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とりあえずおてて繋いで



———-神獣メル視点———-



 

 仕事がなくて喜んでいた。


 異世界転生してすぐに保護されて、部屋まで与えてもらった。



 でも、自分のコミュ障は変わらなかった。



 ここの人達とどう話せばいいかわからない。

 ちゃんと受け答えするし、冗談も挟んだりするのに会話が続かない。


 何でだ?


 異世界転生なんていう人智を超えた環境の変化が起きてるのに、結局こうなるのか。どうやったら仲良くなれるんだよ。


 

 このままじゃだめだ。


 異世界に来てまで一人ぼっちは嫌だ。


 ただでさえ異世界はアニメとかネットがないから逃避できなくてつらいのに。



 頑張って話を続けてみよう。


 


 食事の時間だ。

 

 食事というリラックスした時間なら、みんな温厚になってる筈だ。そこを狙うんだ。


 いつもみんなそれぞれのグループで集まって食事をしているから話しかけるのは難易度が高い。


 唯一話が続けやすい葵さんはいつも誰かと一緒にいて話せないし。



 だが、いつも食事をよそってくれるなるこさんは違う!


 彼女なら話始めるきっかけが常にあるのだ!



 そして、食事の時…思い切って話しかけてみた。



 「あどぅ…なるこさんの料理いつも美味しいです!ありがとう!」


 「いえ、葵様の為です。当然です。」



 そう言ってテキパキと業務に戻るなるこさん。

 あれ、会話終わった?



 話しかけやすいと思ってたけど、仕事中だから邪魔しちゃったかも、失礼なことしちゃった…。



 


 でも、諦めちゃだめだ。


 そうだ、案内役のクロウ君なら!


 そのためのようなものじゃないか案内役って!


 


 「クロウ君、この前は案内してくれてありがとう!」


 「なんだ?今かそれ?

 葵様の命だからな、当然だ」



 …また葵さんだ。



 そうか、この人達は葵さんに好かれたくてこなしているだけで、私のためを思ってやってくれた訳ではないのか。


 そう思うと悲しくなった。


 結局、私は部屋に引き篭もった。

やる事なんてないから、ずっと布団にくるまっていたが、そうすると頭が勝手に今日の会話を思い出す。


 あの時の相手の顔が、鬱陶しい顔だったような。


 私に話しかけられて、不快に思ったに違いない。



 なんて妄想が。


 いや、案外正しいのかもしれない。



 だめだ、やっぱり。

 転生したってかわれっこないよ。

 前世の記憶なんて消してくれればよかったのに。


 もう一回死んでも、痛いだけだろうか?




 ネガティブな思想が延々と続く中、部屋の扉が無遠慮に開かれた。



 「メルちゃーん!新生活はどう?」



 葵さんだ。

 わざわざ様子を見にきてくれたんだ。

 心配させないように振る舞わないと。



 「はい!みんな仲良くしてくれて、楽しく過ごせてます!」



 そんな嘘をついて、それを嘘だと自覚してしまって。急に悲しくなった。

 

 ボロボロ大泣きしはじめてしまう。

 きっと変な奴だと思われると思った。


 けれど、葵さんは優しくハグをしてくれた。



 「分かる…分かるよ…」



 とても優しかった。

 いい匂いがした。


 ひたすら優しい声で、頭を撫でてくれた。



 「葵さんっ…わたし…わたし…」


 「分かってるよ…おちんちんがなくなって悲しいんだよね」


 「うん……え?」


 「おちんちん。なくなっちゃったもんね」



 …違うんだわ。


 前世と違う性別に生まれた事は気にしてないんだわ。


 何でそんな内容だと思ったんだわ?


 何でそんな内容だと思ってるのにそんなに優しく抱き留めれるんだわ?


 そんなに深刻なのか?だわ。



 「…違う」


 「え?じゃあ…将来への不安?」



 違うんだわ。


 ここまで保護されておいてそんな不安抱かないんだわ。


 その不安を抱くのは進路選択を迫られてる学生とかなんだわ。


 こいつ、理解してる素振りみせてるけど、さっきから1ミリもかすってないんだわ。



 「じゃあやっぱりおちんちん?」



 違うって言ったんだわ。


 なにが、やっぱりなんだわ?


 一度否定してるんだわ。


 おちんちんから離れろだわ。


 なにも察せてないんだわ。



 「おちんちんはもういい…」


 「なぁんだ。じゃあなにも悩んでないのね」



 何でそうなるんだわ?


 この状況で何でそんな結論が出るんだわ?


 偏差値があと50低くてももっとまともな返答が出せるんだわ。


 お前の悩みはちんこしかないんだわ?

 


 「誰とも仲良く出来ないの!!!」


 「あやっぱり?」



 なにがぁ?


 なにがやっぱりぃ?


 キミ1ミリもかすってなかったやん。


 本当にわかってたんだとしてもやっぱりって言われると傷つくわぁ。



 

 「というか、葵さんはそんなにおちんちんが欲しいんですか?」


 「欲しいね。だってさぁ、折角こんなにいっぱい女の子に囲われてるのよ?


 前世じゃ童貞だったのに!

 チートみたいな魔力もあって、こんなに女の子に囲われてよ。


 おちんちんないってさ…



 結局童貞じゃん!!


 卒業できてないじゃん!!


 わたしは結局ハジメテを経験せずに終わるのよ!!あああああ!!!」


 「でもその容姿なら、女の子でハジメテ出来るじゃないですか」


 「嫌だよ、処女は捨てない」


 「は?」


 「私は処女美少女のまま、世の童貞達に夢を振りまきながら死んでいくの」



 この人が前世童貞なのわかった気がする。



 「じゃあ結婚しないんですね」


 「しない。子供は欲しい。私の生きてきた経験を教え込むの」


 

 とんでもない毒親になりそう。



 



 …何か私の話っていうより話に付き合わされた。


 気付けば小一時間話していた。



 「あー、友達ができないっていう話するつもりだったのに」


 「メルちゃん友達できないの?」


 「うん、話しかけても続けれない」


 「あーまぁここの奴らコミュ障だからな〜」


 「えぇ?いや、コミュ障なのは私よ」


 「私とこんなに話してるのに?」


 「それは…」



 葵さんだから、て言うのはやめた。

 

 彼女が言いたい事はそうではないと思ったから。


 

 「葵さんは凄いね。前世がニートだったのが不思議だよ」


 「まー。異世界転生なんてニートの領分ですからな!はっはっは!」


 「ニートは転生するとそんなにたくましくなるんですか?


 凄いなぁ。

 私もニートになるくらいの決心があればかわれたのかな…」


 「ニートに決心とかありません笑

 見習わないでください笑」



 


 そんなこんなで今日は葵さんと一緒に寝る事になった。


 プチお泊まり会。まあいつも同じ家に寝てるが。




 

 結局、私が特別会話が上手くなった訳でもなかった。


 けれどその日から疎外感は全く感じない。


 葵さんが手を繋いでいてくれるから。

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