勝利の美酒は俺をいざなう
局長は信じられないという顔をしていた
あたかも初めて敗北をきしたかのような顔である
「何故だ、何故なのかーー!?」
局長は思いのほか悔しがってるようである
「何故かと言いますとね」
俺は局長の耳元で小鳥の囀りの如き声でそっと囁く
「時代の変化ですよ。あなたの技は一世代前のものだった。攻撃パターンも質は高いが実に単調、シンプラスティック。縦方向の突きと切りのみに依存した攻撃では、そこにいかなる技のバリエーションが伴おうともたかが知れる。そんな1次元的攻撃のみしかない段階でわたくしの勝利は覚束ないものとなりました。剣界隈において時代は既に3次元の局面にありますよ。そのことをよく自覚してくださいね。それと、スポーツチャンバラ部廃止の件、よろしくお願いしますね、局長❤️」
「うわーーーー!!!」
局長は発狂した
少し言い過ぎたかな
俺はその場を去る
「待って」
女の子が付いてくる
そういえば
「名前なんだっけ?」
「えっ、あっ、私の名前は飛鳥京香といいます。大学2年です。その、ありが」
「あー、礼ならいいよ。俺の名前は伊切田剣太郎、大学1年。しがない剣道チャンピオンさ」
おっと、ついチャンピオンなどと言ってしまった。
自分がチャンピオンであることは伏せて置こうと思ってたのだが
「まあ、チャンバラ楽しかったから、しばらく部活に参加させてもらうよ」
「えっ、いいの?」
京香の目が輝く
おそらく、誉高い局長を撃破した俺に対する羨望の眼差しだろう
そんな憧れの眼差しで俺を見つめる京香の顔は、悪くない
「だから、ご指導の程よろしく頼むぜ、パイセン!」
おれは、爽やかな笑顔で京香の思いに応えた
まあ、悪くない大学生活の切り出しだな
俺は、ある種の満足感に浸った