仕事確認
「起きて、朝食が冷めちゃうわ。」
異世界2日目、優しい声で俺は起こされた。
目を開けた俺が最初に見たのは美人だ。
エレナは昨日とは違う服装をしており、何というか…すごく綺麗だ。
可愛い顔や髪型によく似合うエプロンワンピースを着ている。普段からその格好をしていてほしいものだ。
…朝飯?俺の聞き間違いでなければ今彼女は朝飯が冷めると言ったか?
「飯…作ってくれたのか?」
「そうよ、早くこっちに来て。」
俺は言われるがまま奥の部屋に移動する。
そこはこれまた世界観ぶち壊しのシステムキッチンが並んでいた。…なんでだ?
「ほらこっち、座って?」
キッチン前のダイニングテーブルに連れていかれ、座るよう促される。そこには二人分の料理が並んでいた。
献立は、パンにシチュー…これは『ファーニル』(牛型の魔物、捨てるところがないと言われている。)の肉が使われているな、お金がそれなりにかかっていそうだ。
「冷めないうち、どうぞ。」
俺が椅子に座ると、そう促して来た。心なしかそわそわしているように見える。
「ああ…いただきます。」
俺は手を合わせ、スプーンを取る。スプーンは木製で、実に味がある。
その木製スプーンでシチューをすくい、一口食べる。とてもクリーミーで、後からスパイスも追いかけてくる。濃厚な味わいにさらにパンチを入れてくるファーニルの肉はあまりにもうまい。そんな濃い味を整える『シンベル草』(ほうれん草のような野菜。暑い地域で美味く育つ。)はよく育っている。
「これは…美味いな…。今まで食べて来たなによりも美味く感じるよ…。」
「本当!?よかった!!」
彼女は満面の笑みでそういった。そわそわしていたのは料理のことが気になってたわけか。
ちなみに、俺はお世辞は言わないタイプだ。
アンファタで熟練度9999の料理を何度も食ったし、現実世界で美味い料理もなんども食ったが、ここまで身にしみて心に響く料理はなかった。
こちらの世界に来て言いようのない孤独感を感じていたが、それを全て覆うようなこの料理に涙すら出た。
「あ、あなた…そんなに?それは流石に引くわよ?」
いつのまにか泣いていた俺は、エレナを引かせてしまったらしい。
それからいっときは俺が鼻をすする音とカタカタと皿にスプーンが当たる音だけが響いた。
しばらくしてエレナがスプーンを置き、話しかけて来た。
「泣いているとこ悪いんだけど、私と仕事ってどうするつもり?」
泣きながらシチューを書き込む俺に引きつつも、仕事の話を聞いてくる。その点はやはりエレナだ。
「えううんう、まうああぬえに」
「泣いてるし口に物入ってるしで何いってるか分からないわよ!!」
おお…これは失敬。俺は口いっぱいのシチューを飲み込んで、涙を拭った。
「とりあえず、君の仕事を手伝いたい。今は何の情報を仕入れてるんだ?」
自分から言い出したんだ。向こうに合わせるのが当然だろう。
「そうね、今私は近くの森の薬草のことを調べているわ!」
今、なんと?
「これはまだ誰も知らないことなんだけど…実は…。」
まさか…あの森で新種が発見されたと言うのか?!
ギザギザ葉っぱの気付け薬草『シビ』
木の上の方に寄生する滋養強壮薬草『ハイル』
それから一番よく見られる治癒、解毒薬草『ハルシェ』
あとはなんだっ「解毒薬草が見つかったの!ほらこれ!」
俺の思考の途中で彼女が取り出したその草はどう見てもハルシェだ。
その話を聞いて一気に涙が引き、この世界の情報レベルにまたも危機感を感じた俺は決心した。だがそれを口に出す前にハルシェの効能の訂正からだな。
「ハルシェは解毒だけじゃなくて治癒にも使えるよ。」
「は?何言ってんの?昨日私が初めて見つけたものよ?それにだいたいなによ、ハルシェって。」
否定されて突っかかってくる彼女だが、とりあえず説明をさせてほしい。
「俺がいた世界での呼び名だよ。たしかにそのままだと解毒作用しかないんだが、特殊な工程を踏むとポーションとして使えるようになる。」
とここまで説明して俺はウィンドウを出し、スキルページを確認した。
この際、エレナはウィンドウが見えていないようだったので、もしかしたらこのウィンドウは俺だけのものかも知れない。
ちなみに現在のスキル状況とステータスはこれだ。
小鳥遊 優
LV 3
基礎ステータス
POW 8
VIT 7
INT 9
AGE 6
LUK 0
プラスアビリティステータス
AGE+10
熟練スキル
遠投 18/9999
投擲 10/9999
大声 1/9999
解体 15/9999
冷静 30/9999
恐怖付与 5/9999
盾 25/9999
回避 95/9999
(生産)
調合 5/9999
薬 40/9999
ポイントスキル
アジリティアップ 10
と言う状態だ。
なぜ俺がこれを見たかと言うと、薬生産のスキル数値を見たかったからだ。
「なんなのよ、その工程って。」
俺が数値を確認し終わったあたりで彼女が聞いて来た。
「材料が足りないから、それは実際に森に行ってのお楽しみってとこかな?」
「…なんもなかったら承知しないから!」
その後俺たちは喋ることなく飯を食べ終え、すぐに彼女のエリアテンションで森へと向かった。