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目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。  作者: 桐山じゃろ
第三章

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18 侵食

***



 玉座に座る俺の前に、黒いローブを着た何かが現れた。いつの間にかそこに立っていたが、どこからどうやって来たのかなど些末な問題だ。

 顔はフードの影になっていてよく見えないが、口元が笑みの形に歪んでいる、と認識できた。

「誰だ?」

 玉座から黒ローブを見下ろしながら話しかける。自分の声は思ったより尊大な響きがした。

「お主らを喚ばせた(・・・・)者だよ」

「そうか」


 俺は召喚されて数ヶ月は毎日、日本へ帰りたいと願っていた。

 それが叶わぬと知ったときは、城の、この世界の全てを憎んだ。

 今はどうでもよくなっている。

 もう一年も経った。今更帰れたところで、元の世界に俺の居場所はないだろう。

「ふふん、なかなかの仕上がりになっているな。善き哉」

 黒ローブは口元を更に歪めた。

「それで、何をくれるのだ?」

 先程俺に、『ならば、やろう』と言ったのはこいつだろう。声が同じだ。

「この国の王権、この城、全てを捻じ伏せる力……。これだけあれば、財宝や人は勝手に集められよう」

 権力と暴力があれば、大抵のものが手に入るのは道理だ。


 欲しいは欲しいが、俺はまだこいつを信用していない。


「何故それだけのものを俺に寄越す? 何をさせたい」

 黒ローブは声を出して嗤った。

「相応しき者に相応しきモノを渡すだけのことよ」


 相応しい者、か。


 それは確かに、俺のことだ。


「貰おう」


 この一言で、俺は全てを手に入れた。




 まずは自分の力がどれほどになったのかを確認することにした。

 城を正面から堂々と出て、森に入る。黒ローブもついてきた。

 魔物を探しながら、自分のステータスを見る。

 属性に[暗黒]が追加されていた。

「これは?」

「[鑑定]も得ただろう。己で見た方が早い」

 スキルは[鑑定]、[魔法の極意]、[千里眼]が増えていた。


 鑑定によると、対抗できる魔法のない究極の属性、とあった。

 魔法の極意は、すべての魔法に使用する魔力の大幅削減。

 つまり魔法に関して言えば、俺に敵うやつはいなくなったわけだ。

 千里眼は、見たいものが距離や遮蔽物を無視してすべて見ることができる。はじめは何もかもを見てしまい頭が狂いそうになったが、何度か試すうちに本当に必要な情報のみに絞れるようになった。


 千里眼スキルで見つけた野生の兎に早速、暗黒属性の魔法を放つ。

 兎はギュジュッ、と小気味良い音を出しながら萎み、石ころみたいになった。

 いいじゃないか。


 森の巨木や岩にも同じ魔法を試し、似たような結果になったことを確認してから転移魔法で城へ戻った。

 魔力量もかなり増えた。転移魔法は自然と使えたし、魔力が大幅に減った実感はない。


 これだけの力があれば、もう不東にいいように使われることはない。

 だがあいつごときの命で、この手を汚す必要もないだろう。

 城の全てを識ることができた俺は、不東を封じる策を思いついた。



 その後、俺はあえて自分の部屋に戻り、これまで通り本を読んで過ごした。

 二日後、不東がいつものようにノックもせず部屋の扉を開けて中に入ってくる。

「ドノちゃん! 行くぞ!」

 椿木の返り討ちで顔面に傷を負い、闇魔法で治療されたため不東の顔面の右半分は未だに濃い紫色になっている。

 以前同じようにされた腕は元の肌の色を取り戻しつつあるから、顔も時間が経てば治る。

 治るまでは出てこないと考えていたのだが、こいつも随分図太くなったものだ。椿木へ復讐するという一念によるものか。

「俺は行かない。……待て、お前が引きこもっている間に、いい情報を仕入れたんだ」

 不東が俺の胸ぐらを掴むと同時に、俺は急いで喋った。

 今更力づくを行使されても痛くも痒くもないのだが、油断を誘うために怯えるふりをしておく。

「いい情報?」

「お前、日本でロールプレイングゲームはやったことあるか?」

「ん? まあそこそこ……それがどうした?」

「そういうゲームで偶にいなかったか? やたら硬くて逃げ足の早い、しかし経験値は滅茶苦茶美味しいモンスター」

「あー、いたなぁ。オレ、そればっか倒してたわ。……おい、まさか」

 不東はあっさり食いついた。


 スタグハッシュの東には広大な海が広がっている。その沿岸に巨大な天然洞穴がある。これは紛うことなき事実だ。

「洞窟の奥に、時折極レアな魔物が発生する。スタグハッシュが大昔にその魔物を独り占めしようとして封鎖していたのだが、『封鎖されている』という話のみ残り今に至っている」

「ってことは、今その洞窟に行けば……」

「年に数匹湧けば良い方らしいし、実際に倒してどれだけ経験値が入ったかという情報はあまりない。だが、やってみる価値はあるだろう?」

 俺は虚実を綯い交ぜにして不東を説き伏せた。

「不東が一人で行けば、経験値も独り占めできる。どうだ?」

「行く!」

 不東は俺が用意した地図を引き破らんばかりの勢いで奪い取り、あっという間に城から出ていった。


 レアな魔物がいるというのは本当だが、経験値の話は嘘だ。

 そんな魔物がいたら冒険者ギルドが管理し、見込みのある冒険者に討伐させて魔物への対抗戦力を上げるために使うだろう。

 年に数匹、というのも嘘だ。ここ数十年、目撃例はない。

 スタグハッシュがその洞窟を閉鎖した理由は、レアな魔物目当ての不埒な冒険者ばかりが城下町に集まったせいだ。


 洞穴には予め兵を向かわせてあり、不東が諦めて出てこようとしたら食料や装備を与えて励まし洞穴内へ追い返せ、と命令してある。


 これで不東はしばらく大丈夫だろう。


 次は椿木と亜院だ。

 あいつらは何が楽しいのか、最近は殆ど城へ戻らず港町で冒険者業に精を出している。

 放っておいても邪魔はしてこないだろうが、念には念を入れる。


 椿木たちは殆ど城へ戻らないとはいえ、週に一度は帰ってくる。

 以前は一泊していた滞在時間は徐々に短くなり、最近はサガートに顔をみせたらすぐに港町へ戻ってしまう。

 俺はサガートに引き止めるよう命じ、久しぶりに椿木、亜院と顔を合わせた。


「不東が行方不明になった」

 サガートを部屋から出し、俺がそう切り出すと椿木と亜院は特に表情を変えなかった。

「ふーん」

「そうか」

「驚かないな」

 横伏の次に仲間意識の強い二人だ。相手が不東でも、もう少し心配するものかと考えていた。

「だって不東だし。どのくらいいないの? 一週間? 数ヶ月いないならちょっとは心配するけど」

「おれも同感だ」

 不東の人望の無さに、ほんの僅かばかり同情した。

「探してくれと頼んだら、請けてくれるか?」

「うーん。不東を探すためだけに時間は使いたくない。ついでに探す程度なら」

 椿木が答えると、横で亜院も頷いた。

「それで十分だ。宜しく頼む。あいつ一応、勇者様だからな。城の連中が煩いんだ」

 城の連中は今や俺の傀儡だ。俺が騒げと言えば騒ぐし、黙れと言えば黙る。

「わかった。用件はそれだけ?」

「ああ。手間取らせて悪かったな」

「手間ってほどの話じゃなかったし。じゃあね」

 椿木は手をひらひらと振り、亜院は軽く会釈だけして城を出ていった。


 本当は不東が行った洞窟とは別の場所を指定してそのあたりにいるはず、とけしかけるつもりだった。

 だがあの様子ならば、不東探しに時間をかけさせるより、自由に冒険者をやってもらっていたほうが安全だろう。



 更に数日後、千里眼で監視していた横伏が城へやってくるのが見えた。

 予め準備していた俺は城から離れた場所のとある屋敷へ転移し、城の連中には「何があっても俺たちのことは口にするな」と厳命した。


 果たして何も知らない横伏は、城中を闇雲に歩き回り、地下牢で変わり果てたサントナとの邂逅を果たし、失意を隠さない表情で地下牢をあとにした。



 横伏が城を無駄に探索している間、俺は城の外、モルイの町で一番大きな屋敷の一番大きな部屋から出た。


「あれ、ヨイチ?」

 廊下の向こうから出てきたのは、黒髪黒目の日本人のような女だ。

 俺の顔を見て、咄嗟に後ずさった。

「誰!?」

 女が胸元を握りしめながら誰何する。

「ヨイチ? ……偽名か。通りで」

 横伏の足取りがあるときから全く掴めなくなったのは、偽名を使っていたからか。

 今は千里眼のおかげで、何もかもお見通しだがな。

「お前はヨイチの何だ?」

 俺が問いかけると、女はすうっと息を吸い込んだ。


「助けて! ヨイチ!」


 一瞬前までスタグハッシュの城にいたはずの横伏が、目の前に現れた。


「!?」

「土之井、どうしてここに? ……結界破ったのか」

 屋敷には強固な結界が張り巡らされていたが、暗黒魔法の前では無意味だった。

「横伏に用事がある。断りなしにここへ入ったのは悪かった」

「わかった。外で」

 俺と横伏、そして横伏の横で俺に対してずっと唸り声を上げている大型犬の足元に魔力の渦が沸き起こる。

 転移魔法だ。抗わずにおいた。


 転移先は森の中心に近い場所だ。

 あの距離から複数人を運びながら、横伏には尚も余裕がある。魔法を行使したこと自体、息をするのと同義のように見える。

 かなり力をつけたとは思っていたが、予想以上だ。


「それでだな、横伏」

「誰だお前」

 横伏は臨戦態勢をとっている。瞳が青くなり、周囲には青い光として視認できるほど強大な魔力を撒き散らしている。

「俺は土之井だよ。さっき横伏も言ってたじゃないか」

 わざと両手をひろげ、害意のないことを示す。

「見た目はな。土之井は人の家に無断で上がり込むような奴じゃない」

「そこは謝る。しかし俺は……」

「土之井」

 俺を誰だと言ったり土之井と言ったり……。


「お前、操られてるぞ。そいつは椿木にも似たようなことをやったんだ」


「は、はははっ! 何を言い出すんだ!」

 俺が操られているだと? そんな馬鹿な話があってたまるか。

 可笑しくて、笑いが止まらない。


「僕は、土之井が僕を不東に対する防波堤にしてたこと、知ってたよ」

「は?」

 気づいていたのか。横伏を見くびっていたようだ。

「それに罪悪感を持ってたのも」

「何を言っている」

 何を言っている?

「だからいつも治癒魔法をくれた」

「鈍痛が残っていただろう? あれは俺がお前を仲間と……」

 仲間と思っていなかった?


 違う。あれは本当に俺の魔法が未熟だったせいだ。


 過去の失敗、過ち。

 目の前の横伏は黒歴史の塊だ。

 だから消さなければ。


「違う……」

 違う!


「横伏、お、俺は……」

「土之井っ!!」



 横伏が魔法を発動させた。まばゆい白い光が俺を包む寸前、暗黒魔法が勝手に発動した。

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