アイネス・クロフォード
「どう?おいしい?」
「う、うん。おいしい」
アイネスは朝ご飯まできっちり作ってくれた。
そこまでして貰うつもりはなかったのだが、すごく世話を焼いてくれる。
というより、昨日の夕飯の時もそうだったが、ずっと私の顔を覗いている。
「おいしいい?」
「う、うん…」
だから何なんだ。
好意を持ってくれるのはありがたいが少々行きすぎてる気がする。
——
朝ご飯を済ませると私達はギルドへと向かった。
私の魔力を測定するそうだ。
アイネスに前の魔術の説明をしたところ。そういう事となった。
私としても自分の力がどの程度なのかは知っておきたい。
「これが体内魔力測定器よ、初心者冒険者はこれで測定して自分の役職を決めるときの判断基準にしてるのよ」
どう見ても血圧計です。
言われた通り腕を突っ込むと、体内魔力測定装置の中でふくろが膨らみ、私の手首まわりが圧迫される。
どう考えても血圧計です。
「ピピピッ」
「…!嘘…体内魔力…999!」
「999って凄いんですか?」
「凄いもなにも、この測定器の上限よ!」
ほほう、やはり異世界に来たのだ。私には強力な魔力が秘められているのだ。
地球人は異世界に行くとみんな特別な才能を得れるんだよ。
スーパー地球人バンザイ。
「アイネスはいくつくらいなの?」
「私は172.5よ」
身長みたいな数値だな。
けど上限か、はっきり数字で見たかったな。
「ピピピッ」
「あ!私もなった!みてみてー!」
詩織が勝手に魔力を測っていた。
「998.8…壊れてるわね、こっちで測ってみなさい、詩織、こっちに腕を入れて」
なんだ故障か?
「ピピピッ」
「63.8…まぁ凄いじゃない!」
「なに?すごいの?」
「ええ、その歳でこの数値は凄いわ!さすが名家の子ね」
華咲家ってそんな凄いのか、
「ハスベル君も測ってみなさい」
「…はい」
「ん?」
「ピピピッ」
「64.2……冒険者をするにはその歳でこれだとちょっと厳しいわね…」
「…もう測ったことあるんで知ってます」
あぁ、しおりのあの数値の後だったから嫌な顔してたのか、可哀想に。
フォローしてやろう。
「魔力が低ければ剣士とかにまわったらいいんじゃないの?」
「剣士でも魔力はある程度は必要なの、魔力は力の源、魔術師とかと違って多彩なスキルのための魔力はいらないけど、剣術にも魔力を使う事で技量に磨きがかかるわ、剣士の冒険者は大抵100前後くらいよ。」
おっと、意図せずしてとどめを刺してしまった。
さて、次こそ私の数値がわかるぞ。
「ピピピッ」
「999.9…」
その時、その場にいる全員が思った。
あれ?おかしくね?
あれ?まえの測定装置壊れたというより、葵の魔力で狂ったんじゃね?と。
そういう事だ。
スーパー地球人バンザイ。
「あなた…人間じゃないわね」
アイネスが唐突に口を開いた。
「普通の人間はあっても魔力300までよ、それ以上の数値は体が耐えられない…これで確信が得られたわ」
「なにを訳のわからん事を…」
刹那、首元にアイネスの一太刀が飛んできた。
私が認識するよりも早く、私の体が後ろに吹き飛ばされる。
私の前にハスベルが立っていた。
「ほう、よく動けたな。君には戦闘センスはないと思ってたんだが」
「えぇまぁ、ギルド側の人間は常々信用してないんで」
「信用してない…か。それは残念だ」
「思ってもいない事を…」
「何がどうなって…アイネス…」
「葵、逃げるぞ」
「え?」
「逃げられはしない。ギルド周辺に警備が敷いてある。貴様らに万一の可能性もない」
「どうして急にそんな、アイネス!」
ギルド内に続々と武装した兵士が入ってきた。
マジだこれ。
「詩織様を保護しろ。彼女は華咲家の御子息だ。」
「なにしてるのアイネス!葵は仲間でしょ!や、やめて離して!葵助けて!」
何言ってるんだ。
よく分からんが、この状況で助けて欲しいのは私達だ。
「こいつは人ではありません。天災とも言われる「神獣」の類です」
「神獣…」
「王都の研究機関から連絡があった。イニシエの祠を中心に大規模な空間魔力の低下が確認されたと。
つまり、神獣出現の前触れだ」
「それで、怪しいというだけで、幼女を手にかけると…ギルドはやる事が立派ですね」
「幼女ではない、人の姿をした害獣だ。
予め駆除するのが役目。
もっとも、君も別件で拘束させて貰うがね。ハスベル君。」
困惑しているとハスベルが私に手を伸ばした。
「逃げるぞ葵、捕まれ!」
私はとっさに手を握った。
「消音!!!」
「何!?」
ザンッ!
アイネスの斬撃が私達のすぐ近くの床を削り飛ばした。
「あの魔力量で上位魔術が使えるのか!出入り口を塞げ!早くしろ!」
グググ…ガシャン!
ドアというドアが閉まる。
「大丈夫、裏口がある」
ハスベルと共に裏口へ向かう。
が、裏口にもしっかり兵が回っていた。
「どうする?ハスベル」
「…葵の魔術で何とかならねぇ?」
結局強行突破じゃねぇか!
まぁ、出来そうだけどな。
私の魔力は人の何倍もあるんだ。
あとはイメージさえできれば、場当たり的だが、ここは…。
「吹き荒べ!蒼波空烈風!!」
ドゴォン!
イタイ言葉を並べながら大きく息を吐くと、扉の前の兵たちが扉ごとぶっ飛んだ。
「裏で何か起きたぞ!急げ!」
その後はハスベルと一緒にひたすら走った。
街を抜け、川を越え、見慣れない森の奥深くに着いた時、やっとハスベルは立ち止まった。
「はぁ…はぁ…ここまで来ればもういいだろ」
「何でこんなことに…詩織を置いてきちゃったし」
「詩織はとりあえず大丈夫だろう。大事になったな」
「わたしが神獣って、一体何なの?話すら聞いて貰えないなんて」
「神獣っていうのはバカ強い魔物だ。災害扱いされてる厄介者で、今までの歴史の中で色々な神獣と呼ばれるものが出てきてるんだが、どいつも悪さばかりするやばい奴って事さ」
「そんな、私そんなやばい奴に見える?」
「いや、俺はそうは思わないよ。体内魔力からして、神獣に間違いないとは思うけどな。」
私が、神獣…。人間に生まれ変わってた訳じゃなかったのか…。
「でも、人間の姿をして人の言葉も話せてるのに…」
「過去に人の姿をして王都を半壊までさせた神獣がいるんだ。歴史上最大の惨劇として誰もが知ってる」
「じゃあ、私がみんなを騙して悪さをしようとしてるって思われてるの?」
「そういう事だ」
「そんな…。
ハスベルはどうして私を助けてくれたの?」
「まぁ仲間だからな」
「神獣だとしても?他の人みたいに騙されてるかもって怖くない?」
「…まぁその時はその時だな、
葵ともそれなりにやってきたからな。」
「ハスベルぅ…」
なんていいやつなんだ。
こんなに漢気に溢れるやつだったとは。
「だけどマジで焦ったな、前置きなく切り掛かられてたら葵の首ふっとんだぞ」
「私は全く動けなかったよ…アイネス」
「葵は会って1日しか話してない相手に懐きすぎだろ〜。あのおじさんどもの頭だからなぁ」
アイネス…あいつ私を神獣と踏んで観察してやがったのか…
こんな事になるならあの乳もげるまで揉めばよかった。
「晴れて俺達は追われる身になった訳だが…葵の体内魔力量は桁違いだ。
このままだと見つかりやすくなる。」
「体内魔力は機械を使わないと分からないんじゃないの?」
「細かい数値なら測る必要があるが、葵ほどあると分かりやすすぎるな。もっとも、索敵能力のある奴じゃないと体内魔力まで気付かれることはないが…
そこでだ、葵には消音スキルを覚えてもらう。
下位まででいい。体内魔力を索敵されないようにする。」
消音スキル便利だな。
だがなるほど、このままだとすぐ追手に見つかりそうだ。素直にハスベルに教えて貰おう。