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【6】手当てしました



誘拐犯相手に手当てをしたいからと言って頑丈な扉を叩き、幼くも淑女としてはしたなくも大声をあげたフェリーナは戦利品である水と手当てのための添え木や沢山の布を手にした


その代償は、硬い扉を力いっぱい叩いたため柔らかく小さな手は赤くなり少し血が滲んでいた

しかし、そんなこと気にせずフェリーナはいそぎ沢山の布を水に浸して絞り、暴力を受けたであろう痕が見受けられる子供たちに配って歩いた


「大丈夫ですか?」


優しく声をかけるのを忘れずに

その顔をみる子供たちは漏れなくフェリーナの可愛らしい笑顔に見惚れてしまっていた

粗方配ったところであの双子に近づこうとしたところ女の子のほうが指であっちとさした。

指差す先は一番酷く傷ついている男の子の方


その気遣いに感謝して先にあちらに行くことにした


足を折られ高い熱を出して苦しんでいる小さな男の子 ――中身はともかくフェリーナも小さな女の子であるが―― の元に向った


手拭いを水に浸し絞りまずは痛々しく折られて腫上った脛に当てた


「うぅっ・・・」


痛みに呻きが上がるがフェリーナは背中をよしよしと上下にさする


「痛いでしょうがもうしばらく辛抱してください」


そう声をかけて慎重に男の子を仰向けにして折れた患部に添え木をして締め過ぎない様に布で巻いていく

記憶にあるエマのときに木から落ちて骨折した弟を手当てしたおばさんを見ていたからやり方は覚えている

添え木をした患部はこれ以上腫れないように再び絞った布で冷やす


「・・・っう・・・」


辛そうにしている男の子の顔をみる

玉のような汗で額にかかる髪は顔に張り付いていた

それを今度は別の布を水に浸して拭っていく

男の子の髪は汚れてくすんでいたが撫で拭いていくと金色をしていることがわかる

よく見れば顔色は悪く苦しそうに顔を歪ませているが綺麗な顔立ちをしているようだ


フェリーナは何度も布を水で浸して次から次に滲み出る汗を拭った

熱が高いのがいけないのだが今は濡らした布で汗を拭くことしかできない


「はぁっはぁっ・・・はっくっ・・・」


浅い息で苦しそうにする


「お水飲めますか?」


できれば食事を口にして栄養を取って欲しいが今は無理だろう。せめて水でも飲んで欲しい。

これだけの熱を出しているのだから喉も乾いているだろうし脱水症状が心配だ。

水分を取り体内から熱を冷ましたい・・・

器に水差しの飲み水を入れ口元に持っていくが、注いだ先から唇の端からこぼれていった。


「うーん、どうにか飲んでもらえないかしら?」


そのときに思い出したのはやはりエマの記憶・・・高い熱を出して水を飲む元気もなくなった弟に半ば無理やり飲ませた方法


・・・う~ん、それしかないかな?


迷いはしたが苦しむ目の前の男の子表情に、――優しい慈愛の瞳で見詰め、器の水を自らの口に含んだ

そのまま男の子の鼻を抓み苦しそうに息をする口に流し込む


―――ごくりっ


男の子が喉を鳴らして飲み込むのが分かった


ほっ・・・


男の子から離したフェリーナの口から安堵の息がもれた


その後、何度か同じ方法で・・・口移しで水を与えた

喉の渇きはやはりあったみたいで幾分かは先ほどよりかは呼吸が落ち着いたような気がする

そのときに、ふっと男の子の目が薄っすら開いた


「・・・だ・・・っ」


掠れた声で聞き取りにくかったが顔を直ぐ側に寄せていたフェリーナにはわかった


「・・・ついていますから安心して、今は休んで下さい。」


そう言い安心させるように優しく微笑んだ


「っふ・・・」


フェリーナの声を聞いて安心したのか男の子は苦しそうにしていた表情が緩んで再び意識を手放した


その様子を見てほっとした、フェリーナは男の子の髪をゆるりと撫でた


見ず知らずの相手だが酷いこの状態を放っておけなかった

前の人生(とき)からそうだった、一言でうならお節介の世話焼き。泣いている子に声をかけずにはいられないそんな前と変わらない、いくら生まれ変わっても本質はそのままだった


フェリーナとしてうまれても結局は変わらないなぁ


この国、唯一の高貴なお姫様であるフェリーナも、この国に数多いる平凡な村娘のエマも、やっぱり一緒で私は、わたしでお節介のなのね

暫らく少し緩んだ彼の表情を見ながら思い耽る



今は水しか飲ませられないけど少しでも楽なって欲しい・・・


できれば彼の苦痛を少しでも和らいでほしい・・・


そして、早く助けがきてほしい・・・


ここからみんなで無事に出たい・・・



ぎゅっと両手を祈るように握りこんできつく瞳を閉じていた

閉じた瞼の裏でキラキラ光るものが見えていたがフェリーナは気にしていなかった


目の前の彼が一番酷い状態だが他にも暴力を受けたと見て取れる子供が数人いた

ここに攫われた子供たちがいることをどうにかして外に知らせることはできないだろうか・・・


そういえばと思い出したように目を巡らせ目当ての双子を探す

スハノフのあの兄妹は先程と変わらず座り込んでいた

まだ、顔がはれたまま・・・

残った布がもうない

どうしようかなぁ

そういえばこの中にと、ポシェットの中を見るとピンクのハンカチがあった

これでいいか

そう思って立ち上がって寝ている男の子からはなれた


「・・・あの」


水桶に濡らしたピンクのハンカチを差し出して声をかけた

女の子はフェリーナに顔を上げた


「・・・」


「これ、良かったら使って・・・

お水もここに置いておくね」


無言で不思議そうにこちらを見詰める


「頬、まだ腫れてるからあてて冷やしてね」


そう言って離れようとして立ち上がるとくいっと裾をひかれた


「なあに?」


そちらを見れば女の子は手にスープの入った器を持っていた


「これ・・・もう冷めてしまってるけど、少しでも食べたほうがいいわよ。

この状態がいつまで続くか分からないから・・・」


「・・・ありがとう」


少し驚きはしたが女の子から器を受取って横に座り口に運ぶ

スープを・・・スープというにも塩味の野菜くずを煮ただけのものだが・・・口にしてみてお腹がすいていたのだろう気がつくと次から次へと口にさじを運んで完食してしまっていた


一心不乱に食べるフェリーナの様子を見て柔らかい顔で話しかけてきた


「私はエレン、こっちは双子の兄のアラン。あなた、リーナは小さいのに怪我の手当てできるなんてすごいわね。いくつなの?」


エレンはさっきとは違い気さくに話しかけてくる


「私は・・・5歳になりました・・・骨折の手当てをしているのを見たことがあって・・・見よう見まねです。」


「5歳なの!ふーん、ねぇあなた貴族様?」


「・・・貴族では・・・ないです」


うん、嘘はついてないです。

骨折の治療を見たのはエマだけど私が見たと言うのは本当だし、貴族でもない・・・王族だけど・・・


「そうなのね。あの人たちにお水持ってこさせてなんだかすごいと思って・・・う~ん・・・威厳?があったから貴族かなとおもったの。あのオジョーサマとは随分違うなぁと思うけど・・・」


くすっと笑いながらエレンはイザベラをちらりとみる


「わたしの知っている貴族の令嬢はもっと優しい人だけど・・・こんな状況ですからあのように威嚇されるのも仕方がないとおもいますよ」


「威嚇って・・・合ってるけど。ふふっ、リーナって面白い子ね。」


フェリーナの知っている貴族令嬢は1人だけディル兄様の婚約者の侯爵令嬢なのだがおっとりとした夢見がちなお嬢様といった令嬢だ

おなじ侯爵令嬢といってもお姉さまはもう14歳ですし、イザベラはまだ子供だもの。

違って当たり前なのだ


まあ、あのイザベラの癇癪には付き合いきれそうにないですけどね

そう思ってイザベラのほうを見ればさすがにおとなしく座り込んでいた

ずっと威嚇はしていないようだ


「これ、ありがたく使うわね」


そういってエレンは濡らしたハンカチを隣のアランの顔に当てた。


アランはフェリーナがいる間も寝ているのか瞼は閉じたままで今は壁に凭れてる

一度もこちらを見ないし話にも入ってこない

こんな隣でお話していても身じろぎしないなんて余程つらいのかな?


「どうぞ差し上げます。・・・これありがとう。このスープはあなたたちのでなかったの?」


「大丈夫よ。()()ちゃんと食べたから」


そういってエレンはニヤッと笑った


「そうなのね、よかった。わたし、まだあの子が心配だから・・・」


そう言ってエレンたちから離れた

エレンの笑顔に何か引っかかりを感じながら男の子の元へ足をすすめた



読んでいただきありがとうございます

新たにブクマありがとうございます

スマホ入力のためおかしいところがあるかとは思います

次回更新は、いつになるかなぁ

更新がちょっと遅くなります

盆開けになるかもしれないです

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