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周知の事実 上

ー森 ハルシェ群生地ー


 「それで…なんで襲ったんだ?」

 俺は手についた土を落としながら、目の前にいる女性に詰め寄る。

 「…。」

 女性は喋らない。

 今度はエレナが詰め寄る。

 「またあなたなの?今度はなに?」

 「……。」

 また喋らない。無言が続く。

 

 なぜこんな訳の分からない状況になっているかというと…

 実は二人でハルシェを採取して帰ろうとした瞬間にとある事件が起こったことがきっかけとなった。

 あれは数分前のこと…


ー20分前ー


 「さて、そろそろ帰るか。」

 「…だからどうやって帰るのよ、この束…手から落ちちゃうじゃない。それに青臭くてたまんないわ…」

 帰り際に嘆くエレナ。この薬草ハルシェはエレナの言う通り、実に青臭い。何というか…これは…昔の記憶…。幼い頃によく遊んだ用水路の横に群生しているドクダミ。あれを思い出す。

 アンファタよりも鮮明に感じるその匂いは脳を痺れさせるほどだ。

 「たしかにこれを手に持って帰るのは酷だな…。さっき言ったように俺が全て持つから貸してくれ。」

 エレナは言われなくてもと言わんばかりの素早さで持っていた50本ほど全て渡してきた。

 俺はそれを受け取り、小声で収納と呟いた。

 『アイテム ハルシェ×115 収納』

 見慣れたウィンドウが浮かぶ。

 このウィンドウの概念が無いことはすでにわかっている。彼女には見えていないはずだ。したがってエレナの反応でこの世界にあるもの(・・・・)があるかどうかが分かる。

 「おぉ…。あなたって収納魔法が使えたのね…。羨ましいわ…。」

 確信だ、この世界には『異空間にアイテムを収納する方法が存在している。』

 つまりアイテムページ収納をわざわざ隠す必要性がなくなった。これはかなりの好条件だな。

 

 「…?」

 そのとき、何か、悪寒がした。

 俺がハルシェを収納した途端に風向きが変わった気がした。

 「どうしたの?」

 そんな俺を気にしてエレナが聞いてくる。

 彼女は気づいていないようだった。…俺の気にしすぎなのか…?

 そう思った瞬間、俺の顔の真横を何かが通り過ぎた。

 針…?

 いや、針じゃない。これは…"毛"だ。俺は覚えている。初心者の頃、好奇心で戦ったあの魔物…。

 「エレナ!伏せろ!」

 俺の怒号に反射的に伏せるエレナの頭上を数本の毛が飛ぶ。

 そして毛が木を貫通して、森の奥へと消えていった。

 「な、なんなの!?」

 エレナは慌てふためく。それもそうだろう。死んだら死ぬ当たり前な世界で、わざわざ強者に挑もうとする奴は居ない。

 この圧倒的な殺気の正体は…

 「ウェンウルフだ!!逃げるぞ!!」

 俺は屈み込むエレナの腕を掴んで、毛の飛んで来た方向から左側に全力疾走する。

 毛は俺たちの少し後ろを正確に射抜いていく。

 木々が生え揃い、草花が生い茂る足元。思うようにスピードが出ない。

 「きゃぁぁぁ!!ウェンウルフなんて近くにいなかったじゃない!!」

 叫ぶ彼女が言う通り、俺たちは地上に上がる前にできる限りの索敵をしている。その時はたしかにいなかった。

 「今はとりあえず走れ!!生き残れたらなんとかしてやるよ!!」

 俺たちはただひたすらに弾道から左、つまり姿の見えないウェンウルフの右側へと走っていく。

 これには理由がある。

 ウェンウルフは重心が左に寄っている。これは単純に利き足が左なだけなのだが、ウェンウルフの髭にその原因がある。ウェンウルフが風向きで歩く方向を帰るのはもはや周知の事実だが、これは最初毛のごわつきが原因だと言われていた。まあ、たしかに、それ()原因ではあるが、正確に風向きに沿って歩くのに、理由がそれだけでは不十分なのだ。実はウェンウルフは毛がなびかない程の微風でも察知して風向き通りに歩いていく。

 これを可能にしたのが左側の髭。ウェンウルフは右と左の髭で役割を変えている。

 右の髭は物体、空間の認識強化。左の髭は風向き読みのため。

 この左の髭、実は見た目にはわからないが、めちゃくちゃに重い。右の髭はただの補助だから退化していったのだろう。

 この特性のせいでウェンウルフは左重心になってしまう。つまり右向きには素早く方向転換ができないと言うわけだ。

 ちなみに、俺はすでに確信していた。これはMPKモンスタープレイヤーキラー。つまり人為的なものであるということだ。決して偶然ではない。

 そもそも風が木々に当たって風向きがコロコロ変わる森の中に自ら入ってくるわけが無いのだ。

 おそらく、魔法を使える奴が風魔法『ウインドコントロール』を使用して無理やりこんな森の奥に連れてきたのだろう。

 俺は全速力で走りながら、俺の手に引っ張られる彼女に作戦を告げる。

 「今から三つ数える。数え終えた瞬間にエリアテンションを補助なしで使え!中で30秒数えたらすぐ出てきてくれ!そしたら目の前に今回の犯人がいるはずだ。あとは任せる!」

 「ちょっ!犯人って?!待ってわからないことがたくさ「ひとーつ!!」ええい分かったわよ!やればいいんでしょ!?やれば!」

 エレナが決心したところで俺が2つと数え終わる。

 そして、

 「みぃーっつ!!いまだ!!」


 「エリアテンション!!!」

 すぐさまエレナが詠唱を行い、地中へと潜った。


 「さーて、作戦通りに動いてくれよ?まだ見ぬ犯人さん?」

 俺は全速力をやめ、その場に立ち止まりウェンウルフに向き直りこう言う。

 「お前は俺のレベリングに入れなかった事を喜べ。」

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