馬車旅
自分で読み返してたら続きが読みたくなった
「どう?解けそう?」
「んんん、ちょっと文字が小さいですねぇ!もっと近づいて見ないと!」
ぐい!と体を寄せてくるアリア。
「すぅぅぅはぁぁ〜すぅぅぅはぁぁ〜」
「ちょっとアリア。鼻息すごい…」
「葵様の首筋、いい匂いする…」
「アリア…チョーカーの解除を…」
ペロンっ
「ひいぃぃやぁぁっはっはっは!!
アリア!解除!お願いだから解除に取り掛かって!」
「その前に、葵様の首舐めたい…」
「舐めてどうするのよ…」
「はぁはぁ…あれだけ強い葵様が、メイド姿でご奉仕…はぁはぁ」
「いいいぃ!!!!ひぎぃぃぃ!!」
————
すっかり首回りがベトベトになった。
「これで滑りが良くなりました!」
「確かに!…じゃないのよ」
「うーん。このチョーカー。色んな種類の術式を上から何度も書いている様に見えます。」
「そんな事できるの?」
「特殊な技法ですね。こんな薄いものにこの様な施工を施せるのは相当な芸当だと思います。高そう。」
「高そう?」
「はい。綺麗に取って売ればお金になりそうです。今回は壊しますけど」
「壊せそ?」
「はい!チョーカー自体の強化術式さえ解いてしまえばハサミでチョキンですね」
そんなもんなのか術式って。
「チョーカーの耐久性上げられてるだけなら、頑張れば無理矢理取れるんじゃないの?」
「うーん。とれますけど、相当な力を加える事になるので、葵様の首が危ないですね。首も一緒にとれます!」
そ、そうか。おそろしや。
「ただ、重ね掛けしてるせいで読みづらいですし、馬車に乗りながらやると揺れてて…」
治癒魔法みたいなかんじで、ぽわぁーっと光に包まれて解けるイメージだったけど、割と精密な感じなんだな。
こんな揺れる馬車でそんな作業させて乱視にでもなったら可哀想だ。
そんなこと言ってる暇ないけど。
アリアは術式をときにかかったり、刃物でこすってみたりを繰り返している。全部綺麗に術式を解くより、切り外せるギリギリまで解いた方がいいのだろう。
少しでも作業がしやすい様にじっとしている。
そう、私は美容院や歯医者では微動だにしないのがポリシー。どれだけやりやすいお客として認識されるかに全力を注いでいるのだ。
だが、始まるとアリアは結構な集中力で、言葉一つ話さなくなった。
————— なるこ視点————-
ご主人様からの連絡は全くない。
私は、なんて愚かなんだ。やはり、ご主人様を置いて逃げるべきではなかった。いくらご主人様がすごいと言っても、それを封じられているからあの状況に至った訳で、どうにかして私が打開するしかなかったのだ…。
私は、ただご主人様を見捨てて逃げ帰っただけ…。
「なるこ…。少し休んだら?」
「アイネス、休みなら十分貰っているわ」
「いや、全く足りていない。お前は休め」
「そんなこと言われても休まらないわ!!いつだってご主人様と一緒に寝ていたのに、そのご主人様が私のせいで…私のせいで!!」
「なるこチャンのせいじゃないっテ…誰もせめてないよ〜…」
「神獣リア…」
アイシア国の主要メンバーによる何度目かの緊急会議。題目はご主人様捜索。しかし、事態の好転はなかなかしなかった。
「私もあなたたちの様に戦えさえすれば、ご主人様をお助けできたというのに…」
「過ぎたことはもういいって〜、むしろ、ただのメイドなのにその状況でウチらまで報告に帰って来れる方がすごいわー。上等よ」
「そうだぞ、よく帰ってきてくれた、なるこ」
「…アイネス。私の失態よ…いっそ罵ってくれれば良いのに…」
「いつもだったら罵ってやっても良いが、今のなるこにそんな事は出来ない。いい?誰もアナタが悪いなんて思ってない。お願いだから休んでいて…。誰から見たってあなたは疲労が溜まり過ぎてるわ」
「…分かったわ。…ごめんなさいみんな」
「謝らないでいい。おやすみなるこ。」
どんなに身なりを整えても、疲労が隠しきれない。それはそうだろう。
だって私の大好きなご主人様が、私の目の前で攫われて数週間帰って来ないのだから。
「ご主人様…」
あのお方が攫われてしまった。
どんな目に遭うだろうか…。
あんな美貌なのだ。男など我慢出来まい。
本来なら力あるご主人様には関係のない話だが、魔術を封じられては…。
抵抗できないご主人様に男たちは無理やり…。
心が焦る。いけない、さっきアイネスに休んでこいと言われたばかりじゃない。
ネガティブな思想に、しっかり休まなければ!
…本来はご主人様の許可なく入ったりはしないのだが。
私は、ご主人様の部屋に入っていた。いつもご主人様と一緒に寝ていた部屋。
ベットに横になると、ほのかに残るご主人様の匂いがした。久しぶりに安らいだ私は、ゆっくりと眠りについた。
———-アイネス視点———-
…今日もなるこは葵様の部屋で寝ている。
ここまで、なるこという人物が精神的に脆い人間だったとは。
いつもは、気丈でとっつきにくく、誰にも手の届かない気高さみたいなものを感じていたが、ここまで堪えるとは…。葵様という存在が大きかったという訳だ。
ここは、私が皆を支えなければ。
話によると、葵様はゼフィウスというギルドに連れ去られた様だ。しかも、そのギルドとは華咲家の領土の者達。本来なら詩織殿の様子でも見に行きたいところだが、事は急を要する。謎に新しいメイドを届けにきた兵達には直ぐに帰って頂き、この件を領主である詩織殿に…。
だが、増援は見込めない。そもそも、力が弱過ぎて、この様なギルドの台頭を許しているのだから。
しかし、我々の戦力ならある。
世界に数人しかいない様な神獣と呼ばれる者達が複数人在籍しているのだ。
葵様の捜索に充てる人員だって…。
…
緑園国ロッカスが戦争を布告してきた。
理由は、アイシア国は自国の民を奴隷として捕まえ、不法な労働を強いているから、だと。
ふざけた内容だ。まあ建前などどうでもいい。葵様の不在を嗅ぎつけられたのだ。
いつご帰還されるかもわからないこのタイミングで戦争はとてもまずい…。
葵様の捜索に当てれる人員も確保できない…。
「葵様をすぐにでも助け出したいが、何処にいるかも分からない始末。今はとにかく我々のアイシア国を守るのよ。葵様の帰れる場所を残すの。改めて、リア殿のお力も借りれるだろうか。神獣のアナタに是非お力添え願いたい」
「そりゃもちろん構わないんだけどさー。別に私、葵チャン程強くないんだよねー。戦争になっちゃったら私でもどのくらい守れるかわかんないよー。」
「…そうなのか?魔力も人並みではないだろう。ご謙遜は…」
「マジだってー。魔力はそうだけど、戦闘センスはそんななんだよねー。街一つ滅ぼしたとか言われてるけど結局オトコとヤリまくって性病蔓延させちゃっただけだしぃー。」
「ううむ…。メル殿はどうだろうか…」
「え!私戦ったこと無いんですけど…」
「だが、メル殿も神獣である可能性は高い。緊急事態だ。比較的安全な位置で良いから闘いの用意だけはしていてくれ」
「え…は、はい」
うぅん。不安だ。申し訳ない。
「メアはどうだ。お前も元はゼオヒム。神獣だ。戦えるか」
「主人が望むのであれば」
「シエラ、よいか」
「はい…。でもメア、死なないでね」
「お任せ下さい」
メアは少し引き締まった顔でフライパンを握りしめた。…それで戦う気か?
…アイシア国自体は国を名乗っているだけで小さなもの。ロッカスからの移民が勝手に住んでいる所を考えなければ、もっと絞れる。この人数でも守り切ることは出来るはずだ。
「葵様…どうかご無事で…」
最近地味に同人活動もしています。DLsiteで「主守隊」というサークルです。思いっきりR18ですが、良ければ応援してください。主になるこがいます。




