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存在

 俺はこの世界に転移(・・)したと思っていた。

 身体ごとこの世界に移動した…と。


 俺が名乗った瞬間、周りの景色や目の前のエレナが時間を止められたように動かなくなり、謎の存在が現れた。

 それは実際には姿は見えず、ただ気配がするのみ。

 俺はその存在を知っている。が、覚えていない。

 俺が思い出そうとしていると、微塵も動かないエレナの口だけが不自然に動き始めた。

 「楽しんでいるか?」

 だが、その声は違った。なんというか、空間的な音響効果をつけたような響き、エコーやリバーブなどのエフェクトを付与したその声はまるで直接脳内に響いているようだった。

 俺はその謎の存在の言葉の意味がわからなかった。

 楽しんでいるか、この問いに対する正しい答えがわからない。

 「お前は誰だ?」

 この場で一番必要な情報は相手のこと、忘れている何かを思い出さない限りはこの状況下で冷静にはなれない。

 俺の疑問を受けたその存在はエレナの口を閉じ、何も発さない。教える気がないということか…?

 「俺はお前にあったことがある。」

 話を進めるため、持てる知識を提示してみる。どこまで知っているかを悟られない、情報戦争ではこの読み合いが重要だ。

 「おや…、記憶が生きていたか。」

ほらな、かかった。

 「残念だったな、情報屋の脳から記憶を消すのは難しいんだ。」

 「ふん、生意気なやつだ。やはり死んだまま放っておくべきだったか。」

 …今なんと?

 「死んだまま放置」と言った気がする。

 まて、俺、冷静になれ。情報戦争中に取り乱すのは負けを認めたことになる。考えられることを今の知識から割り出すんだ。

 俺はこの世界に…信じられないが、転移したと考えていた。理由は生まれ変わってないからだ。

 何かしらの理由で死に、生まれ変わる。輪廻転生と言うのはいつの世も姿形は違うものに生まれ変わるようにされている。魂だけが天に昇りそしてまた生を受ける。

 俺はそれを経験した記憶がない。

 つまり昨日、アンファタ内で寝た俺は何かしらの力を受けてこの世界に転移したと考えていた。

 いやまて、さっきの話を思い出せ。奴らは確か、俺の記憶を操る術を持っている。

 …転生期間の記憶をすっぽり抜かれていたら…?

 …ここがこの戦争の勝負どころだな。

 「俺をなぜこの世界に転生(・・)させた?」

 相手の返答をじっと待つ。

 この緊張感は嫌いじゃない。

 「…本当に記憶が消えてないんだな。」

 勝ちだ。

 おそらく、転生や転移など信用しないとでも踏んで、記憶の操作を適当にしやがったな?

 「俺はそこらへんの奴らとは違うんだよ。で、なんで転生させた?」

 「ふん、貴様が疲労で寝たあの日、お前の現実の体は重度の睡眠不足により脳細胞が破壊され死に至った。まあ、過労死になる。貴様はこの世界によく似たゲームの中で最強であった。そんな貴様にやってもらいたい事があってな。」

 やってもらいたい事…?

 「貴様にこの世界の真理を見てほしい。」

 「真理?そんなもん見てどうするんだ。」

 「貴様は知らなくていい。ただ真理を見ろ。」

 釈然としない。

 例えるなら上司に薬を売れと言われて、なんの薬かわからぬまま売るような…居心地の悪さを感じる。

 しかし、これ以上はおそらく情報を引き出せはしないだろう。

 俺はとりあえず承諾することにした。交換条件を加えて。

 「真理でもなんでものぞいてやるよ。世界一の情報屋の名にかけてな。ただ、何か力をくれてやってもいいんじゃないか?異世界転生のテンプレだろ?」

 そう、俺はすべての力を奪われ、この地に立っている。

 真理を見ろだの何だの頼むなら、チート技の一つや二つくれたって構わないだろ?

 しかし、俺の思いは届かず、エレナの口を借りたそいつは高笑いし、こう言った。

 「はっはっはっはっ!!貴様の世界の物語の話か?そんなもの、あるわけ無いだろ?フィクションとノンフィクションの違いもわからないのか?」

 クソ野郎だ。フィクション?この状況自体フィクションみたいなもんだろふざけんな。

 「それじゃ、世界一の情報屋さん?真理の追求よろしく。」

 「まて、おい!!」

 そう言って、その謎の存在は気配を消し、同時に止まった時間も動き始めた。

 エレナは口を触りながら「口だけなんだか異様に疲れたわ…。副作用かしら?」などと言っている。副作用なんてない。

 俺は一体何をすればいいのかわからぬまま、本格的にこの世界に放り出されてしまった。

 先んずればお金が必要になることは確かだ。

 何かお金を稼ぐ手段を考えなければな。


 俺がそう考えて唸っている頃、エレナはテレパシーを持っているかのようにこう言った。

 「私と一緒に情報屋稼業をやらない?」


 俺は「お願いするよ。」とだけ返し、そのまま疲れ果てその場で寝てしまった。

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