花火を見ながら
窓から淡い夕日が差し込んでいる。
時間を確認すると、もう約束の時間の十分前だということに気づき、慌てて飛び起きた。
「やっべ! こんな大事な日に遅刻するなんて洒落にならねえぞ!」
独り言を呟きながら、大急ぎで身支度を整えて家を飛び出す。
今日は同い年の幼馴染み、坂原雪と一緒に河川敷の花火大会を見に行く約束をしていたのである。
そして……俺にとっては勝負の日でもあった。
――そう。花火を見ながら告白しようと決めていたのだ。
プロポーズの言葉だって、贈り物だって既に準備してある。
まあ、高校2年生のお小遣いで買える範囲だから豪華な指輪などということはないが。
結局、約束の時間を五分ほど過ぎたところで到着した。
「あ、開斗やっと来た。遅いよ!」
「ゴメン。ちょっと色々あって遅れた。許してくれ」
「何が色々よ。どうせまた寝てたんでしょ。まあ、開斗らしいといえば開斗らしいけど」
「スマン。お前の優しさに甘えた」
待ち合わせの相手が雪ではなかったら、きちんとアラームをかけていただろう。
それをしなかったのは、雪がメチャクチャ優しいから。
……俺が惚れてしまうくらいに。
しばらくの間、サブとして行われている夏祭りを楽しみ、ついに花火大会が始まる時間だ。
二人で河川敷に腰を下ろす。
「花火、楽しみだなぁ。来年は受験だから見られないだろうし」
「雪は名門大学を目指しているからね。俺にはちょっと手が届かなそうだ」
強がってはいるが、かなりの確率で無理だろう。
先生から志望校の考え直しを要求されるレベルで成績が足りない。
「そうかな。開斗なら行けると思うけど」
「えっ……」
言葉の意味を問い返すより先に、一輪の花火が夜空に咲いた。
まあいいか。さっきのことは忘れよう。
俺は花火が咲く中でプレゼントを取り出し、雪に差し出しながら言葉を紡ぐ。
「雪、俺は雪が好きだ。付き合ってくれないか?」
「あっ……この髪留めを私に?」
期待していた返事ではないが、ゆっくりと頷く。
彼女が髪留めをつける間、花火が弾ける音と大きく波打つ鼓動の音がリンクする。
「ありがとう。是非お付き合いさせてください」
そう言って微笑んだ雪の頭上で、ハートマークの花火が打ちあがった。
――勉強、頑張ろうかな。一緒の大学に行けるように。
俺はそんなことを思いながら、幼馴染みから彼女になった雪に身を寄せた。