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目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。  作者: 桐山じゃろ
第三章

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2 永久退場金髪オフショルダードレス

 服装は冒険者のときと同じでいいと言われた。

 以前イデリク村の人たちに贈ってもらった正装を着る機会がようやくできたかと思いきや、使者さん曰く「正装するとアルダ様が勘違いなさりそうですので」と止めてくれたのだ。

 それでも一応、まだあまり着ていなくて汚れの少ない、軽装なものにした。


 ランクSになってからも、チェスタのパーティと一緒にクエストへ行くことが多い。

 高危険度の討伐時によく組む、同じランクSのアンドリューには、僕の事情を話してある。

 よって最近は剣より本職である弓矢を使うことが多い。

 剣と弓矢の時の装備の大きな違いは、胸当ての素材だ。剣のときは金属、弓矢のときは革と使い分けている。

 どっちも被弾は少ないし常に防護魔法で守っているから、僕としては蒸れにくく軽い革のほうが使い勝手がいい。

 しかし見た目は重要だ。金属鎧を着けているだけで、周囲は「剣士」と認識してくれる。

 ……正直面倒くさい。もう椿木にはヨイチ=横伏藤太とバレているだろうだし、そろそろ弓矢全解禁してもいいんじゃないかな。


「ヨイチ殿、お入りください」

 僕が現実逃避していた場所は、王様の謁見室の扉の前だ。

 転移魔法で再びリートグルクを訪れたのは今朝だ。

 門に近づくなり兵士たちに囲まれて穏やかに連行された。

 城に入ると先日家に来た使者さんが出迎えてくれて、まず客室に案内された。リートグルクで過ごす間は自由に使っていいらしい。

 ヒイロは王様との謁見中、客室の一角に用意された専用スペースで待機することになった。

 ふかふかのクッションや犬用のおもちゃが過剰に溢れかえっていて、少し居心地が悪そうだ。謁見が終わったら量を調節しよう。

 僕の格好をざっと見た使者さんは、満足げに頷いた。

「では早速、謁見していただきます」

 そして今に至る。

 扉の前で待たされたのはほんの数分だ。

 両開きの扉が勝手に開いた。


 謁見の間には玉座に座る王様と、その横にミモザ色のドレスを着た金髪の女性が立っていた。

 他にフルプレートアーマーの兵士が十人と、近衛兵らしい兵士が二人。

 僕の後ろからは使者さんがついてきた。

「お呼びとあって参上しました、冒険者のヨイチです」

 跪き、使者さんが事前に教えてくれた挨拶を無事噛まずに言えた。

「よく来てくれた。楽にしてくれ」

 立ち上がり、改めて王様を見る。隣の女性と同じ金髪に碧眼で、妙な迫力のある壮年男性だ。

「冒険者としての活躍は先日この目で見た」

 見た?

「最新鋭の冒険者カードだったか。映像を見せてもらったよ」

 あー、あれかぁ。僕のことより、シアーダの所業を伝えるためのものの意味合いが強かったような。

「その節は我が姪が迷惑をかけた。本人から謝罪がしたいと言うのでこの場を設けたが……どうやら手違いがあったようだ。此度は無駄足を運ばせてすまなかった。お主には後日、詫びの品を届けよう」

 どう返事していいか教わっとけばよかった。とりあえず「はい」とだけ答えた。

「伯父様!?」

 隣の女性が大きな声を出す。努めて視界に入れないようにしていたが、やっぱりこの人アルダだ。

 あの魔物の巣の中ですらビキニアーマーなんてものを装備していた人だ。今回のドレスもスカートの裾こそ地面スレスレなほど長いものの、肩から胸元にかけてざっくり開いていて、胸の谷間が強調されている。正直こういう場でどうなの? という印象だ。

「控えよ。謝罪と聞いたから呼んだはずなのに、そなたヨイチ殿に求婚するつもりであろう?」

「ですから、謝罪の意味を込めて私が嫁ぐのです。王族である私が庶民に嫁ぐのですよ? これ以上の栄誉はないでしょうから、謝罪として最上級の……」

「あのう、いいですか?」

 王様が額に青筋立ててる。諌めようとして口を開いてくれた様子なのを、あえて遮った。

 こういうのは当事者がキッチリ言わないとダメだよね。

「迷惑です。栄誉どころか本気で迷惑です」

 周囲の兵士たちがかすかに動いた。動揺が隠し通せない、という雰囲気だ。

 門番さん達も含めて、兵士さん達には僕とアルダがいい仲だという噂でも立ってたのだろうか。

 噂を立てたのはアルダだろうけど。

「そんな、ヨイチ様!? わ、私が嫁げば地位も名誉も財産も全て……」

「貴女にそんな提案をされることすら苦痛です。財産がおありなら、あの時貴女が倒さず放置した魔物のせいで被害を被った冒険者達に金銭的な補償をしてください」

「なっ!?」

「ヨイチ殿、それはどういうことか?」

 僕は魔物の巣でのアルダの行動を、知ってる限り正直に話した。スープを強請られたことも話した。

 王様はこめかみを押さえて倒れるように玉座に沈み、兵士たちはいよいよ驚きを隠さなくなった。

「……貴様、お主が庶民と言うような者から、食事を奪おうとしたのか」

 スープの話は王様にとって初耳だったようだ。

 アルダは僕の話を物理的に遮ろうとして、王様の目配せを受けた近衛兵さん達に取り押さえられた。アルダは元とはいえ冒険者ランクAだ。結構強いはずなのに、人二人によってあっさり動けなくされている。

「あ、あの時の私は冒険者で……」

「随分と都合の良いことを言う。もういい、貴様は……。ああ、ヨイチ殿。すまぬが一旦下がってもらえるか」

「ヨイチ殿、こちらへ」


 使者さんに促されて謁見室を出ると、扉の向こうから王様の怒号が聞こえた。




 リートグルクの王様には、弟が二人いる。下の弟は王位継承権を放棄して一家臣となっていて、アルダはその娘だ。

 確かに王族と言えるが、そもそもアルダの父は問題を起こしたから継承権を失くしたのであって、放棄と言い張っているのは本人のみ。アルダは本来、王族を名乗るのも烏滸がましい立場だ。

 しかし王と上の弟にはまだ子供がおらず、王に今すぐ何かあった場合、血筋で選ぼうとすると下の弟かアルダしかいない。

 アルダは立場を盤石にするべく、庶民でも冒険者ランクSの僕との間の子なら王族に相応しいのでは、等と宣っており。


「あの、大体わかりましたので、そのあたりで」

 客室で使者さんから事情説明をされるも、途中で遮った。

 つまりアルダが僕に恋心を抱いたっていうのは、後付の理由なのだろう。

 どんな理由であれ、アルダなんかと一緒になるなんて御免被りたい。

 そもそも僕はまだ十七歳だ。日本じゃ結婚できないぞ。

「しかしまあ、あの様子ですとアルダ様はもう様付けは必要なくなりそうですね」

「というと?」

「我が王は温厚で知られる人物ですが、権威を笠に着ることや不誠実な行為を嫌悪するお方です。おそらく今頃、王族から除籍されているでしょう。そもそも、謁見の間での偽証は重罪です」

 アルダは既に破滅の道を辿っていたようだ。

「それってアルダが僕を恨んだりしませんか」

「心配要らぬ。あやつは既に幽閉した」

 客室の扉がいつのまにか開いていて、そこに王様が立っていた。両サイドに兵士と、後ろにはワゴンを押す侍女さん達が数名。

 使者さんが飛び上がるように立ち上がったので、僕も続いて立つ。

「よい、座っておれ」

 王様が歩くだけで、後ろからやってきた侍女さん達が絶妙なタイミングで椅子を用意し引いて座らせ、テーブルの上の紅茶セットが片付けられてまたたく間に別のティーセットとケーキスタンドに軽食が揃えられた。

 うちのメイドさん達はいつもキビキビ働いてくれて凄いと思っていたけど、王様付きは動きが別次元だ。完璧すぎてすべての動作を無音で行うのが逆に怖い。整えた後、壁際で完璧に気配を消して控えているのも怖い。うちのメイドさん達には真似しないでほしい。


「さて改めて。此度は申し訳なかったな。これは王としてではなく、姪の伯父としての謝罪だ」

 そう言って王様が頭を下げた。

「えっと、はい。わかりました」

 やっぱりどう対応していいかわからず、ごにょごにょしてしまう。

 しかし王様も周りの人も特に気にしていないようだ。

「そなたの言っていたアルダによる被害の補填は、アルダの私財から冒険者ギルド経由で各自へ渡るよう手配しておく。他に何ぞ、被害はなかったか?」

「ありません」

 一瞬考えを巡らせたけれど、そもそも僕自身がアルダと直接接触したのは一回きりだ。

「我が王、幽閉の期間はいかほどで」

「無論、生涯じゃ。あれには幾度もやり直しの機会を与えたが、自ら尽く潰しよった。その上、未だに自身を過大評価しておる始末。最早、外に出しておくこと自体が王家の恥よ」

 生涯幽閉……。僕がぼんやりしていると、王様が「そなたが気に病むことではない」と言ってくれた。

「気になるなら面会は可能だが」

「いいえ、しません」

「だろうの。さあ、儂の休息時間に少し付き合ってもらえるか。ん? この犬……いや、狼は?」

「僕の使い魔です。僕の分のお菓子を分けてもいいですか?」

「それには及ばぬ。狼の分を用意させよう」

 王様がそう言った途端、また侍女さん達が音もなくヒイロの前にお茶以外の一式をトレイに並べて置いてくれた。

「ヒキュン!」

 ヒイロは王様にお礼を言うと、猛然と食べ始めた。ああ、口の周りがクリームまみれになってるよ。

「ありがとうございます。ヒイロ、もうちょっと遠慮とか……」

「はっはっは、可愛いのう。後で触れさせてもらえぬか」


 その後は王様と雑談タイムに入った。モルイの町の様子とか、魔物の巣の話を特に訊かれた。

 僕の怪しい丁寧語口調にも、王様は「ここは非公式の場であるから、気にせず」と寛容で、気楽に過ごせた。

 この世界の王族にも色々いるんだなぁ。


 王様の休息時間が終わり近くになって、はじめて冒険者ギルドの仕事の話になった。

「そもそも呼んだ理由がアルダの狂言であったからな。無理に仕事をせずとも良い、と言いたいところなのだが……」

 侍女さん達がテーブルの上を片付ける。何の合図もなかったのに、どういう訓練を積んだらこんな動きができるのだろうか。

 次に使者さんがテーブルの上に地図を広げた。城や町、山河の位置からして、リートグルク周辺図のようだ。端のほうにスタグハッシュらしき城もある。


「このところ、スタグハッシュとアマダン周辺の瘴気が濃く魔物が多い」

 リートグルクから南東にあるスタグハッシュと、その北にある城――アマダンを順に指でなぞりながら、王様が話し出す。

「その影響か我が国の近くにも高危険度の魔物が頻出しておる。そなたは魔力量が多く、転移魔法を日に幾度も使えるほどと聞いた。きっかけはアレであったが……三ヶ月、その力を貸してくれぬか」


 アルダのことは片付いたから、この国に滞在することに何の憂いもない。

 でもモルイの家を長期間空けるのは心配だ。

 呼ばれたらすぐに転移魔法で来るという他にも色々とつけた条件を承諾してもらい、王様の依頼を請けることにした。

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