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第五話【猫人族のティコ、なのだ!】

 テントから出てきた人物――

 耳や尻尾がある……ということは、獣人かな?


 グゴォォォォォォォォォ!


 音を鳴らしながら、近づいてくる。

 なにげに怖い。


 あと一歩というところまで来ると、その人物が女の子だとわかった。

 街中には色々な獣人族の人がいたけど……たぶんこの子は猫人族(キャットピープル)だと思われる。

 ぱっちりとした大きな眼、猫っ毛のある髪型なんかはまさに猫という感じだ。

 その少女は、シチュー鍋を凝視するようにしてからガクッと地面に膝をつき、小さな声で何かをつぶやいた。


「お……」

「お?」

「お腹が、減った……のだ」


 ……なにこのシチュエーション?

 目の前には、お腹を空かして倒れ込みそうな少女。

 俺の手には、熱々のクリームシチュー。

 こんなのもう、言うべき言葉は一つしかない。


「えっと……食べる?」


 少女は俺が渡そうとしたシチュー皿を震える手で受け取り、ゆっくりと一口すする。


「ん……!? むぐ、ずずずずずっ」


 さらに一口……その後は熱いシチューを飲み込むように流し込んでいった。

 おいおい、猫舌仕事しろ。

 しかしまあ、この反応を見る限り、なかなか良い感じに仕上がっているようだ。

 自分も食べようと別の皿にシチューを盛ろうとしていると――


 グオロロロロロロロロロロ!


「お代わり……いる?」


 その問いに、少女は大きく頷いた。

 少女にお代わりを注いであげて、ようやく俺もシチューにありつく。

 ああ……馬車で長時間揺られたせいか、地味に疲れていたようだ。

 温かいシチューが体の奥底にまでしみわたる。


 コカトリスのモモ肉からは、旨味がたっぷりとシチューに溶け出しているのだが、肉そのものもおいしい。

 噛んでも噛んでも味が残っているので、飲み込むのがもったいないほどだ。

 モモ肉は脂身が少し多めなので、シチューには薄っすらと黄色っぽい脂が浮いており、それがまた野菜の旨味と合わさってコクのある味になっている。


 うめぇ~。

 ……ごっくん。


「――ご馳走様でした」


 シチューを堪能し、神様へのお供えもこっそり実行。


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名前:ミチハル・コウサキ

レベル1

【力】6【敏捷】9【耐久】5【器用】9【魔力】0

スキル:〈鑑定〉

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 ……やったね。敏捷と器用がそれぞれ+4されている。

 コカトリス肉……かなり高価なだけあって、上昇値は大きいようだ。


 さて――そろそろ自己紹介をするとしようか。


「俺はミチハル。君の名前は?」

「ティコなのだ! ハルがくれたシチューはすごくおいしかったぞ。なんだか体の奥から力が湧いてくるような気がするのだ」


 少女はにぱぁっと満面の笑みで名乗りを上げた。

 なんというか、明るそうな子だな。

 でも、ミチとハルで名前が分かれているわけじゃないんだけど……まあいいか。


「それで、なんで倒れそうになるほど空腹だったの?」

「ティコはさっきまで迷宮に潜ってたのだ。疲れたから何も食べずに寝ちゃったけど、びっくりするぐらい良い匂いがして目を覚ましたのだ」


 ……なるほど。

 ちょっと失礼。


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名前:ティコ

レベル4

【力】5【敏捷】15【耐久】5【器用】14【魔力】0

スキル:〈剣術〉

----------------------------------------------------------------


 ほほう。敏捷と器用が高いですな。さっき食べた料理効果も上乗せされてるんだろう。

 力が湧いてくる気がすると言っていたが、特に騒いだりしないのは、自分のステータスを確認する術がないからか。


 街を散策しているときも、鑑定スキルを所持している人間は誰一人見かけなかった。

 神様がプレゼントしてくれたスキルだから、かなりレア度が高いのかもしれない。

 ふーむ。

 このステータスで、地下何階ぐらいまで潜れるんだろう。


 え? 少女のステータスを覗き見て罪悪感はないのかって? もちろんあるよ。

 これぐらいにしておきます。


「食事の代金はきちんと支払うのだ。お代わりまでしちゃったのだ」


 そう言って、ティコは懐から財布袋を取り出した。


「別にいいよ。俺が勝手にしたことだから」

「よくないのだ。さっきのシチューは本当においしかったから、何かお返しをしないと気が済まないのだ」


 律儀な子だな。

 まあ、そうまで言ってくれると料理を作った自分としては素直に嬉しい。


「じゃあ……こういうのはどうかな? 明日、俺はハシェルの迷宮に潜るつもりなんだ。魔物と戦うのは初めてだし、その手ほどきをティコにしてもらえるとありがたい」

「迷宮に潜るのか? てっきり、ハルは旅の料理人さんかと思ったのだ」

「いや、料理は趣味みたいなものかな。魔物食材は高価なものが多いし、いっそのこと自分で調達するのもアリかと思ってね」

「わかったのだ。ティコで良ければ喜んで手ほどきするのだ!」


 彼女はそう言って、俺の体をちらりと見る。


「……見たところ、ハルは何も武器を持っていないように思えるのだ。どうやって魔物と戦うつもりなのだ?」


 おっと、そうだった。

 料理道具をシチュー鍋に変化させたままなので、今の俺は丸腰だ。

 鍋に残っていたシチューをお皿に移し、シチュー鍋を大きめの包丁へと変形させた。

 これなら十分武器として使えるだろう。


「……びっくりしたのだ。それがハルの武器なのか?」


 ちなみに、料理の効果は基本的に伏せたままにしておくつもりだが、料理道具の変形については隠すつもりはない。

 迷宮内部は人も多いだろうし、形態変化するような道具を使っていれば、どうしたって人目につくからな。それを気にして魔物に遅れを取るようでは本末転倒だ。


 まあ、俺ってこんなすげえ道具持ってんだぞ! と言いふらすつもりは毛頭ないけど。

 乗合馬車で迷宮の話を聞いたときに、一応それらしい言い分も考えてある。


「迷宮では、稀に素晴らしい効果が付与された武器や防具なんかが発見されるらしいけど」

「知ってるのだ。ティコは持ってないけど、炎が噴き出す魔剣とか、色んな形に変化する武器なんかは聞いたことあるのだ」


 へぇ、けっこうピンポイントで似たような武器があるんだな。


「俺の料理道具も、そういった特別な物なんだよ。どこで手に入れたかまでは詳しく教えられないけど」


 さすがに、神様からもらったなんて言えない。迷宮でドロップした希少品だと思ってくれればいい。


「そうなのか。わかったのだ」


 納得してもらえたところで、今度は俺がティコに質問した。


「ティコはどんな理由で迷宮に?」


 俺は食材探しという理由が一番大きいが、彼女はどんな目的があるのだろうか。

 明日は一緒に迷宮へ潜ることになるわけだし、少しは親睦を深めておきたいところだ。


「迷宮で得られるものは、お金と決まっているのだ」


 わりと現実的な答えが返ってきた。

 魔石を換金するにしろ、魔物食材を換金するにしろ、迷宮の宝箱からドロップしたレア装備を売り払うにしろ、迷宮に挑む者たちの目的の多くは、金だ。

 だけど、お金の使い方は人それぞれ違うだろう。


「ティコは頑張ってお金を稼ぐのだ」

「なるほど。お金を稼いで、何か買いたいものでもあるのか?」

「……それは秘密なのだ。というか、出会って間もないのにレディーに質問ばかりするのはよくないのだ」

「そりゃあ、失礼しました」


 笑いながら怒られた。ごめんなさい。


「でも、今日みたいにおいしいものを食べさせてくれるなら、そのうち話してあげてもいいのだ」


 ティコは元気で明るい性格なので、話していて楽しい。

 食卓に明るい笑顔があると、飯がうまくなるものだ。


 ……独りで食事をするのは侘しいものがあるし、こんなふうに共に食事を楽しめる相手ができるのは喜ばしいことかもしれない。

 自分が作った料理をあれほどうまそうに食べてくれたのも、なにげに嬉しかったからな。


 迷宮の地下一階にはオークやスライムが生息しているんだっけ。

 オーク肉は何度か食べたけど、スライムって食えるのかな?

 明日、迷宮で遭遇することがあったら持ち帰って調理したい。


 どんな料理が作れるか……楽しみだ。

読んでいただきありがとうございます。

楽しんでいただけたなら幸いです。

まだまだ続きますが、ポチっとしていただけると作者はとても喜びます^^

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