異世界サバイバルはほどほどに、
———アイネス視点———
鈍った。あの瞬間私の剣先が。
最初から指示は出ていた。
神獣は殺さねばならなかった。
ギルドメンバー共に「神獣」の事は伝えず調査してさせていたが、ギルドであのデタラメな魔力を感じた時、神獣だと確信した。
確信していた。
だが、話が通じる。
容姿は幼女。
まるで危険性を感じない。
幼い頃から聞かされてきた神獣とは全く違うものだった。
だが、神獣はあってはならない。
神獣が現れれば、必ず戦争が起こる。
人々を拐かし、その力を使って戦乱を巻き起こす。
だが私は、その火種を世に解き放ってしまった。
あまつさえ、殺さずに済んで胸を撫で下ろしてしまった。
…あれだけ機会がありながら結構一太刀も神獣にあたえられなかったのだ。
どんな処分が下るだろうか。
独り身でよかった。悲しむ者がいない。
——-葵視点——-
自分だけのハーレムを作る?
童貞卒業?
それどころじゃない…。
まさか、追われる事になるなんて。
最初の頃よりハードだ。
森に潜んでいても追手が来る。同じ場所に居続けることなんてできない。
消音スキルはハスベルに教えてもらって魔力のカモフラージュは出来る様になったが、このままだとまずい。
カモフラージュしてると魔物が寄ってくる。
今まで魔物が寄ってこなかったのは神獣の私の魔力を感じていたのかもしれない。
追手がどういう風に私達を探しているかもわからないが、カモフラージュはやっておいた方が良いだろう。
ただ、いくら逃げ切れてもこれではこちらが消耗してしまう。
とにかく、このままではまずい。
私は別にサバイバルは好きじゃない。
アイネスのうちに泊まった時は最高だった。街で暮らしたい。
どうしたものか、私たちの顔は割れているのだろうか…。
「はら…へったなぁ」
「そうだね…ハスベル…」
まともなものを食べていない。
諦めて自首したらなんか食えるかな。
いや、私は首が飛ぶな、今度こそ。
めし、めし…。
私とハスベルは食事の事しか考えていない。
そんな中、良い香りがする。
一目散に走っていくとそこにはグツグツと煮えたシチューが!
「ガブガブガブ」
「ずるずるずるずるずるちゅー」
「…何やっとんじゃおみゃーらー!!」
—————
「ずるずるずるずるずるちゅーちゅー」
「まったく!こんな可愛い子をここまで腹を空かせるとはどういう事だ!」
「はい、すいません…ズルズル」
「お前は説教の後で食わんか!!!」
「まぁまぁいいじゃないですかお爺さん、お食事の後でも」
田舎暮らしの老夫婦クレ・ロロさんクレ・ララさんのお家にお邪魔した。
私達がむしゃぶりついたシチューはロロお爺さんのだったのだ。
家にまで連れてきてもらって、スープをご馳走になってる。
ちなみにさっきのシチューは煮込んでる途中だったが、馬車でここにくるまでの間、私とハスベルで完食した。
「親御さん達はどうしたんじゃ。あんな場所に居て危なかろうて」
「親はいません…」
「おらんて…そうか、すまん事を聞いた」
そういう感じではないんだが、察してくれた。
「今日は、いや、1日と言わずしばらくウチでゆっくりして行きなさい。」
優しい。だが、怖い。
アイネスもそうだったからだ。
この世界の人達がどれだけ神獣を嫌っているか分からない。
何より追手が来るだろう。
今は大丈夫でもいずれ…。
「ありがとうおじいちゃん!ズルズル」
「おぉ、元気がいっぱいじゃのぉ。いっぱい食べてよく育つんじゃよ」
だが!空腹には勝てない!
今はお腹いっぱい食べて寝たい!
それだけなんだ!
「ええ子じゃええ子じゃ」
「ほんと、お人形さんみたいねぇ」
おじいちゃん達めっちゃ頭撫でてくる。
まぁいいさ、今日の葵ちゃんは上機嫌だ。好きなだけ撫でな!
———-
翌日、ハスベルはロロ爺さんの畑仕事を手伝わされていた。
私はララ婆さんの家事の手伝い…をする訳でもなく。
家の窓からハスベル達を眺めていた。
ここはいい。追われている事を忘れていられる。
だが、そう長くはないだろう。
そしてイマイチ魔力を活用できていない私。
ならば今の時間を有効に使わねばなるまい。
新しいスキルの習得、いや開発だ。
今まではいつも土壇場で新しいスキルを使ってきたが、どれも強大な魔力を放出して無理やり切り抜けてきた感じだ。
これからはその場に適した魔術で切り抜けていきたい。
外で練習するか。
「顕現せよ!聖剣エクスカリバー!」
右手に意識を集中させると思った通りの剣が現れた。
これは前世私がやったことのあるゲーム「剣聖の道2」でクリア後にもらえるチートアイテム。
私がこれを忠実に再現できているのであれば、この剣に斬れぬものはない。
と思ったが、出てすぐに地面に突き刺さって抜けなくなった。
「剣聖の道2」のエクスカリバーは主人公しか装備できなかったな。これじゃ使えない。
剣もいいが、エクスカリバーみたいなチート機能付きじゃないと剣術じゃ勝てる気がしない。
そうだ、銃で良いじゃないか、FPSなら馴染みがある。
だが、掛け声とかあったっけ。
取り敢えず手はかざす、
「ペガサスマンヒアー!」
ピコン、とハンドガンが現れた。ヒアーで行けたぞ。
実物の銃とかはリロードの仕方難しそうだしイメージしづらいが、これはゲームオリジナルだ。ふわっといける。
ドンッ!
「ギャ!」
適当に試し撃ちしたら尻餅をついた。
反動が凄い、こんなの照準あわせながら連発とか無理ゲーじゃないか?
しっかり銃身を抑えて撃つ。
これなら吹き飛ぶことはない。
HGは便利だ。
こんな中世ローマのような異世界に前世の飛道具を持ってきたら無双だろう。
魔法を除いては。
いや、剣術でも弾かれるかも、不安だな。
イマイチいいのが思いつかないな。
どんな状況下でも無双できるような武器や魔術はないだろうか。
あーーー。
こういうの苦手なんだよな。
前世でもサブカル系は好きだったけど、技名とか武器名とか逐一覚える程熱はなくて、
だから同じアニメとか見てる奴がいても、会話なかなか盛り上がらないんだよね。
性格的には陰キャだったのに、非オタみたいな感じだから友達が少ないという…。
何か悲しくなってきたな。
少なかっただけなんだ。居たんだよ友達は。
高校卒業してから誰とも遊んでないが…。
だめだ。思い出したらキリが無い。
私の反芻思考が止まらない。
もう今日はスキルの開発はやめとくか、HG生成出来たら上等でしょ。
ハスベルはお爺さんのお手伝い。
私はスキルの開発という名目でぼーっとしていた。
そんな生活を何日が過ごした。
————
夕食時
クレ老夫婦とハスベルと私。4人で食卓につく。
夕食はよく分からない肉を焼いた奴と野菜炒め、それとパンが少しずつだった。
ありがたい。屋根のある場所、風が凌げてご飯まで頂ける。
ニート時代を思い出すね。
その日の夜。
こっそりハスベルに起こされた。
「おい葵…起きろ」
「ん…何」
「ちょっとついて来てくれ」
「トイレは一人で行って…」
「俺が一度でもお前に連れションを頼んだことがあるか?」
外にまで出された。なんだ、何かあったのか?まさかクレ老夫婦にまで裏切られることに?
「ここに長いは出来ない。去るぞ葵」
「そんな…まさか…」
「あぁ、クレ老夫婦は自分たちの生活費だけで精一杯だ。とても俺達が長居できる状況じゃない。」
ああ、てっきり裏切られてギルドに送り飛ばされる手筈でもされてるのかと思った。
「食料は狩とかで用意する事もできるんだが、パンとかは別だ。
畑で作った野菜とかをたまに街へ持って行ってお金を稼いでいる。
当たり前だが、俺たち二人分だとだいぶキツそうだ。」
「確かに、でも…」
楽なんだよなぁ。
辛い野宿生活の後に、ニートを思い出すような環境。正直、クレ老夫婦に甘えたい。
「わかった。身支度をしよう。」
即決した。考えれば考えるほど思考が甘い方へ行きそうだったからな。
「嫌そうなら葵だけでも残して、と思ったが、そういうと思ったよ。
まぁ、こんな小さい子に野宿させるのもどうかと思うが…」
「ハスベルが私に楽させてくれればいいんだよ」
「お前…俺よりしっかりしてるくせに…」
そうは思わんがね。見た目ほど精神年齢は若くないとはいえ、前世じゃただのニートだし。
「ちょっとまたんかぃ!!!」
和気藹々と話していると、ロロ爺さんに見つかった。
「お爺ちゃん、聞いてたの?」
「わしは早起きなんじゃ!」
まだ日は出ていない。起きてくる時間ではないが…。
「たしかにハスベル君の言う通りじゃ、ワシらにそんな甲斐性はない!
じゃが少しは相談せえ!」
「相談…?」
「そうじゃ、ワシの子供にクレ・ポララという子がおっての。その子は今、『ミリアム』という街で孤児院をやっている。
出て行くなら、朝になってからその子の元を訪ねるのがよいじゃろうて」
お爺ちゃん達も、生活費問題は分かっていたようだ。とちるまえでよかった。
朝、普通に見送ってもらった。
とても優しい老夫婦だった。私は去る前に2人に思い切りハグをした。