ。そこから話の流れでツキコとローズのことを話すと、それぞれの職場で出会っていた。

 キュアンは三人を気に入っていて、たまに一緒に町でお茶したり買い物したりを楽しんでいる。


 異世界から召喚されて修道院へ丸投げされたことを聞いたときも、こんな感じだったなぁ。


 通信の向こうのキュアンは更にヒートアップしていて、アトワが力ずくで抑えている、と実況が入る。

「キュアンは極端だが、俺たちも同じ気持ちだ。なにか手伝えることがあれば言ってくれ」

「ありがとう」


 これで、僕の方の根回しは済んだ。




 家に戻ると、ヒイロが玄関の前で寝そべっていた。

「ただいま。どうして外に?」

「おかえり。見張りだよ。大きな犬が苦手な人間もいるでしょ? 牽制くらいにはなると思って」

 ヒイロは犬呼ばわりを嫌うくせに、こうして強かに利用することもある。

「そうか、ありがとう。もう僕がいるから、家に入ろう」

 ヒイロは立ち上がって素直に僕の後をついてきた。


「おかえりなさいませ、ご主人さま」

 六人のメイドさんに出迎えられた。

「ヒイロ、お疲れ様。用意してあるわよ」

「ヒキュン!」

 ヒスイがヒイロに声をかけると、ヒイロは僕の部屋に向かって駆け出した。

「用意って?」

「おやつ」

 僕は全てを理解した。




 しかしそれから二週間ほど、僕たちの周囲は拍子抜けするほど静かだった。


 町では、僕の家や住人について聞いて回る人を見かけたと、色んな人から伝え聞いた。

 連中は僕やメイドさんたちの情報を、些細なことでも集めて回っているようだ。

 いきなり家に突撃しておいて、今更何をやっているのか。



 念の為、ラフィネとアネットにも、僕が魔力を込めた護りのペンダントを渡してあった。

 町へお使いにでかけたラフィネのペンダントが反応したのは、最初に自称使者が家にやってきて半月後だ。



 僕はその時、自室で本を読んでいた。

 アオミの蔵書で、教科書と武芸書以外は読まないザクロが「これは凄い」と絶賛していた本だ。

 今まで力と魔力任せだった戦い方とは別の、効率の良い身体の使い方が事細かに書いてあった。

「うーん……」

 実践してみたい、と思っても相手がいない。

「ぼくが相手になろうか」

 ヒイロは狼の姿で、いつものクッションに寝そべりながら僕の心の声を読んだ。

「そこまでして試したいわけじゃないよ」

「ふぅん?」

 ラフィネのペンダントが緊急を知らせたのは、このときだ。


「モモ、家を頼む」

 キッチンでメイドさん達とメイド業をしている聖獣に、意思疎通で伝える。

 僕は転移魔法でヒイロと共に、ラフィネのいる場所へ飛んだ。

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