花火と恋する心
幼馴染みの彼を意識しはじめたのは、いつからだろう。
気づいたら自分は恋に落ちていた。
出来るだけ一緒にいたいという思いから、花火大会の約束も承諾したのである。
それなのに……。
「雪、俺は雪が好きだ。付き合ってくれないか?」
自分が恋している相手、大橋開斗に告白されたときは、心臓が止まるかと思った。
まさか両想いだったなんて。
開斗が見繕ってくれた濡羽色の髪留めも私の好みと完璧にマッチしている。
私のことを想っている開斗の気持ちが籠もっているように感じた。
それにしても――花火の途中で良かったぁ!
さっきから心臓の鼓動が引っ切り無しに聞こえている。
花火の音に紛れているからいいようなものの、恥ずかしいことこの上ない。
「ありがとう。是非お付き合いさせてください」
この一言を言うのにも、緊張してしまう。私は上手く笑えているのだろうか。
頭上で上がったハートマークの花火を見ながら、不安で押しつぶされそうになっていると、開斗が優しく微笑んでくれた。
「良かった。髪留め、似合っているよ。つけてくれたってことは気に入ってくれたんだろ?」
「うん。私の好みをよく分かっているわ」
「そりゃ、幼馴染みだからな。もう雪とは十年以上の付き合いになるんだなぁ」
もう……そんなになるのか。
長かったような、短かったような、不思議な気持ちに襲われる。
ただ、開斗は凄いな。
私も告白を考えていなかったわけではなかったが……関係が壊れるのが怖かった。
でも開斗は恐れずに好きだって言ってくれたのだ。
「開斗って将来の夢はエンジニアだったっけ?だったら私と一緒の大学に来ない?」
「そうだね。かなり厳しいと思うけど頑張ってみるよ」
開斗が少し不安げな表情を浮かべながらも、ガッツポーズをしてみせる。
もし……開斗が一緒の大学なら楽しいだろうな。
彼が頑張るのに、私が頑張らないのもおかしいし、明日から本格的に勉強だっ!
♢
「いよいよ合格発表か。今まで勉強してきたし、雪もいるし大丈夫だっ!」
「いや、私がいるからって合格とは限らないわよ。彼女を神様みたいに言わないで」
いくら何でもそこまで責任は持てない。
覚悟を決めた開斗が、震える指でパソコンの『合格発表』というリンクをクリックした……。
見てみれば、繋がったページには桜の花びらが舞っている。