情報屋は全てに通じていなければならない 下
「こっちの容器にロウウォーターを補助『粘性』と言う言葉を付けて詠唱して水を入れてくれ。」
俺はエレナに小さな陶器のコップを渡した。この陶器の入れ物はどこから出したって?
「私のコップじゃない!」
エレナの家でこっそり拝借していたのさ!
「後で謝るから早く!」
「わかったわよ」と小さく言い、コップに向かってエレナが唱える。
「粘性 ロウウォーター!」
すぐにコップいっぱいに水が注がれる。粘り気が強い水が並々に。
「この補助って本当に凄いわね…。ところで、この粘っこい水をどうするの?」
アリアが呆然と見ている中、俺はテキパキと作業を進める。かまっている暇がない。俺はすぐに受け取った水の中にハルシェの粉を入れて詠唱をする。
「線状に広がれ ヒール!」
「な、なにこれ!?糸!?」
ハルシェは粘り気のある水に入れ、正しい詠唱を行うことで治癒力の含んだ糸が出来上がるのだ。そう、現代医学において大病、大怪我の場合にほぼ確実に行われる『縫合』。これを今から行う。
糸に流れる魔力を精密に動かし、包帯を巻いている腹部へと流す。これ以上傷口を晒すのは失血死や感染病のもと。せっかく綺麗にしたんだ、包帯は取らない。
「その糸で何をするのよ」
「まあ、見てな」
俺はそう言い放った後、集中力を限界まで高め傷口を魔力で感知する。
情報屋は基本一人、あって二人パーティだ。だから医学には精通していなければならない。アンファタ内で死ぬとリスポーンするだけだが、そのリスポーンで失うアイテムや経験値が俺には大きすぎる。トップであればあるほどデスペナは厳しいものだ。
腹部、臍の上、胃の少し下あたりから左足にかけての裂傷、深い、内臓は…大腸、小腸傷あり、これは浅いか…
「ピリピリするような集中力だな…、なんなのだこの男は…」
意識の遠くでアリアの声が聞こえる。もっと集中しなければ…!
包帯と皮膚の隙間からハルシェの糸を通していく。先程感知した部位目掛けて伸ばす。…くそ、魔法操作スキルが未熟すぎる、気分が悪くなってきた。魔力酔いか…
「チッ」
小さく舌打ちをして意識を戻す。
小腸に届いた。縫合は…正確に、隙間なく…!
「ハァッ…!」
ここからはスピード勝負。一気に小腸を縫合、そのまま大腸へ……終了。周りの血管をしっかり繋げていく。ちなみに俺はどんなにスキル熟練度が低くても小さな血管に四回以上は縫合する。これが施術後の回復力に差をつける。最後は…傷口、大元だ!!
15分後
「………」
「ど、どうなったのよ…」
「なんでだまっているのさ、どうなったかいいなさい!」
「…………成功だ。つかれたぁぁ…」
無事、施術は成功。彼の傷口はハルシェの糸によって縫合され、出血は止まっている。
「後は輸血だぞ、ま、輸血なんてすぐ終わるけどな」
「どうするつもり?」
「俺に向かってこの呪文を唱えろ」
顔が真っ青な男性を見ながら、エレナに言う。早くしなければ…
「リヒター」
「わ、わかったわ。『リヒター!』…ところでこの呪文って待って待って待って?!優?大丈夫?!」
「俺を…安静な場所で…寝かせて…」
真っ赤に染まっていく視界の中、俺は意識が途絶えてしまった。




