得意科目は風魔術
あれからクロウの暴力は見なくなった。
しかし。
「おらぁ!よ、よくも今まで散々な、殴ってくれたなぁ!」
お昼休みの時間、
孤児の1人のタッタがクロウを一方的に蹴りつけはじめた。
殴り返さないのは私が見ているからだろうか、
「やめなさいタッタ、みっともないわ」
「なんでっすか葵さん、良いじゃないっすか、お、おらおら」
ふむ、言う事を聞いてくれない。
ドンッ!
と、風魔術でタッタを勢いよく吹き飛ばした。
「どぉ、どおしてぇ…」
「無抵抗のものを一方的に虐げるのは禁止よ」
「でぇ、でもぉ、コイツは俺を殴ってたのにぃ」
うーん。
このままだとイジメの無限ループだな。
「タッタ!葵様に口答えするなんて許されないわ!」
アリアちゃん!?何という暴論!
「そ、そんな…」
「そうよ、全ては私が決める事。あなたがどうであれ、その行為は私が気にくわないわ」
あ、乗っかっちゃった。
まぁ、力のある私が押さえつけておけばとりあえずイジメは今後起こらないだろう。
クロウが怪我をしているので、さすってやる。
治癒術は使えないが、神獣の力でさすれば治る。
シャンには口止めしてたけど、結局子供達には知られちゃったしな。
口の軽い奴。
「なんで…治してくれるんですか…」
「怪我してるんだから治すでしょ」
「俺の事、嫌いなんじゃないんですか」
「私はイジメが嫌いなの」
「そうですか…」
ずいぶんしおらしくなったなクロウ。
敬語を使えるようになった分、印象は良くなった。
「タッタが最近あなたに仕返ししたがってるわね」
「殴り返して良いですか」
「う〜ん、だめ」
「そうですか」
「常に私についてなさい。それで解決よ」
「俺がですか」
「ん?嫌なの?」
「いいいや!そんな事はありません!」
なんか極端に怖がられるようになった。
ちょっかい出されるよりマシか。
「そんな葵様!付き人は私1人で十分なのに!」
「アリア、私あなたを付き人にしたつもりないのだけど」
「がッ…そんな…!」
付き人ごっこをしてたのかアリアは。
「そうだぞアリア。葵様の付き人は僕がやってるんだからね。」
「シャン。あなたにも頼んでないわ」
「がッ…!」
そうしてクロウは私の付き人?となった。
——-
孤児院の授業内容は格段に上がった。
魔術の授業はよく教えれている。
どれだけイメージできるかと、体内魔力によって決まるのだ。
私の場合、体内魔力がめちゃくちゃなので、超燃費の悪いような魔術でも出来てしまうが、風魔術を覚えて感じた。
基礎的な魔術はとても燃費がいい。
私からすれば魔力が減っている感じすらないのだ。
そして魔術の授業、といっても風魔術だけだが、ドライヤーくらいの風をみんな出せるようになった。
中でもシャンは一際強力な風を起こせる。
瞬間的なら小柄な大人なら尻餅をつくくらいの威力だ。
そして体育の授業を追加した。
体を動かすのは大事だ。
遊びも含めつつ、剣術もやっている。
と、言っても私が剣術を知らないので剣道みたいなノリでやっていて、効果があるかわからない。
たまにハスベルが口を出してくれる。
あいつ剣持ってないけどな。
ただ、何をしても体育の授業はクロウが飛び抜けて上手い。運動系は得意なようだ。
褒めてやると目を逸らした。
痛めつけすぎたかもしれない。つきっきりで一緒にいるんだが溝が深い。
アリアはどれも中間くらい、平均値だ。
この3人、バランスいいな。
そしてみんな私に実に忠実だ。
恐怖政治になってしまってるかもしれないが、案外悪くない。
最近は詩織もアイネスもいなくなってしまって女の子要素がなかったが、アリアは私にべっとり、セクハラし放題なのだ。
だが…おっぱいはない…。
あぁ、あのアイネスのおっぱいを触りたい。
私が還るべきはあのおっぱいなのだ。
たとえ裏切られたのだとしても、あのおっぱいはいつか手に入れるのだ。
おっぱい。
————-
そんなこんなで孤児院に来てから半年が経った。
クロウにいじめられていたシャンは意見の言える子になった。
風魔術はクレラ孤児院一上手い(私を除いて)。それが自信になったのだろう。
そしてクロウはほぼ独学で自身の剣の才能を芽生えさせた。
シャンやハスベルと手合わせしていたが、もう既に相手にならない。剣術においては、だが。
クロウは勝っても、言葉少なに。
「終わり」とか「一本入った」とかしか言わない。
あった時はあからさまなクソガキだったが、今ではすっかり無口な少年だ。
そんな生活をしている私の耳に、ある会話の一部が聞こえた。
「元王都騎士団団長アイネス・クロフォードが処刑される」
話が聞こえてすぐ、その言葉を発した男を問い詰めて場所や日付を聞き出した。
理由は、やはり私の件だろうか。
大袈裟だと思った。しかし、私は迷わず現地へ向かおうと決心した。
その日の夜、私は誰にも言わずにこっそりと孤児院を抜け出した。
無謀だろうか、風魔術は自由自在に操れるほど上達はしているが、場所は王都「グラトニア」。問題を起こしてどうなることか、まぁ神獣だし今更か。
リスクを背負ってでもアイネスを助けたい。
私は私に初めておっぱいを揉ませてくれた彼女を見捨てることなんてできない。
たとえ、彼女に裏切られたのだとしても。
たとえ、彼女が私に助けを求めなくとも。
私は生きたアイネスのおっぱいを揉み続けたい。
アイネスを私の性奴隷にしてもだ。
あれ?助けに行く時の台詞じゃなくね?
孤児院から出た時だった。
「どこへ行かれるんですか」
声をかけられた。
それはハスベルでもポララさんでもなかった。
「クロウ…私は用事があるの」
「外にですか」
「えぇ、そうよ」
「アイネス・クロフォードのところに行くのですか」
鋭い。
「話は聞いていました」
そうか、近くに居たのか。
「でしたら私もついていきます」
そう言ってクロウは私に木剣をみせた。
「だめよ、私についてきたらあなたの帰る場所がなくなるわ。」
「葵様のいらっしゃらぬ場所に居座るつもりはございません」
うん。そうだよな。クロウもまだ子供だしな、今王都で問題なんておこしたら…
え?今なんて言った?
「クロウ、もしかして私の事好きなの?」
「…」
聞くとクロウは目を見開いた後、細めて視線を私から逸らした。
まじかよ。
どのタイミングで好きになったんだ?
分からん。
というか、前世男だったから男に惚れられてもキツいな…。
まぁこの容姿だったら誰でも好きになるか。美人だしな自分。
というか、どうしたものか。
いくら神獣の力が強いとはいえ今回どうなるか分からない。
そんな事に携われば将来は追われ続ける羽目になるのではないだろうか。
クロウはクソガキだったが今は違う。
置いていくか。
私はこの半年で飛行が出来る様になった。
たぶん風魔術の応用だ。たぶん。
風を纏い空を跳ぼう…としたらクロウにしがみつかれた。
「絶対に…絶対についていきます!!」
「クロウ君!?!?」
危ないから一旦中止。地面に足を下ろす。
「あなたはまだ若いから盲目的に決断してるだけよ。」
「葵様も十分若いです」
「私は…」
「今ここで諦めたら、葵様にずっと会えなくなります」
私なら無理矢理クロウを置いていくことはできる。
が、連れていく事にした。
自分に好意のある人間が近くに居てくれるのは嬉しい。
1人は寂しいからな。
風をクロウにも纏わせる。
私の魔力がどれだけのものかは分からないが、飛行2人分でも問題ない。
地理は苦手だが王都までくらいなら把握している。
方角を確認して思い切り飛んでいく。
然程遠くない。飛んでいけば。
——————
王都「グラトニア」に着いて暫く、昼過ぎになった頃。
王都の中心あたりで人だかりができた。
見れば斬首台らしきものが用意されてある。思ってたよりグロそう。
私達は人だかりの様子を上から見下ろした。
私の顔はわれてるだろうし、悪さをするには丁度いい。
案外上には気づかないもんだ。
アイネス・クロフォードが錠をかけられてつれてこられた。
前あった時よりやつれている。
だが美人だな。
アイネスがでてくると大衆から悲痛な声が聞こえてくる。結構支持されてるじゃないか。
「静粛に!!アイネス・クロフォードには神獣に加担した罪が掛けられているのだ!自身も否定はしておらぬ。覆らぬ事実よ!!」
無精髭のおっさんが一喝して場は静まり返った。
「私は幼子をこの手にかけなかった事を後悔していない」
「まだ言うか!お前が一言でも弁明すれば処刑を免れるのかも知れんのだぞ?」
「黙れ、王国貴族の使い走りが」
「可愛くない女め」
アイネスがおっさんを睨み付ける。
あんな表情もするのか、今度至近距離で見たい。
と、早々とアイネスの首が斬首台に乗せられる。
処刑人が斧を振り上げる。思ったよりペースが早い。助けに入らねば。
「アイネス、最後に言い残す事は?」
「…ごめんね、葵」
深々と斧が振り落とされた。
誰もいない斬首台に。
「なんだ!何事だ!」
「アイネス、そう言うのは面と向かって言わないとだめでしょ」
「…!葵!」
「なんだあいつ…!神獣だ!!」
「神獣が翼もないのに空を飛んでるぞ!!」
「うて!うちおとせ!」
感動の再会も束の間、アイネスを抱えた私に容赦なく矢のような色とりどりの魔術が飛んでくる。
私の風魔術で一蹴だが。
クロウと私(アイネス持ち)を浮かせながら防御もするとキツい。
マルチタスク的なアレがキツい。
例えるなら、手の全ての指に買い物袋が引っかかってる状態で、車のドアを開けるような感覚。
一回置きたい。
風魔力を飛行の推進力に全て注ぎ込む。
私達は勢いよく遥か彼方へと飛び去った。




