ギルド「ヤニダニ」
すごいすごいぞ!私のイメージした通りに魔術が発動した。というか前世でやったゲームの技そのままだ。
要はどこまで想像できているかなのだ。
そして、下校時に唱えまくって覚えてたエクスネイションは使えたのだ。あの頃の自分に見せてやりたい。
私の魔術を見たハスベルの反応は驚愕でも畏怖でもなかった。
「俺の家がぁぁぁぁぁあ”あーーーっ!」
すまん。
———ギルド「ヤニダニ」会議室にて———
「街の外でおきたあの大きな魔術のことだが」
幾人かのギルドメンバーが鎮座するなか、風格ある女性が口を開いた。
「あの魔術はなんだ?うちの冒険者にあんな魔術使えるものがいたか?」
会議室が騒つく。
「あれはおそらく、炎魔術でしょう。それも上位の。」
「いやまて、炎魔術にあんなものは存在しない!」
「うむ、あれは雷魔術のものですじゃ。上位くらいの」
「まてまて、雷魔術にもそんなものは存在しない!」
「じゃあ何魔術じゃ?いってみい」
「え、んー闇魔術辺りじゃないか?空曇ってたし」
「闇魔術(笑) これだからニワカは…」
「なんだと…!」
女性は大きくため息をついた。
「(はぁ。これだから地方ギルドは嫌なのよ。というか、こんなバカばっかりなのは地方というよりウチだけかしら…。)」
「だから炎魔術!」
「かみなりじゃ!」
「どっちでもないだろ!」
「うるさぁぁぁぁぁい!!!」
凛とした女性の声が響く。
「何魔術とかどうでもいいのよ!私はあの魔術を使えるものがウチのギルドにいるのかと聞いたのよ!」
「…いません」
「最初からそう言え!ばか!」
叱られて涙目になるギルドメンバーを見て、女性はまた一つため息をついた。
そんな会議の中、横にいたメイドが一言。
「そういえば最近、家出少年のハスベルが妙な幼女を連れてクエストを受けていると噂になってますよ」
「妙な幼女…?」
このタイミングでその噂、明らかに怪しい。そしてその話がギルドメンバーからではなく何故メイドからなのか、女性は最後に大きくため息をついた。
———葵視点———
「なんで的をウチにするんだ…」
ごめんて。
ずっとハスベルはグチグチ言っていた。もちろん私が悪いんだが、ちょっと諄い。
こうなったらこうするしかない。
「ハスベルぅ…ごめんねっ?」
上目遣いで、手を合わせながら懇願するように謝った。自分の顔面偏差値は把握済みだ。
「…別にいいけどさ」
いいわけないんだけどな。許された。
「やっぱり凄い、凄いわ!葵は天才だよ!」
詩織は一人でずっとはしゃいでいた。こいつの能天気さが腹立つ。
ので、私はこいつの胸を揉む。
最近は慣れたのか、照れながらも抵抗が弱い。胸はまだまだ小さいので揉んでる感じはないが、とにかく揉む。
イチャイチャしてるとハスベルの視線に気付いた。いやらしい目をしてらっしゃる。
まぁいいさ、これも「詫び」だ。
だがどうしたものか、私たちの寝る場所は爆散した訳だが。
詩織が街を怖がっているので馬小屋は都合が良かったが、私もスキルを使えるようだし、これからは私個人でも金は稼げるだろう。
前世では働いたことなんてなかったが、一応成人だったんだ。
結局、街の城壁の中で宿をとることにした。
部屋は一人部屋なのだが、まぁいいだろう。一か月で3Gだった。残りは40Sちょいか…
部屋は狭い、3人だともっと狭い。だがハスベルは結構嬉しそうだった。
詩織は前ほど怯えてはいなかったが、私の体にずっとしがみついていた。頭を撫でてやると少し落ち着く。
夜は3人川の字になった。馬小屋より数倍寝心地がいい。私達はすぐに眠りについた。
昼前まで眠っていた。子供だからか、やたら睡眠が長い気がする。詩織に両手両足で抱きつかれていた。よくこの状態で眠れたものだ。詩織はまだ寝ている。起こさないでやろう。
ハスベルが部屋の前で誰かと話している。
だれだ?
「いや、いますけど…」
「ギルドに冒険者登録してないだろ」
「まだ未成年ですし…」
「ここも一人部屋なのに3人とはどういう事だね」
「いや、宿主に話は通してますから」
ハスベルがたじたじだ。大人3人に囲まれて何か話している。
「ハスベル、どうしたの?」
「あ、起きたのか葵。ちょっとまってくれ」
相手3人はみんな中年のおじさんだった。私の顔を見るなり、ニチャァと気持ち悪い笑みを浮かべた。
「でゅふっ、まぁそんな事はいいんだ。ハスベル君。とにかく来たまえ、今回の件、ギルド本部できっちり話を聞こうじゃないか」
「話って、もう全部答えたじゃないですか!」
おじさん3人は私とハスベルを無理やり連行した。私だけおじさん2人に両側から腕を掴まれている。普通ハスベルだろ。やけに手が汗ばんでて気持ち悪い。
あれ?詩織は?
あいつだけ部屋で寝たまんまだ…。