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二十一番:野々村叶

チョコレートが欲しい少年の話。

二月十四日。バレンタインデー。外国じゃ男が女に花束贈ったりするらしいけど、日本では女が男にチョコを送るのが一般的だ。

渡す女側は義理から本心までと、幅広い気持ちをチョコレートに込めるわけだが、渡される男側としては味や形、チョコレートにかけた値段によって、自分の価値を否応なく認識させられる――――!

「……そういう日だと、俺は思っている」

腕を組んで胸を張り、自分の台詞に自信を持って息巻いた。

「その説明は確かに正しいけどさ、野々村(ののむら)の場合、深く考えすぎ」

肩にかかるほどまで伸びた金髪を、女子がやる癖のように指先で弄びながら、角南(つなみ)が呆れたように半眼を閉じて呟いた。

「野々村さぁ、クラスの女子どころか、学年中の女子にまで自分にチョコくれるよう頼んでたじゃん。無理矢理自分の存在を強調して、質より量って魂胆か?」

噂好きの親友、吉野(よしの)がケタケタ笑いながら俺の肩をバシバシ叩く。野球部員の平手はなかなか痛い。けど、やせ我慢!

「おうよ。例え気持ちが篭もってない義理でも、チョコはチョコ!数だけでも欲しい。もちろん気持ちが篭ってたら本気でホワイトデーは三倍返しを考える!」

右手をギュっと握って拳を作り、俺は二人に力説した。

「たかがチョコレートくらいで自分の価値決めんなよ……」

頬杖をついて、角南がやっぱり呆れた顔をして俺を眺めていた。



翌日のバレンタインデー、当日。

朝、母親と妹にチョコを貰い、まずは二つゲット!

「どうせ今年も義理ばっかで、本物なんか貰えないよ」

「高校生デビューしてもうすぐ一年。もしかしたら影でこっそり俺のこと、好きになってくれた女子がいるかもしれないだろ!」

「もう一度自分の顔、鏡で見たら?お兄ちゃんって顔的にも性格的にも、盛り上げ役で留まらざるを得ない役柄じゃん」

妹の身も蓋もない言葉に少しいじけそうになる。でも男の子だもん!期待を捨てず、スキップしそうな足を宥めて、軽やかな歩調で学校に行きましたよ!

「野々村君。野田(のだ)君」

朝のSHR十五分前。前の席の野田とダベってたときに姿を見せたのは、クラスメイトの藤代(ふじしろ)逸見(へんみ)、それに根岸(ねぎし)山田(やまだ)の女子四人組だった。

俺の机に置かれたのは大きな箱に入って小分けされた、スーパーボールサイズのチョコ。

「一人一個ずつね」

文句を言わせない藤代の笑顔に、俺と野田は口を噤む。

「チェッ。藤代の奴、常盤(ときわ)とか羽生(はにゅう)には手作りあげるつもりだぜ、きっと」

四人が向こうに行ったのを確認してから、貰ったチョコを舌で転がしつつ愚痴った。ブランデーが中に入っていて、苦味が駄目な俺は眉間に皺を寄せた。

そして休み時間に現れた他のクラスの女子は、わずか四人だけ。しかも皆、チロルチョコだったりした。……まぁこの男子だらけの学校じゃ、あげようと思う男子皆に送るなら金欠になるだろうし、仕方ないか。

期待ハズレに凹んでいたら、時間はいつの間にか昼休み。

いつの間にか開催されていた“一組で誰が一番多くチョコを恵まれるか”ダービーの中間結果を吉野から聞いていたときだ。

「これチョコレートなんだけど、よかったら食べて?」

やってきたのはクラスメイトの佐伯(さえき)早乙女(さおとめ)。二人はここにいる男子全員に、ラッピングされたチョコをそれぞれ渡した。渡された二つはラッピングの色も形も違い、明らかに市販のものじゃないと分かる。

「もしかしてこれ、手作り?」

「そだよ〜。ちなみに私の、味に期待しないでね」

山間(やまあい)の問いに答えた早乙女は頬を赤らめ、佐伯の手を引いてそそくさと行ってしまった。

そんな可愛らしい早乙女の後姿に、俺と吉野、角南、野田、山間の五人は心を和ませていた。



結局俺がゲットしたチョコは合計九個。あと一つで十個だったのになぁ……。けど、俺より少なかった奴も結構いたし。何せこの学校、女子の数少ねーもん。仕方ない……と思うことにしよう、うん。

ちなみに受け取ったチョコの中で一番美味かったのは――といっても大半が市販のものだったけど――佐伯のチョコ。味も良かったし、形も凝ってて激ウマ。家庭科の調理実習のときも佐伯の班だけ格別に美味いって評判だったから、菓子作りが上手いことも納得できた。

そしてチョコダービー。バレンタイン翌日に吉野の口から聞かされた結果、一位はネームトリオこと世川(せがわ)、羽生、姫宮(ひめみや)の三人組だったらしい。学校内では格別驚くほどの数じゃなかったらしいけど、外に出た途端、他校生からバシバシ手渡されたと。美形が三人集まればそりゃ女子も集まるよなぁ〜……ちくしょう、羨ましい!

ちなみに学年ではいうまでもなく、四組の(たに)。といっても貰った相手は圧倒的に女子より男子が多かったらしく、麻生学院の生徒や他校生のみに留まらず、先生にまで貰ったとか何とか。ファンクラブもあるくらいだし、不思議じゃないこともないけど……ホントかよ?

そんなこんなで、俺のバレンタイン戦線はまずまずの結果で終わることとなった。

……以上、麻生学院大付属高校一年一組の野々村がお送り致しました〜。



……これは余談だけど、妹の予言どおり全部義理チョコだったので、色恋沙汰など皆無だった。

来年こそ本命チョコ貰いてぇ〜!

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