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現実と非現実

 「ん…、ここは…?」

 目を覚ました俺は辺りを見渡して思い出す。

 ここは魔王城18階…。そうだ、昨日は疲れてそのまま寝てしまったんだ。

 「はぁ〜、やっちまったなぁ…。DM、溜まってんだろうなぁ…。」

 情報屋として初の失態に頭を抱える。DMを見るのが怖い。

 「とりあえず、昨日調整したスキルのおさらいをするか。」

 俺はいつものようにウインドウを出し、スキルページを開く。慣れた仕草で、いつものように。

 「昨日は確か、幻覚耐性を外して…トラップを…なんだ?」

 そう思い出しながらウィンドウに目を落とすが、そこには何も書かれていなかった。


 百以上あったスキルが全て消えていたのだーー。


 …一瞬バグか何かかと思ったが、それは考えられなかった。今までこんな事は無かったうえ、アンファタのサーバーが不良を起こすとは思えない。

 気になった俺はアイテムやステータス、さらにはフレンド、DMのページまで開いて見たが、何一つ書かれていなかった。

 「この世界で一体何が起こってるんだ?」

 不安になってきた俺は、それから更に三つおかしなことに気づいた。

 もともと、魔王城というダンジョンはプレイヤーの声や魔物の喧騒がどの階層にいても聞こえていたのに、今は全く聞こえない。それどころか気配もしない。

 それに、

 「…この異常なほどの現実感はなんだ?」

自分が()()()()()()()()感覚がしないのだ。

 アンファタのゲームジャンルはFD(フルダイブ)MMORPG。意識全てを機械で読み取り、ゲーム内に具現化させるというものだ。つまり、非現実空間で現実感を楽しもうというコンセプトである。凄いことに味覚や触覚はもちろん、痛覚すらも感じられる。

 そんなアンスタシアファンタジーの世界はいい意味で現実感があった。

 ただ今は、悪い意味で現実感が強すぎる。

 肌を触る感覚や聞こえてくる音、見える景色、地面の砂埃の味。全てがきめ細かすぎる。

 意識だけではなく、体ごと…全部が仮想空間に入り込んでしまったかのような感覚。

 最後に…ログアウトができない。ページまるごとが存在していなかったかのように、無い。

 「一旦…外に出よう…まずはそれからだ。」

 俺は一度魔王城を出て、同イベントで新しく出来た街に行くことにした。

 他のプレイヤーに会いたかった、不安を共有し、情報を得たかった。世界一の情報屋が他の人間に情報を欲しがるほどには、情報が無さすぎた。

 「本当に何もいないな…。」

 急いで魔王城を駆け下りる間、俺はどのモンスターにもプレイヤーにも会わなかった。

 散々手こずっていたハインズや7階のヘルスティンガー、その他のモンスターは勿論、昨日俺の情報を買ったパーティが7階でオールすると言っていたはずだったのだが…そいつらですら居なかった。

 そんな謎極まりない景色を見ながら全速力で走るがどうにも調子が出ない。アジリティが上がるスキルは全てつけていたはずなのに、全くスピードが出ないのだ。…まるで現実世界の俺が全力で走っているくらいのスピードしかでない…。

 その結果、いつもは5分もせずに往復できる距離に結局30分近くかかってしまった。


 「…な…なんだ…ここは…?」

 息を切らして外に出た俺の目に飛び込んできた風景は草原だった。起伏もなくまっさらに緑が続く綺麗な草原。遠くには森と…

 「あれは始まりの街…バド…?」

 初ログイン時の設定後に連れて来られる街、バドが見えた。

 「そんな…!魔王城は確か一年中雪が降るという街シウィルの近くにあって…そこを拠点に…。だいたい、始まりの街から何キロ離れてると思ってるんだ!?」

 心臓が早鐘のように鳴る。

 このままでは二進も三進も行かないし、何も分からないのでもう一度魔王城に入って他に誰かいないか確認してみようと後ろを振り向いた瞬間、魔王城は消え去っていた。

 「嘘だろ…?一気に色々起こりすぎなんだよ…。」

 頭がおかしくなりそうなのを堪えつつ、とりあえずバドに行って見ようと虚ろな頭で考えた。

 情報屋の鉄則だ…思考をやめた先は何も無い。

 俺は数キロほど先にあるバドに向かって歩き始めた。

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