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第二話【オーク肉は力+1】

昨日は合計で2話分(序話、一話)を投稿しておりますので、ご注意ください。

 異世界での初ランチを終えた後、俺はそのままレイストン市場を散策することにした。

 色々と迷ったが、まず必要だと思ったのが塩や胡椒などの調味料だ。

 神様の料理道具を使って調理するとしても、ただ肉を焼くだけでは味気ない。


「そこのお兄さん! 今ならオーク肉が安いよ! 今朝倒したばかりのやつを潰したから新鮮そのもの! このでっかい肉が、なんと小銅貨三枚だ!」


 肉屋の大将がそんな売り文句を口にしていたから、俺はまんまとオーク肉を購入してしまった。

 普通の豚肉よりやや脂が少ないような気がするが、赤身の部分の色が濃い。

 まるで牛肉のような色味だ。

 小銅貨三枚は……30フォルか。

 やはり自炊するほうが圧倒的に安く済むようだ。

 まあ、今回は調味料の他にも色々と買い物をしてしまったから、最終的に大銅貨二枚ほど使ってしまったわけだが。


 食材を買い集めた後は、本日の宿を探すことにした。

 幸いなことに、旅人向けの宿屋というのは街の中にいくつもあった。

 外観が立派なものほど高く、朝晩の食事付きで小金貨一枚という高級宿もある。


 いくつか見て回り、一泊小銀貨一枚というお手頃な宿屋を見つけることができた。

 食事は自分でなんとかするから、素泊まりをお願いしたいと伝えたら、一泊を大銅貨六枚にまけてもらえたのも助かる。

 さらにこの宿屋のいいところは、敷地内に大きな中庭があるところだ。

 広い空間には竈も設置されており、煮炊きができるようになっている。

 街で記念祭があるときなど、旅人が多く訪れるので、部屋数が足りなくなることもあるのだとか。

 そんなとき、この広い中庭に旅人がテントを張って泊まることもあり、そういった人たちが煮炊きできるように竈を作ったらしい。


 素泊まりする俺は、その竈を自由に使っていいとのことだ。

 薪も豊富にあるようだし、なんだかキャンプみたいでワクワクする。

 そろそろ夜ごはんの時間帯なので、俺はさっそく神様からもらった料理道具を使ってみることにした。


 竈の前にある大きな木のまな板に、買ってきたオーク肉の塊を置く。

 包丁形態――肉厚中華包丁。

 挽肉にするのに適している形へと変化させ、勢いよく振り下ろす。


 ストトトトトトトトトッ! トントントントン! タントンタントン!


「……なにこれ、すごい」


 すごい速さで包丁が肉を切り刻んでいく。

 軽快なリズムで楽しくなってくるほどだ。

 塊だった肉は、ほんの数秒で細かな挽肉へと変貌していた。


 さらに驚きなのは、刃の部分に脂などが一切付着しておらず、切れ味がまったく鈍っていないことだ。

 ……あり得ない。

 肉の塊を挽肉にするのって、本当はもっと重労働なはずなんだけど。


 うおおおおおおお! すんごい楽しい。

 なんで神様はこれを使ったのに、一回で料理挫折しちゃうんだよ!


 木のボウルに挽肉を移し、塩胡椒を加えて肉に粘りが出るまでコネコネ。


 みじん切りにした玉ねぎもどきを加えて、さらにコネコネ。


 玉子一個を割り入れ、パン粉を投入してさらにさらにコネコネ。


 あとは楕円形に成形してあげれば、オーク肉のハンバーグの種が完成である。


 さっそく焼いていこう。

 ……ってそうか。薪があっても火を点けないと始まらない。

 火種は宿の人にもらってくることにして、小さな木くずに着火してから薪の中へと放り込んだ。

 乾燥した薪とはいえ、燃えるまでには少し時間がかかる。


 これ、着火器具とかには変形できないのかな? ……さすがに無理か。

 電子レンジとか冷蔵庫にまで変形できたら、テンション爆上がりだったのだが……。

 まあいい。とにかく料理の続きだ。


 鍋形態――フライパン。


【金剛不壊】とやらの恩寵のおかげで、絶対に剥がれることのない無敵コーティングのフライパンを火にかけ、ハンバーグを乗せる。


 ジュジュジュ! と肉が焼ける良い音が響き、食欲をそそる匂いが鼻を刺激した。


 ちなみに、ハンバーグは二つ焼いている。

 両面にしっかり焼き目が付いたら、市場で安売りしていたワインをちょちょっとふりかけて蓋をし、蒸し焼きにしてやる。


「うわ……なんかすごいぞ」


 蓋をした瞬間、ブシュシュシュ! と白い蒸気が勢いよく噴き出し、ふりかけたワインが一気に蒸発してしまった。


「え……まさか、もうできたの?」


 数分間は蒸し焼きにする必要があるはずなのだが、ものの数秒で完成したっぽい。

 試しに木の皿にハンバーグを取り出し、フライパンを包丁に変化させて刃先をほんの少しだけ肉に刺し込んでみる。

 すると、透明な肉汁が噴水のようにあふれ出てくるではないか。


「うっそだぁ」


 本当に中まで火が通ってるな、これ。

 オーク肉のハンバーグ……完成です!

 って、やばい。

 こんなに早く出来ると思っていなかったので、せっかく購入しておいた白米をまだ炊けていない。


 料理道具をごはん炊き用の土鍋へと変化させて、急いで白米を炊く準備をする。

 井戸水で研いだ白米を水に浸し、土鍋を火にかけた。

 やはり、というべきか、蓋をした瞬間に白い蒸気が噴き出し、まるでチンとでも言わんばかりに蓋を開けろと土鍋が主張してくる。

 もうこれ、圧力鍋とかいうレベルじゃねーな。


 蓋を開けると、ふっくら炊きたてご飯が出来上がっていた。

 一粒一粒がしっかりわかるほど、米が立っている。

 神様ぁ! これで料理に挫折するとか、どんだけよ!




 ――よし。とにかく食べよう。


 俺は熱々のハンバーグをナイフで切り分ける。

 切り目からトロトロあふれる肉汁を、肉と一緒に炊きたての白飯と合わせて頬張る。

 最高の贅沢だ。


「……うまい」


 我ながら、上出来のハンバーグだ。

 ほとんど神様からもらった道具性能のおかげだけども。

 うん。オーク肉っておいしいな。牛肉のようにしっかりした赤身で、豚肉よりはちょっと脂が少ない。

 もし上質の合挽き肉でハンバーグを作ったら、こんな感じになるんじゃなかろうか。


「――ご馳走さまでした……ふぅ」


 おいしいものを食べたせいか、なんかこう……力がモリモリ湧いてくるような気がする。

 え、ちょっと待って。

 気がするだけじゃなく、本当に体の筋肉が張るような感じがするんだけど。


 いや、着ている服がやぶけるとか、そういう劇的な変化ではないが、み・な・ぎ・っ・て・き・た! と叫びたくなるぐらいには、力が湧いてくる。

 まさかと思い、俺は自分のステータスを確認してみた。


----------------------------------------------------------------

名前:ミチハル・コウサキ

レベル1

【力】6【敏捷】5【耐久】5【器用】5【魔力】0

スキル:〈鑑定〉

----------------------------------------------------------------


 おいおい。マジか。

 力+1……されてますね。


 レベルについては変化なし、か。つまり……ステータスのみ上昇した?

 これって、一時的なものなんだろうか?

 どう考えても、今食べたオーク肉が原因だよな。


 たぶんだが、神様からもらった料理道具を使って調理したというのが、この結果につながったのだと思われる。

 だって、お昼にランチを食べても何ら変化はなかったもの。

 使われた食材がオークとジャイアントフロッグで異なっているが、意味深な神様の言葉から推測するに、そういうことだと思う。


 この異世界において、食道楽を追求しようとすると、最終的に迷宮の深層にいるような強い魔物の食材を欲することになる。

 それならいっそのこと、食材を自分で調達するのも悪くないんじゃない? ……と、神様はそう言いたかったのかもしれないな。

 これはこれで、ちょっとワクワクしてきたぞ。


「おっと、忘れてた」


 そこまで考えて、俺はもう一つのハンバーグを木の皿に乗せて、白飯を茶碗によそってあげた。


 ――神様へのお供え。


 とりあえず、神様からもらった道具で作った料理については、お供えしていこうと思う。

 これ……どうすればいいんだろう?

 お供えしてとは言っていたが、その方法がわからない。


 俺は適当に手をパンパンと叩き、心の中で神様にどうぞ、と念じた。

 次に目を開けると――器にあったハンバーグと白飯が綺麗さっぱりなくなっているではないか。

 どうやら、無事に神様のもとへと届いたらしい。


「よし」


 そうして、俺は宿の部屋へと戻った。

 色々あって疲れたせいか、ベッドに寝転がるとすぐさま瞼が落ちる。




 ――その晩、俺は夢を見た。


 目の前にいるのは、神様だ。


「あー、おいしかった。久々に下界の食事を堪能したけど、やっぱり肉を食べると幸せな気分になるよね。これからも君の異世界食道楽が豊かなものになるよう、祈らせてもらうよ」


 こちらが何かを言おうとしても、夢のせいか声は出せない。

 でもまあ、神様にお祈りされたら御利益がありそうな気はする。


「今後もお供えを続けてもらえると嬉しいな」


 了解です。

 一人分も二人分も、作る手間はそんなに変わらないからね。


 でも神様。

 一つだけ、言いたいことがあるんです。


 口のまわり……肉汁でベッタベタっすよ。

読んでいただきありがとうございます。

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