【3】抜け出してみました
ちょっと無理矢理な所がありますが、優しい聖母の目でご覧ください
フェリーナの私室は奥まった位置にあるため使用人裏階段が近くにあった。
普通なら一見分からないようになっていてフェリーナも教えてもらわないと知らなかった。
先日、バルテルはこれを使ってよく城下町に下りていたことをきいた。
バルテルとしては、冒険談を聞かせたつもりだっただろう。
何しろ5歳のフェリーナがそれを聞いて実行できるはずがないと思っていたから
でも、フェリーナはその階段を使ってしまった
バルテルに聞いたとおり実行してしまったのだ
階段は、それなりに広さがあるが表に比べたら狭く薄暗い
最初は恐る恐る足を踏み出したが仄かな明かりが足元を照らしているような気がする
用心して階段を下りた先にはリネン室がある、これもバルテルの言ったとおり
そこでフェリーナはシーツを一枚取りそーーっと歩き出す。
今の時間は、お昼すぎでティータイムには少し早い時間
本当に偶々なのだが使用人たちの大半は休憩時間だった
廊下には人影がまったくない
足元が相変わらずキラキラしている気がするが、日差しの粒子が光って見えるだけ、リネン室が近いから空中の埃が見えるだけと、何故か気になるのに考えないようにしていた。
しかも通路は、リネン室から洗濯干し場にでる裏口近く
これも勿論バルテル情報
洗濯干し場から裏口近くに、町からの食材などを運ぶ荷馬車がよく留まっているきいていた
現在は、一台の荷馬車が止まっていた
フェリーナは、その荷台に乗り込み奥のほうで持ってきたシーツを被った。
この荷馬車にはたくさんの布が積み上げられていたのも幸いして擬態できた。
「・・・ふう」
・・・ここまでバル兄様の言うとおりで驚いたわ
バルテルからは一度もばれたことがないと聞いていたがこうも上手くいくとは思っていなかった
シーツに包まり荷馬車が動くのをじーーーと待った
初めての一人でお出かけだわ!
わくわくする気持ちと、未知へのどきどきする興奮を抑えて身を潜めるフェリーナを乗せた荷馬車は暫らくして動き出した
◇
お城に上がる荷馬車のほとんどは城下町の王都中央公園広場付近に一旦止まるんだ。そこで降りてから街で御忍びで遊ぶんだ。
公園近くのお店は、貴族御用達のしっかりしたお店が多いから安心して見て歩ける
その少し外れた辺りには裕福な商人たちがすんでいる。あの辺りの子供たちも庶民だが、きちんとしたやつらだ。
何人が友達もいるんだぞ!
大丈夫さ!
夕方までに部屋に戻っていれば誰にもバレない
実際今までバレてないんだから
まぁ、兄上たちも子供の時はやってたらしいからな
さすがに学園に入ったらできないから今だけ・・・
あぁ、入学したくないなぁ
いつか、フェリーナにバルテルが教えた話
バルテルは、まだ王立貴族学校にいっていないから、家庭教師の授業が終れば時間があるため、フェリーナと遊ぶか、御忍びで町にでるかしていたらしい
フェリーナから何気ない、昨日はなにをしていたの?にまるで冒険談のように得意気に語った
フェリーナも最初は、ただ聞いていただけだが、階段の場所はバルテルが教えてくれた。さすがに中はは入れてくれなかったが・・・
まさか、一人でこんな行動おこすなんて誰も思わないよね
うふふっと笑いの声が漏れるがガタゴト車輪の音で回りに声は聞かれることはない
『ウフフ、オヒメサマタノシソウダネ』
◇
公園前は広大な芝生の広場に曲がりくねった小道が整備されており、日傘をさして午後の散歩を楽しむ紳士淑女や、平民だろう家族が芝で敷布の上で寛いでいた
王都の民の憩いの場
その公園広場の直ぐそばには洗練されたお店が整然と建っていた
そして少し外れた場所には、少しハイセンスな庶民向けの店も通りの景観に馴染んだ子洒落た様々な店が並んでいた
子洒落た店の一角の裏通りに荷馬車は止まった。
止まったのを確認してフェリーナは荷台からスルリと降りてすぐ近くのお店に入った・・・
「いらっしゃっ!?いませ・・・珍しいお客様ですね」
20歳過ぎたくらいだろうお店の快活で人懐こい顔のお姉さんが笑顔と共に入ってきたフェリーナに向って声をかけるがフェリーナの格好を見て不審そうに一瞬声を止めた。
しかし、さすが接客に従事されているだけある直ぐにもとの笑顔をフェリーナに向けた
フェリーナは荷馬車から降りてもシーツをローブのように頭からすっぽり被ってお店に入った
不審極まりないがそれが小さな子供であることでお店のお姉さんは一先ずは不審者よりもお客とし・・・恐らくそれも珍客として扱ってくれるらしい
それでもありがたいことこの上ないです。
「うふふ、こんにちわ。あのね、わたくしお願いがあってきましたの」
お姉さんが目の前に来て小さなフェリーナに合わせてしゃがんでくれたことで俯いていた顔をあげて正面から笑顔で見つめる
初対面に笑顔は大切よ。こんな形をしているのだし・・・
フェリーナの笑顔を正面から貰ったお姉さんは顔を赤らめてフェリーナから目が離せなくなってしまった。
「っ!・・・お嬢さん・・・えっと、お嬢様は貴族でしょうか?」
よく見ればシーツから見える服装と言い、フェリーナの幼いながらも気品のある佇まいにお姉さんは何かを察したようだ。
察しのいいお姉さんは本当に接客業に向いていると思いますよ
だって、わたくしのような訳ありなお客にも柔軟に対応できるって大切ですよね。
ただ、貴族ではないんですよね・・・だから曖昧ににっこり微笑んでみました
「私でできることでしたらお伺いしますよ」
少し戸惑いながらも小さな幼女のお願いなのだから犯罪めいた無体なことはないと思ながら恐る恐るでもはきとした明るい声はそのままで答えてくれた
「ええ、貴方じゃないと駄目みたいよ。
お願いはね、わたくしのこれと町歩きにぴったりな服を交換していただきたいのよ」
これっと、シーツを捲りその日庭園でお茶会のまま出てきたため如何にも上質なかわいらしいドレスをみせた。
お姉さんしか交渉できない・・・
『公園近くの古着屋さんは、こっそり抜け出してきた貴族たちの物々交換のお店なんだ』
ここは、表は貴族御用達の洋服店。
そして、裏は平民のためのおしゃれな服の集まる古着屋さんです
バルテルの情報は正確でした
お姉さんが用意してくれた服は、パフスリーブの白地にミントグリーンのストライプのワンピース。
それに白いつば付き帽子と小さなポシェットまで合わせた
良いとこの商家のお嬢様ぐらいの装いだ
「よくお似合いですよ」
にこにことさっきまでフェリーナが着ていたドレスを手にかけて小さな小部屋、試着室に入ってきてフェリーナに声をかけた
「お嬢様、こちらのドレスは本当にいただいてよろしいのですか?
私がいままで見たなかで最高級なドレスですが?」
フェリーナの着ていたドレスは、普段着として用意された膝下丈でシンプルな飾りの少ないドレスではあるが、フェリーナは王族だから、生地は最高級のシルクが使われている
「ええ、構わず納めて下さいな。
ところで、まだ余裕はありますか?」
このドレスはフェリーナに与えられているがそれが国民の税によって賄われていることは知っている。
ワンピースなどに払う対価をいままで着ていたドレス以外に持ち合わせていない・・・
だから、高級なドレスと現在身に着けている古着のワンピースは釣り合うものではないことはわかっている
せめて、このドレスが税を納めた・・・しかも必要としている人に渡りますように
そして・・・
ちょっと、おねだりしても許してほしい・・・
「・・・もし、まだ余裕があるのでしたら・・・」
だから、フェリーナはお願いをする
さっきからずっと思っていたことを・・・
「屋台で食べ物を買うだけでいいので現金を頂けないかしら?」
にっこり微笑んで指をさす
公園の中のカラフルなワゴンで出ている屋台のおいしそうな香りにおなかがすいてきたフェリーナは5年ぶりの庶民の味に飢えていた
読んでくださりありがとうございます
次回は火曜日になります