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目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。  作者: 桐山じゃろ
第三章

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7 監視

 昨日は仕事を休んでしまった。



 我が家では、無茶しすぎたり疲労困憊になった人は自室にて最低三日間絶対安静の刑に処される。

 無茶をするつもりはなかったのに、ヨイチの武器を直してるって考えたら、つい魔力が入りすぎてしまった。

 魔力って、元の世界にはなかったものだから正直扱い(あぐ)ねている。

 しかも属性を持っていないと魔法としては使えないのだから、大半の人は家庭用魔道具を使うのにちょこっと消費するくらいしか使い道がない。

 普段使わないし、ヨイチの武器を直すためだし……って使いまくったのが失敗だった。


「……ふぅ。どうかな、ちょっと触ってみて」

 手足の指先が冷たい。冷や汗がダラダラ出てくる。正直、立っているのもしんどいけれど、ヨイチに悟られてはいけない。

「後でやるよ。それよりツキコ、魔力殆ど使ったな?」

 私の偽装工作も虚しく、すぐバレた。

 弓の魔道具を私の手から奪うようにもぎ取ったヨイチが、そのまま私の手を握った。

 ヨイチの手、ゴツゴツしてて男らしいなぁ、なんて考えていたら、手から温かくて心地良いものがスッと流れ込んできた。

「ふぁっ!? すご、一瞬で……」

 手を握っていたのはほんの一瞬。なのに、冷えた指は元通りになり、冷や汗も引いた。体調はいつもより良いくらい。

「びっくりしたのはこっちだよ。無茶して」

 ヨイチが怒ったフリして焦ってる。

 眼がほんのり青くなっているから、よっぽどだ。申し訳ない気持ちになる。

 反省した。猛省した。

 だから……。


「ほら、休もう。ヒスイー! ツキコを部屋に押し込んで!」

「押し込むって、ちょ、ヒスイの圧が怖い! えっ、怖っ! ごめんって! もう無理しないからっ!」

 抵抗は無駄だった。私は我が家の鋼の掟に従い、処されたのだった。


 一日で済んだのは、ヨイチが「ツキコはもう大丈夫みたい」と口添えしてくれたお陰だ。



 でもヨイチは私が無茶したことを、おやっさんに言いつけたわけで……。



「おはようございまーす……昨日は、すみませんでした……」

 職場である「鍛冶屋アルマーシュ」の勝手口を、そっと開けて中に入る。

「おはようツキコ。ちょっと来い」

「ハイ、おやっさん」

 おやっさんは、紆余曲折を経てここで働くことになった私を、実の娘のようにかわいがってくれている。

 故に、怒る時はしっかりガッチリばっちり雷を落としてくれるのだ。

 来たるべき雷に備えて、身構えながらおやっさんの側に立った。


 しかし、おやっさんは「大変だったな」と私の頭に手をぽんと乗せた。

「お前の魔力の扱い方の見立てが甘かった。どうせヨイチの武器だと張り切ったんだろうが、次はヘマすんなよ」

「は、はいっ」

 どうやら雷は落ちないらしい。知らぬ間に強張っていた肩から力が抜けた。


「で、だ。ちょっとコレに魔力流してくれ。少しでいいぞ」

「はい」

 手渡されたのは、ヨイチが持っている弓の魔道具みたいな、魔力で刃が出現する剣の柄だ。

 ほとんど完成していて、仕上げの魔力が足りない状態みたい。

 少しだけ、少しだけと念じながら、魔力を流す。

「よし」

 おやっさんの合図と、私が「もういいかな?」と思ったタイミングはほぼ一緒だった。

 剣をおやっさんに返すと、おやっさんがその場で刃を出現させた。

 少し青みがかった、某宇宙戦争の光る剣が平たくなったような刀身だ。

「……むぅ。ツキコ、この刃の形をよく覚えておけ」

「はい」

 どうして覚える必要が? と疑問を感じながらも、おやっさんの指示に従う。刀身のサイズや形状をじっくり観察した。

「これをヨイチに一度使わせてみてくれ。あいつは今日も出かけてるのか?」

「はい。最近、帰りが夜遅くなることも多くて」

「そうかぁ……」

 おやっさんはヨイチに試させる理由は教えてくれなかった。


 そして何故かこの日から、本格的に魔道具武器を一から作る方法を教えてくれるようになった。




***




 家でツキコに剣の魔道具を渡され、言われるままその場で魔力を通した。

 柄の感じは長剣なのに、出現した刀身は大剣のそれだ。幅広で分厚く、しかし切れ味は良さそうだ。

「見た目より軽くて、扱いやすそ……」

「あれえー?」

 感想を伝えようとしたら、ツキコが戸惑いの声を上げた。

「ちょ、ちょっと貸して?」

 刃をしまってからツキコに渡すと、ツキコも同じように魔力を通した。現れた刃は、長剣サイズだ。

「魔力量で刀身が変わるとか?」

「そんなことは有り得ない……はずなんだけど。ヒスイー! ローズー!」

 ヒスイとローズにもそれぞれ刀身を出してもらった。二人はツキコと全く同じ刀身を出現させた。

 もう一度僕の手に渡ってくる。……やはり大剣になる。

「ツキコ、弓のことはおやっさんに訊いた?」

「訊いたけど、実際に見てないから信じられなくて……。でも信じた。ヨイチの時だけおかしい」

 結論が若干ずれているような。

「ツキコがつくった武器を僕が使う時だけおかしいのでは」

「そう、それ! でも何で?」

「ヨイチ、ポーションの件でも似たようなことが起きてる」

 ローズが挙手して発言した。

「似たようなこと?」

「ローズが作ったポーション、確かに他のより効能が高い。だけど、せいぜい一割から二割程度。ヨイチの魔力を四分の一も回復できるほどの効能は確認されなかった」

 僕、ツキコ、ローズが腕組みして考え込む。

「私達が、異世界人だからじゃない?」

 ヒスイの発言に、全員がヒスイに注目した。

「確かに。他に納得のできる根拠は思いつかない」

「そういえば浄化魔法が何か違うのも、僕が異世界出身だから、みたいなこと言われた」

「だったらウチの武器はヒスイとローズが使っても刀身が大きくならなきゃおかしくない?」

「ヨイチくんはレベルが高いから、とか」

「あー」

「あー」

「今日イチ納得するじゃん……」

 今後身体に影響が出ないのであれば、便利な副次効果として有効活用しよう、という結論になってその場はお開きになった。


 自室の扉の前で、ツキコに呼び止められた。

「ロガルドから訊いたよ。おやっさんに『僕の責任です』って言ってくれたんだね。ありがと」

 ロガルドが聞いてたのは知ってたけど、ツキコに言っちゃったのか……。

「次はないからね」

「うん。今度はちゃんと魔力の扱い方を習熟してからやるよ」

 ツキコは僕の肩をぽんぽんと二回叩き、ニッと笑って自分の部屋へ向かった。

「ヨイチ、いいことしたのを褒められたのに、どうして顔赤いの」

「照れくさいんだよ」

 余計なことを言うヒイロをベッドの上にひっくり返し、腹をしこたまわしゃわしゃしてやった。




***




 リートグルクで魔物討伐をはじめて二ヶ月と少し経った。

 聞きしに勝る寒さになり、僕はテウメッソスのマフラー他厚手の防寒具を着込んでいる。

 ヒイロは自前の毛皮が冬仕様になった。毛替えの時期とかなかったのにどうやったのかと聞けば、

「聖獣だからこんなもんだよ」

 という謎の返答が得られた。なんでも有りの世界だったよ、うん。

 大きくなった時用のテウメッソスのマフラーはちゃっかり作ってもらってあり、僕のマジックボックスに収納してある。

 自分とヒイロに結界魔法を張り、内側を火魔法で温めるやり方は、魔物討伐中はやらない。

 魔法の気配を察知する魔物が多くて、こちらの位置が筒抜けになってしまうのだ。


 いつも通り、ささっと魔物を討伐してしまえばいいのだが、今日は事情が違う。

 いざ弓を取り出そうとして、首筋の後ろ辺りに、針の先でそっと突かれたような感覚がした。

「ヒイロ、ブレスは無しだ」

「どうして?」

「見られてる」

 ヒイロのブレスは魔法を使ったものだが、口から放つため見た目が「魔物の特殊攻撃」によく似ている。

 普通の使い魔は戦闘に参加すること自体が稀だ。冒険者カードにヒイロが倒したものは記録されないが、死骸を持ち帰り「使い魔に魔法を使わせた」と説明して納得してもらっている。

 秘密にしていることは多いけど魔物はちゃんと倒しているし、虚偽報告もしていない。

 何の目的で僕を見張るのかわからなくて、気分が良くない。

「よくわかったね」

「スキルのお陰だよ」

 ヒイロとの会話は意思疎通だから、他の誰にも聞こえない。


 それにしても、どうしたものか。

 知らない人の前で弓を使わないのは、横伏藤太とは別人であることをアピールするためだ。

 トウタはリートグルクの城にスカウトされてモルイを離れたことになっている。

 見た目は多少変わったが、髪と目の色が同じ人物が弓を使っていたら、トウタ=ヨイチに気づかれてしまうかもしれない。

 もうバレていたとしても、決定的な証拠を自分から出すことは避けたい。

 やはり、剣を使うしかないか。


 先日の剣は僕のために作ったものではないからとツキコが回収したが、数日後に別の剣を持ってきてくれた。

「ウチが全部作ったんだ。使えそうなら使ってほしい」

 剣の出来はとても良く、僕が刀身を出すと想定の倍のサイズになった。

 レベルアップと日頃の実戦のお陰で、力はありえないほどついている。大剣は片手で扱うことができた。


 剣の魔道具を弓と同じく腰の専用ケースから取り出し、地を蹴った。


 相手は僕の頭より大きな蝿だ。ベルゼブという名前がついているが、蝿の王に因んだだけで実際の王ではない、と思う。

 百匹ほどの群れに突っ込み、急所である複眼を一撃で斬り裂いていく。

 僕を見張っている人は僕の動きを追いきれないようで、先程から視線がこちらに来ない。気が散らなくて楽だ。

 全て倒し切ると、地面は蝿の死骸で埋まった。今日はメイドさん達に討伐の話をするのは止めておこう。

 素材になる部位は羽根のみだ。蝿のサイズの割りに小さいその部位を、この場で仕分けるのは寒い。さくっとマジックボックスに全て放り込んだ。

「ヒイロ」

 声に出してヒイロを呼ぶと、ヒイロが僕の足元へささっと駆け寄った。ヒイロは少し離れた場所で待機して、僕に強化魔法を掛けてくれていた。いつもと違う動きだったが、よくやってくれたよ。


<レベルアップしました!>


 最近、レベルアップの速度が早い気がする。いまのでレベル300になった。

 スキル等は特に増えな……。



<魔力が一定値を超えました。上位種族へ進化します。体組成変更と身体組織強化により、一時的に意識が遮断する場合があります。ご注意ください>



 前のときはかなりタイムラグがあったのに、既に身体中からミシミシと音が聞こえる。

 これは、拙い。


 ギリギリのところで転移魔法に成功し、到着した先は我が家の自室だ。

 絨毯の上で倒れて動けなくなってしまった。

「ヒキュン!」

「だい、じょうぶ……眠れば……」

 ヒイロが慌てて部屋から出ていく。誰かを呼びに行ってくれたか。

 近づいてくる足音に安心してしまって、意識が遠のいていった。

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