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目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。  作者: 桐山じゃろ
第三章

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14 ベエマスの革鎧

 僕は新たな聖獣を仲間にしたと思ったのですが。


「おかえりなさいませ、ご主人さま」

「手の位置もう少し上かな」

「お辞儀の角度はバッチリね」

「モモにはヘッドドレスが似合うと思うの」


 その聖獣が人の女性の姿に変身して、メイドさん講座を受けています。


 どうして。




***




 モモを連れ帰って最初の問題は、寝床をどうするか、だった。

 広くしてもらった僕の部屋でも、モモには小さい。

 家に入り、メイドさんたちの歓待を受けながら考えていると、モモが「ブモ」と一声鳴いた。

 ……次の瞬間、そこには一糸纏わぬ全裸の女性が立っていた。

「!?」

 思わず回れ右して視界を逸らす。

「えっ、モモちゃん?」

「はい。主様のおうちでは、この姿の方が都合がよさそうですので」

 モモは人語を操れるのかー。そっかー。まずは恰好をどうにかしてくださいお願いします。

「とりあえず服、服! ウチの服で間に合うかな」

「上はヒスイの服がいいと思う」

 メイドさんたちとモモの会話が聞こえる。

「主様、主様は見てもいいのですよ」

「ダメでしょ!?」

 まだ服を着ていないモモが僕の肩に手を置く。僕は慌てて自室へ逃げ込んだ。


「はー、びっくりした」

「何にびっくりしてたの?」

 僕に唯一ついてきたヒイロが、不思議そうに首をかしげる。

 そういやこいつ、いつも全裸だな。

「人間の男が人間の女の裸をジロジロ見るのはその、良くないんだよ」

 いざ説明しようとなると難しい。

「あれはモモだよ」

「人の姿になったからダメ。……もしかしてヒイロも変身できたりするのか?」

「うーん、やろうと思えば……」

 その場でヒイロがパッと光ったかと思うと、十代前半くらいの少年が立っていた。

 肩につくくらいの髪と大きな瞳はアルビノ特有の白と赤。手足は白く滑らかで、美少年と言って差し支えない容姿だ。

 そんな少年の瞳が僕を見上げていた。全裸で。

「やっぱり全裸になるのか……」

「男同士なら全裸見てもいいの?」

「人間はお風呂以外では服着ててほしい。ヒイロ、その恰好し続けるの大変か?」

「ヨイチがこっちのほうがいいって言うなら、このままで何も問題ないよ」

 何かを消耗している様子はないし、問題ないのは本当だろう。

「ヒイロが好きな方でいいよ」

 そう言うと、ヒイロはスッと狼の姿に戻った。

「服着なきゃいけないなら、こっちがいい」

「そこかぁ……って、喋れるじゃないか、ヒイロ」

「人の姿の時はね。でも、すっかり忘れてた」

「そっか。……モモ、そろそろ服着てくれたかな」

 頭をこすりつけてくるヒイロを撫でていたら、ヒスイに呼ばれた。


 そしてメイド服を着たモモが立っていたのだ。


「なんで!?」

 女性に対する言葉としては不適切だが、これしか出てこなかった。

「似合わない?」

 モモが眉尻を下げる。モモの容姿は先ほどのヒイロに似た、腰まである白い髪にたれ目がちの赤い瞳で、顔立ちも整っている。メイド服も相まって、お人形みたいな可愛さがあった。

「いや似合うよ。問題はそこじゃない」

「サイズ合うのがこれしかなくて」

「嘘だろ……」

 身長はツキコより少し低い。体つきはヒスイに似てるかな。

 その条件で我が家にある女性服のうち、合うのがメイド服だけって、おかしくないだろうか。

「主様、私、この家で主様のお役に立ちたいです」

「あー、えっと、ヒイロにも言ってるんだけど、皆に迷惑をかけない範囲なら何しててもかまわないよ」

「はい。ですから、この格好で、ヒスイ様達のお手伝いがしたいです」

 この格好で、を強調された。気に入ったのか、メイド服。

「だそうだけど、いいかな」

 メイドさんたちに水を向ける。

「いいわよ」

「よろしくね、モモちゃん」

「まずはお辞儀の仕方からね」


 そして早速、メイドさん講座が開催されたのだった。




***




 夜になってから、モモを改めて[鑑定]スキルで見た。



 モモ

 レベル100

 種族:聖獣ベヒーモス

 スキル:[咆哮]

 属性:聖、竜

 ソウルリンク:横伏藤太



 属性の「竜」は鑑定できなかったので、本人に訊いた。

「竜みたいに大きくて強い相手に対して効果を発揮しやすいのよ。主が私に光や聖属性の治癒魔法をかけてくれたらとても嬉しいけど、竜属性だったらもっと嬉しいわ」

「じゃあ覚えるから何か使ってみて」

「覚える?」

「[魔眼]のスキルがあるから」

「えー!? 魔眼持ちの人間なんてはじめて見たわ……。さすが私の主様ねっ」

 他にいないのか、魔眼持ちの人……。

 微妙にショックを受けつつ、モモにごく弱い竜属性の攻撃魔法を使ってもらうことにした。

 モモを仲間にした山へ転移魔法で飛び、そこらへんの岩をターゲットに指定した。閃光が稲妻のように落ちて、蒸発するように消え去った。

「威力ヤバイな」

 消えた岩の隣にある二回り小さな岩に、なるべく小さめに魔法を発動させてみる。

 同じように閃光が落ちて、小さな岩の真ん中にぽちっと黒い穴が開いた。

「うん、調節はできそうだ。……おお、竜属性ついた。ありがとう、モモ……?」

 モモは目をまん丸にして僕を見つめていた。

「どうやったの、主様」

「[魔眼]の効果で属性ごと魔法を真似したんだよ」

「そうじゃなくて、制御! 竜属性でそこまで小規模に的を絞れるなんて……」

「普通にできたよ?」

 もう一度、同じ岩に竜属性の攻撃魔法を当てる。今度は横に穴をあけた。

 モモがグヌヌ、と顔をしかめながら魔法を発動させると、別の岩が木っ端微塵に砕けた。

「無理よぉ」

「そ、そっか」

 どうやったのかと問われても、できたからできたとしか言えなかった。




 この後、モモが人の姿のまま僕と一緒に寝ようとしたので、慌てて客室をモモの部屋と決めて押し込んでおきました。




***




 モモのメイド化騒動の翌日、イデリク村を訪れた。

 モモはメイド修行だとかでしばらく在宅勤務。ついてきたのはヒイロのみだ。

「ディオンさん、ベエマスもってきました」

 体長十メートルを超えると言うと、森の中の少し開けた場所へ連れられた。ディオンさんが素材を捌くのによく使っている作業場だ。

「どうして三体もあるんだ……」

 マジックボックスからベエマスの死骸を積み上げると、ディオンさんはベエマスを見上げて呆然とした。

「一体はツキコに渡しました」

「まだあったのかよ!? まぁ、いつものことと言えばいつものことか……」

 ディオンさんは何かブツブツ言いながらも、鮮やかな手つきでベエマスを捌いていった。

「牙と角は全部兄貴に渡してもらっていいか? 肉は食えるかわからん」

 僕の前に、ぽんぽんと素材が積みあがっていく。

 肉は[料理]スキル持ちのヒスイに見てもらったら、可食部位がわかるかな。少なくとも毒の有無は判別できるみたいだし。

「今回は……これだけあればヨイチさんの防具が作れる。悪いが、残りはヨイチさんがマジックボックスに預かってくれ」

 一体の三分の一ほどの革をディオンさんが別の場所へ置き、残りは僕の前に積まれた。

「構いませんが、全部ディオンさんに使ってもらっても……」

「持ってたら作っちまうが、ベエマスの革防具が合う人間はヨイチさんしかいない。他の奴には宝の持ち腐れもいいところだ。だから、また必要な時に持ってきてくれ」

「わかりました。でも、もし僕以外の人に使いたくなった時も言ってくださいね。素材は全部ディオンさんに使ってもらうために取ってきたので」

 素材をマジックボックスに入れっぱなしにすること自体は何ら問題ない。しかし僕が素材だけ持っていても、それこそ宝の持ち腐れだ。

「はっはっは、そんな奴ぁいねぇと思うがな。その時は連絡する」


 通常、魔物の皮は防具にする前の加工に二週間必要で、防具が出来上がるまで合わせてひと月かかる。

 しかしディオンさんは[防具作成]スキルを所持しており、すべての工程にかかる時間を70%も短縮できる。


 十日後、再び訪れた時には僕専用の防具が完成していた。


 ベエマスの革鎧は、ベエマスの革自体がものすごく分厚いのに驚くほど軽く、しなやかでいて頑丈だ。

 弓の構えの邪魔にならない上で、覆える急所はしっかり覆ってある。

 着てみて、身体をぐりぐり動かしてみる。

「どうだ?」

「最高です。ディオンさんがこだわった理由がわかりました」

 ディオンさんがうんうんと頷く。

「でも、どうしてこれが僕にしか合わないのですか?」

 これだけ着心地の良い防具だ。誰の防具を作っても最高に違いないと思ってしまう。

「そうだなぁ……。試しに、他の冒険者に試着してもらえ。留め具は留めないようにな。それでわかるだろ」

「はぁ……」

 とにかくディオンさんにはお礼を言い、お店を出た。




 ディオンさんに言われた通り、ベエマスの革鎧をチェスタに留め具をしないで着てもらった。

「!? おっも! 重い!」

「えっ!?」

 僕が手から離した途端、チェスタが呻いた。

 チェスタはいつも金属製の胸鎧を着ている。革が金属鎧より重いはずはないのに。

「む、無理だ、脱がせてくれ」

 僕がチェスタから革鎧をすぽんと取り外すと、チェスタは両手を膝についた。肩で息をしている。

「ヨイチ、ちょっと見せてくれ」

 アトワに革鎧を手渡すと、アトワは片手で受け取り、すぐに両手で抱え直し、その場にそっと置いた。

「何の革か知らないが、だいぶ魔力を使うな」

「魔力を? 使ってた覚えは無いんだけど」

「ヨイチくらいになると無意識に使える範囲で十分なのだろう。特殊な素材程、魔力が必要になる傾向がある」

 この世界の人は全員魔力を持っている。重たいものを持ち上げたり、全力で走る時など、筋力強化のために無意識に使っているのだとか。

「これ何の革? みたことないわ」

 キュアンが興味津々とばかりに鎧に顔を近づける。

「ベエマス」

「ベエマス!?」

「どこにいたのですか!?」

 リヤンとミオスが勢い込んで聞いてきた。

「北の方の山だよ。えっと、ここ」

 地図を見せながら答えると、二人は顔を見合わせた。

「さすがヨイチさん……」

「前人未到の山へ易々と……」

 人の気配のしない山だとは思ってたけど、誰も入ってなかったのか。

「だから僕専用なのか……。チェスタ、大丈夫? 付き合わせてごめん」

「気にするな。一瞬でもベエマスの革鎧を装備できたのはいい経験になった」

 チェスタは本当になんでもなさそうに、ニッと笑った。

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