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目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。  作者: 桐山じゃろ
第二章

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7 暫定措置

 巣に潜りはじめて四日目、四十五階層目に到達した。

 そこで危険度Bの魔物とかち合ってしまった。


 仲間たちには僕の本名がトウタであることを伝えた。

 よって僕は今、何の憂いもなく弓矢を使っている。

 アトワに襲いかかろうとした危険度Bの魔物、巨大な眼(ビボルダー)を難なく射貫く。

 地に落ちた巨大な眼は素材にならない。ヒイロが口から聖なる光を発して消滅させてくれた。

「助かった、ヨイチ、ヒイロ」

 アトワは葛藤と長考の末、ヒイロをパーティの仲間のペットと扱うことにやっと納得した。

「まだいるぞ、気を抜くな」

 チェスタの叱咤で僕とアトワは他の魔物に弓矢と魔法を向けた。


 四十五階層目は、僕が五階層の巣でも見た魔物だらけの大部屋になっていた。

 危険度Bがうじゃうじゃ棲息しているから、ランクCのアトワとキュアンにとってはオーバーワークだ。

 退くために邪魔な魔物だけ討伐し、四十四階層へと戻った。


「最初に話した通り、ここからはヨイチと、他のランクAの仕事だが……大丈夫か?」

「やるしかないからね。頑張るよ」

「そういえばアルダを見なかったわね。どこかで追い抜いたのかしら」

 キュアンが首をかしげる。

「疲労とアイテム不足で上に戻ったらしいぞ」

 アトワが冒険者カードで最新情報をチェックしながら教えてくれた。

 本当に勝手だな、あの人は。

「じゃあ人数足りないじゃない。どうするのよ」

「他のランクAが来るのを待つとなると、また無駄な待ち時間が増えるな」

 チェスタがため息をつく。と、チェスタの冒険者カードが何かを伝えるように震えた。


「なんだ? あっ!」

「どうした?」

 アトワが冒険者カードを覗き込むと、チェスタと顔を合わせ、二人でハイタッチした。

「ヨイチ、俺もついていくことになった」

 チェスタが笑顔で僕に冒険者カードを見せてくれた。


『ランクB冒険者チェスタを、暫定ランクAとする』


 他には、チェスタは巣での活躍次第で正式にランクAへの昇格もありうることや、勝手な行動をして戦列を乱したアルダのランク降格という文章が並んでいた。


「やったじゃない、チェスタ! すごいすごい!」

 キュアンも大喜びでチェスタにハイタッチする。

「おめでとう」

 僕も片手を挙げると、景気よくパシンと叩かれた。

 ヒイロはチェスタの足元をぐるぐる周る。

「ヒイロが『よかったな』って、どうして上から目線なんだよ」

 僕がヒイロの通訳とツッコミをすると、チェスタは照れくさそうに、アトワとキュアンは声を上げて笑った。


 ランクAたちの到着を待つ間、まずアトワとキュアンから食料や回復薬を、二人が上へ帰還するために必要な分以外を受け取った。

 それからアトワとキュアンに仮眠をとってもらい、交代で僕とチェスタが仮眠する。

 目覚めると、ランクAたちが目の前にいた。



「起き抜けに忙しなくて申し訳ない、マイルトといいます。よろしくお願いします」

 火炎魔法の使い手だというマイルトは、首や耳、手足のあちこちにじゃらじゃらとアクセサリーをつけた細身の男だ。

 アクセサリーからは石にしては強めの魔力を感じるから、魔法の掛かった防具なのだろう。

 魔物を燃やすのが好きだという前情報がなければ、物腰の低い穏やかそうな人に見えた。


 もう一人の男性は縦にも横にも大きい。筋肉ではなく脂肪の方で。

 金属製の鎧を着込んでいるから、力はあるのだろうけど。

 ふくよかな男性は僕とマイルトが手を離すと、雑に割り込んできた。

「シアーダだ。んで、あとひとりどうするんだ?」

 シアーダは僕とおざなりに握手をして、あたりを見回す。視界にはチェスタ達がいるのだけど、見えていないかのように振るっている。

「先程俺が、暫定ランクAとして同行することになった。チェスタという。宜しく頼む」

 チェスタはきっちり挨拶してマイルトとは友好的に握手をした。

「せいぜい足を引っ張るなよ、暫定A」

 シアーダはチェスタの手を触ろうともせず、チェスタは肩をすくめた。

「努力するよ」

 僕が視線を送ると、気づいたチェスタは「心配するな」と眼で語った。




 アトワとキュアンの帰還を見送ってから、ランクAパーティは四十五階層目に突入した。


 先に少し減らしたとはいえ、やはり魔物の数はかなり多い。

 新しく来たランクAの二人、特にシアーダの方は信用ならないから、僕は再び剣を握っている。


「巣は火炎魔法を乱射出来ないのが寂しいですね」

 マイルトが穏やかな口調からは想像もつかない程激烈な火炎魔法を放つ。

 一発だけで十体程が消し炭になった。

「チッ! 炭にしやがって!」

 シアーダが前に躍り出て、手当たりしだいに魔物を斬り倒す。素材を気にする割に剣閃は雑で、革や毛皮は売れそうにない程ボロボロになっていく。

「ヨイチ、ヒイロは控えさせておけ」

 チェスタに小声で耳打ちされて頷き、ヒイロに待機命令を出す。ヒイロは大人しく従ってくれた。

「あの二人よりヨイチのほうが実力は上だな。だが、悪いが支援を優先してくれるか」

「わかった」

 マイルトは攻撃魔法一辺倒で、回復も支援も行えないと聞いている。シアーダはそもそも魔法が使えない。

 僕も支援魔法はアトワに少し教えてもらった程度だけど、無いよりマシだろう。


 三人に身体強化魔法、物理防御結界、魔法防御結界を施してから、僕自身も魔物を倒して回った。



 三十分ほどで最後の一体にチェスタが止めを刺した。

「はー、やっと終わったか」

 シアーダが気怠げに立ち上がる。


 魔物を討伐しはじめて一時間でマイルトは魔力が尽き、シアーダも続くように「俺は役目を果たしたからな!」とすぐに壁際に座り込んでしまった。

 その時点で魔物の数は半分も減っていなかった。

 僕はチェスタに支援魔法と治癒魔法を掛け続けながら、魔物の大半を請け負った。

 チェスタはヘトヘトになりながらも、最後まで戦った。

「申し訳ない。こんなに多くの魔物と戦うのははじめてで、ペース配分が……私はまだまだ未熟でした」

 マイルトは僕とチェスタに平謝りし、チェスタには体力を回復するという貴重なポーションを譲っていた。

 怪我を癒やすのは魔法ですぐできる上、治癒ポーションも安価で出回っている。体力というのが厄介で、魔法で回復できない上にポーションは高価だ。誰でも一晩ぐっすり眠れば回復するものだからと、ポーションの開発自体が後回しになっているのが原因らしい。

 巣を出たらローズ経由でイネアルさんに頼んでみようかな。必要な素材は僕が探すから、って。


 本当はすぐにでも四十六階層目へ進みたかったのだけど、シアーダが駄々をこねたので、一旦休憩することになった。

 チェスタが無言で「本当にアイツがランクAなのか」と訴えている。僕もそう思う。


 休憩中のお茶はマイルトが淹れてくれた。少量の魔力回復効果のあるハーブティーだそうで、独特の味と酸味と苦味があって……正直あまり美味しくない。しかし魔力はちゃんと回復した。

「うわ……」

 一口飲んだ僕が思わず言ってしまうと、マイルトは困ったように笑った。

「私は慣れましたが、はじめての人は戸惑いますよね。他の葉や甘味を混ぜると魔力回復効果が減じてしまうのですよ」

「それは難儀な」

「確かにすごい味だな。ご馳走様」

 魔力回復の必要がないはずのチェスタが、ぐいと一息に飲み干し、顔をしかめつつもちゃんとお礼を言う。チェスタは食べ物を粗末にするのを嫌うのだ。僕もなんとか飲みきった。

 会話を聞いていたシアーダはあからさまに嫌そうな顔をして、一口も飲まなかった。

「では、私の魔力も回復しましたし、参りましょうか」

 まだ休みたそうなシアーダの無言の抵抗に、マイルトはニコリと笑みを浮かべ問答無用で立ち上がるよう促した。




「核はどこだよ。ったく、こんな深いなんて聞いてねぇぞ」

 四十六階層目の通路を、シアーダは延々と悪態をつきながら最後尾をのそのそ歩いている。

 先頭を歩くのは僕とマイルト。真ん中がチェスタとヒイロ。

 チェスタは体力回復ポーションを飲んだものの万全ではないということで、しばらくは戦闘を回避することになった。

 ヒイロは戦力に数えていない。僕の使い魔で、僕に強化魔法を常時付与していることになっている。

 シアーダは「俺は奥の手だからな」「俺が不意打ちを防いでいるんだぞ」と謎の言い訳をして何もしていない。

 よって魔物は[気配察知]スキルのあるマイルトが探知し、体力魔力共に余裕のある僕が相手をしている。

 邪魔されるよりはマシかな。


「ギルドから連絡だ。少し止まって」

 マイルトが立ち止まり、冒険者カードを見つめる。念の為に僕の方も見るけれど、特に連絡事項は無い。チェスタも同じようだ。シアーダは歩いているだけなのに大量の汗をかいていて、冒険者カードを手にしようともしない。

「……他のランクAの到着が遅れます。上層の魔物の再活性化が予想より早いようですね」

「うげぇ」

 シアーダが心底面倒くさそうに呻く。

「つーことは、とっとと核壊せ、だろ?」

「はい。マップを積極的に埋めるのは諦めて、階段を見つけたらすぐに降りましょう」

 僕たちが駆け足になったことで、シアーダも渋々早足になった。




 四十六階層目から四十八階層目までは、すぐに階段を見つけることができた。

 四十八階層目も駆け足で進む中、シアーダが再び駄々をこねた。

「も、もう無理だ! 俺は休むぞ!」

 本当に駄々っ子のように、その場で大の字に寝転がってしまった。

 僕とマイルトは顔を見合わせ、マイルトがため息とともに首を横に振った。

「……仕方ありませんね。一時間だけ休みましょう」

 チェスタがホッとした表情になる。何も言わなかったけど、かなり限界が近かったのだろう。

「チェスタ、こっち」

 ヒイロがチェスタをこっそり呼べと言うので、僕がヒイロの側に立ってチェスタを手招きした。

 不思議そうな顔をするチェスタの足に、ヒイロの前足がぺそりと乗る。

 一瞬だけ、ヒイロから純白の魔力がチェスタに流れていったように見えた。

「お? ……これは……」

「この前の残りだよ。皆さんもどうぞ」

 僕はチェスタに、マジックボックスから出したパンを出して押し付け、シアーダとマイルトに見えない位置で口に指を一本立てた。

「あ、ああ、ありがとう」

 察してくれたチェスタは、パンに対してお礼を言った。

「パンか。気が利くじゃねぇか」

「ありがとうございます。……うん、美味しいパンですね」

 シアーダは尊大に、マイルトはニコニコとパンを受け取って食べた。

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