情報屋の情報レベルはその世界の知識レベルに匹敵するとかしないとか
「起きろっ!!」
バシャーン
突如水の中に投げ込まれ、俺は気絶状態から叩き起こされた。
「敵襲かっ!?!」
昔、パートナーだった奴を思い出す。そいつとはよく高難易度の狩場に二人で行っていた。
狩りの途中にどちらかが寝た場合はキンキンに冷やした水で起こすことが毎回恒例になっていた。
「違うわよ、ほら起きて?」
俺を水の中に放り込んだその女性は、二重人格なのかニコニコとした笑顔で手を差し出してきた。
手を掴んで起き上がりながら周りを確認すると、そこが街の中心の噴水であることがわかった。空はまだ暗い。
「手がびちゃびちゃになっちゃったじゃない。」
お前が投げ込んだんだろ?と心の中でツッコむ。
「…助けてくれてありがとう。本当に君が居なければ死んでいたよ。」
噴水から上がりながら例を言う。
「どう致しまして。」
実際助けてくれたのはこの人だ。心の底から感謝してはいるが…こう、何だろうか、少し変わっている気がする。
それと言うのも、戦闘中は暗い中で慌ただしかったのでどんな姿か見えなかったが、面白い格好をしている。
可愛らしい顔や女性らしいふわっとしたボブの髪型に似合わない、黒地布のローブにベルト装備一式…(機動性重視の防具で皮の装備にベルトが沢山付いている。)。
まるで昔の俺だ。見た目だけで選んでいた時代の恥ずかしい頃のやつだ。
「なんていうか…君の格好…それは?」
曖昧な質問をして見る。もしかしたら罰ゲームかも知れない。
罰ゲームだったら、「これ早く脱ぎたいの」とか何とか言ってくるだろう。
「これ?カッコいいでしょ?」
やめてくれ。
「あ、あぁいいセンスをしてるよ。」
いい厨二センスを持っていらっしゃる。
ちなみに俺の格好は、こっちの世界に来た時のまま、青のローブに少しファンタジーチックなスーツという組み合わせだ。
アイテム名は情報屋のローブや情報屋の服などと言い、全部ハンドメイドだった。(装飾、武具、防具生産スキル熟練度9999だったからな。)…装備品としての効力は失っているみたいだけどな。
「貴方の服は…見たことない服だわ。」
「まあ、そうだろうね…。」
前の世界ならまだしも、こっちの世界にこの文化はないだろう。ということは、この子はアンファタプレイヤーじゃ無いのか…他にこっちの世界に来ている奴はいるのだろうか…。
「どこの生まれなの?」
彼女に聞かれる。何と答えたものだろうか…。一応、正直に答えてみるか。
「日本…。」
すると予想と違う反応が帰ってきた。
「なるほど、セリアン語が上手いわけだわ〜〜、だいぶ前に来た人なんてケルト語だったから話すのに苦労したわ…。」
なんと日本を知っていた。
セリアン語が日本語を指していることは分かるが、ケルト語はわからなかった。
「前って…他にも誰か来たの?!」
「ええ、3年前に。」
有力な情報を手に入れてしまった。
俺はその時、初めて情報を買う側の感情がわかった気がした。
「そ、そいつは今どこにいる!?」
俺が詰め寄ると彼女は手を差し出して来た。
「これ以上はお金が発生するわよ。」
…何万回も言ったセリフを言われる日が来るとは…
「君…情報屋か?」
「ええ、そうよ。世界一の情報屋、エレナよ。」
世界一と名乗る彼女はえへんと胸を張った。割と胸がある。俺の知識の中の『目で見る胸サイズ測量法』によればD、Eと言ったところか。
「世界一?の割にはスケルトンの攻撃パターンや自爆も知らなかったじゃないか。」
元・世界一の情報屋としては見過ごせない。ここはどっちが世界一かはっきりするまで論争だ。
「な…!そんな情報大した金にならないからよ!!あんただって私がどうやってここまで来たか知らないくせに!」
「エリアテンションだろ?」
「どうしてそれを!?」
ここまでわかりやすいアホの子を見たのは久しぶりだ。説明するのが面倒くさい…。
「さっき君がスケルトンの剣を止めてくれた時、暗かったけど足元が見えたんだ。そしたら濡れた土が散らばってた。それで分かったんだよ。」
「な、なんて観察眼…。情報屋として嫉妬するレベルね…。」
「まあ、俺も情報屋だからね…。」
「それならまあ、納得ね。でも私以外に情報屋っていたんだ。」
この世界では情報屋と言う職業は珍しいということか。
アンファタでも最終的には珍しくなったけどな。俺のせいで。
「ちなみにエリアテンションは隠密系魔法だからそういう土を残すのは良くないよ。」
「あれは必ず出るのよ。魔法使い以外は魔法に口出し厳禁よ。」
この世界の人族の情報レベルが気になる。流石に知識がなさ過ぎないか?
ていうかこの子何も知らないけど何を売って稼いでるんだ…?
「はぁ〜。」
俺は深くため息をする。
「何よその反応!ムカつくわね!」
拳を握る彼女、その手からは血が滴っていた。
「あ〜、まあ後でやり方教えるから、とりあえず傷を癒さないか?」
俺も彼女もかなりの怪我をしている。しかも彼女の手の傷の原因は俺だ。なんとも居た堪れない。礼も兼ねて手当をするとしよう。
「そうしたいのは山々だけど、この時間はまだ病院やってないわよ?」
「大丈夫だ、そのかわり家に行かせてくれないか?」
「な、何する気!?」
「傷を癒すんだよ!!!!」
アホの子らしい反応だ。疲れる。
「何もしないならいいけど、どうやって…?」
「まずは付いて来てくれないか?街に通っている川の下流にいいものがあるんだ。」
「分かったわ。ちょうど私の家もその辺りよ。」
これは助かる。
街に流れる川は魔力が微量に含まれており、その魔力に相性のいい薬草が生える事がある。
ただ、おそらくこの世界の人はそれを知らない。
俺が広めた情報だからな。
川は下流になればなるほどだんだんと広がっていき、上流で砕かれた石で砂利が多くなる。
その砂利が今回の薬草のキーになる。
「ここらへんだな。」
俺は川に浸かっている場所を狙って砂利を掘っていく。
砂利は砂や土よりも隙間が出来やすく、水が流れ込む。
そこに…
「あった!」
「なにそれ…?苔?」
そう苔が生えるのだ。この苔は普通の苔と違って、砂利の隙間から水と魔力を多く得た『魔苔』というものになっている。
砂利の中以外にはこの苔は生えない。理由は川の魔力は物理反応するからだ。砂利の隙間などに入らない限りは、魔力が薄い濃度のまま流れ去ってしまうため、魔苔ができるほど魔力がたまらない。
「家に案内してくれ!!」
この苔は鮮度が命のため、急いでエレナの家に向かう。
ーー
「そんな苔で本当に治るの?」
「まあ、見てなよ。」
エレナの家に着いた俺はすぐにそれをすり潰し始めた。
すり潰しながら家の中を観察してみる。
入る前の外観はなんとも普通の家だったが、中はすごく女性感がある。ふかふかのベッドに数匹のぬいぐるみ。丸テーブルにピンクのテーブルクロス、足元にはふかふかのカーペットが敷かれ、そこにはハート形や星形のクッションが…
「なにジロジロ見てんのよ、変態。」
世界観に背いた部屋を見ていたら変態という不名誉な二つ名を付けられた。
「…出来た。」
俺は不名誉な二つ名を得てすぐに薬を作り終わった。あとはこの薬を傷口に塗るだけだ。
「手を出して?」
先に傷を治してやろうと気を利かせたのだが、なかなか出そうとしない。
俺は苔を手につけて「ほら早く」と急かす。
が、出さない。
「アンタそのぐちゃぐちゃを傷口に塗るつもり?」
「…あー、分かった分かった。先に俺が塗るよ。」
俺は手につけた苔を額と足の傷口に塗った。
塗ったはじから傷口が無かったかのようにふさがり、数秒で傷跡すら消えた。
「………」
これを見ていた彼女は黙って手を差し出して来た。分かりやすい子で助かる。
「…ありがとう…。知らなかったわ…こんなの…。あなた一体何者?」
手を開いたり閉じたりしながら、信じられないものを見たような顔で俺に疑念の目を送ってくる。
「さっき言っただろ?」
俺はこの世界で初めて名乗ることとなる。
この世界でも最強になる、俺の物語の第一歩。
「情報屋の小鳥遊優だ。」
風邪ひきました。