群生ハルシェ
始まりの草原にある森はそのまま『始まりの森』と呼ばれており、アンファタではラビ狩りをして初期レベリングをしている初心者冒険者がよくいた。また、料理人がここにある『ブラックペッパー』を取りに来ることもよくあった。
そんな森に俺たちが今いる理由はハルシェと言う薬草の調査だ。
エレナが請け負った仕事内容は、情報屋稼業では『調査・結果』と呼ばれるもので、自分が自らの意思で調べ売るものとは違い、調査から依頼されて結果を報告するという探偵業のようなものだ。
ちなみにこの世界では情報屋を探偵として使うことが主で、浮気調査なども請け負う。したがって探偵専門はいない。
今回はバトの病院の研究医『セドヴィグ』に依頼されたとのことらしい。彼はバイトの毒を受けたラットが森に入っていくのを見て、毒を解毒する草が森に生えているのではないかと想起した。この世界の情報レベルを考えると実に聡明な方だと思う。エレナより情報屋に向いてる。
そこで世界一の情報屋らしいエレナに解毒の薬草が生えている可能性があるから調べてほしいと依頼したわけだ。
彼女は二つ返事で了承し、前金の15万テト(1テト=1円の価値、アンファタ内と同じのようだ。)を受け取った。お得意のエリアテンションで草原を見張り、バイトの毒を受けたラットをそのまま追ったところ、ほかの動物やラットが食べない草を食べていたのを発見。それを摘み、持ち帰る途中に俺を見つけ助けてくれた…と。
ここまでがこの調査の経緯だ。
森の奥に進む間、エレナから仕事と助けてくれた経緯を聞いて改めてお礼を言った。
「ありがとう。昨日はエレナのおかげで助かったよ。そのお礼にこの仕事に関しては知っている知識をタダで提供するよ。」
こう伝えるとエレナは照れるような、ムッとしたような表情でこう答えた。
「怪我も完全に治ったし、昨日のことはいいけど…。これから仕事を一緒にしたいとお願いした手前、お金はきちんと折半しましょう?」
「いいけど…、この情報…俺がいた世界では30万テトするぜ?」
エレナは目を見開いて突然立ち止まった。
「…こ、今回は無しね…。次回からそうしましょ!」
正直コンビを組んだつもりだったから俺の情報は全てタダで提供しようと思っているが、少し意地悪をしてみたくなった。
エレナは可愛いらしい顔立ちの上、情報屋らしからぬほど顔に出やすいので、コロコロ変わる表情が可愛らしくて見たくなる。
そんな小学生の好きな子に対するちょっかいみたいな事をしていたら、いつのまにか目的の場所の近くに来ていた。
「それじゃ、まずは…隠れるためのエリアテンションの正しい使い方からだな。」
「え?今隠れる必要はないんじゃない?」
エレナはそのまま薬草が群生している場所まで歩いていこうとするが、俺がそれを制す。
「いや、今日も隠れたほうがいい。毒を受けて気性が荒くなったモンスターがいたり、水辺にはえるから水を飲みに来たモンスターがいたら面倒だからね。」
そう、ハルシェも先日の魔苔同様、水辺に生える。森の水辺はモンスターが集まることがあるため、少々危険なのだ。
「なるほどね…。それで、どうやれっての?」
むすっとしたエレナが聞いてくる。ほらね、可愛い。ただ情報屋なら情報屋らしくポーカフェイスであれ…。
「簡単だよ、唱える前に少し加えるだけだ。土の精霊に告ぐ、と言うだけでいい。」
これは補助詠唱というもので、初級冒険者がよく使う。これの効果はその魔法の真の力をきちんと使えるようになる。難しい魔法ほど補助詠唱は長いが、魔法使い自身の熟練度次第ではどんな魔法も無詠唱最大効果になる。
「な、なにそれ!?本気で言ってるの!?」
「百聞は一見に如かず、やってみなよ。肩掴んどくから。」
「……。」
エレナはもっとむすっとして、手の平を地面に向けた。そして
「土の精霊に告ぐ エリアテンション!!」
唱えた。
手の平から光が放たれ地面にぶつかった瞬間、地面が水のように波打ち、トプン、と水に入るように体が落ちた。
「な、なにこれ…。今までと全然違う…。」
ちなみに、補助詠唱無しや低熟練度では地面に無理やり穴を開けるような感じで足元が開く。これだと魔法の効力が地面の性質にまで及んでないので、どうやっても体が汚れるというわけだ。
「それが補助詠唱だよ。他にも沢山あるからまた必要な時に教えるよ。さ、先に進もう。」
「え、ええ…。」
無事土中に入った俺たちはまっすぐハルシェの群生地域へと近づいていった。
ーーーー
「なにもいないみたいよ。」
術者である彼女は地表の情景が見れる。その彼女が今ハルシェ群生地の索敵を終わらせたところだ。
「それじゃあ出ようか!」
「またあれ、唱えるの?」
「もちろん!」
「土の精霊に告ぐ エリアテンション!」
エレナが唱える。
先程なったように、今度は頭の上が液状化する。そして足元の土がせり上がってくるように押し上げてくれる。体をほとんど地表に出し、階段程度の段差を残して迫り上がるのをやめるので、あとは自力で上がる。この時、液状化した地面は体に付かないため、全く証拠は残らない。
「す、すごいわね…これ。」
「さぁ、摘もうか。根元から。」
「根元から?」
「言っただろ?治癒にも使えるんだ。この薬草は。」
そう、彼女が持って帰って来ていたハルシェには根が付いていなかった。そのため根ごとすりつぶして火にかけ、水に溶かすという工程の一番最初でつまづいたのだ。
「とりあえず、100本は取ろう。この後の仕事に役にたつ。」
「そ、そんなに持てないわよ!」
「大丈夫大丈夫、俺が持つから!!」
アイテムページあるし…。
あ、そうだ。報告用に余分に15本取っておくか。
情報屋稼業の調査・結果タイプの仕事は報告時に証拠が必要になる。如何なる想定も備えて1個お願いされたら15個持って帰るほうがいい。
色々、あるからな。
こうして俺たちは無事にエレナの仕事の調査分を終え、街に帰ろうとした。
だが…




