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紋無しの紋章士  作者: きょぉま
6/20

6話

 異世界に来たらまずやることといえば木を切り、作業台を作り、石を掘って拠点を作る。

 常識ですよね?

 マイクラ楽しいです。

 修二は石を掘っていた。

 拳大の石を岩壁に叩きつける作業をかれこれ二時間ほど続けている。

 異世界に来た記念すべき最初の行動が石を掘るという作業であることに涙せずにはいられないが、これも必要な作業だと割り切って腕を振るう。


「あと、少し」


 もちろん闇雲に壁を掘っているわけではなく、きちんと目的があっての作業である。

 だから石を握った拳にすり傷がふえて血が滲もうともやめるわけにはいかない。

 ガツガツと岩壁を削ることしばし、目的を達した修二は壁から数歩離れ、掘り終えた岩壁に意識を注ぐ。

 すると、壁にぼうっとした幽かな白い明かりがともった。

 弱々しい明かりだが、闇に沈んだこの場では何よりも得がたいものである。


 おそらく異世界であろうこの場所で修二が目を覚ました時、辺りは暗闇の中だった。

 一寸の光も入らない暗闇に動転して岩壁に思い切り頭をぶつけたが、おかげで混乱せずに済んだのは不幸中の幸いか。


 岩壁のゴツゴツとした感触や、風が吹かないところから洞窟の中にいると踏んだ修二は、とにかく周囲を確認するために明かりを探したのだが何も見つけることは出来なかった。

 おそらく人の手の入っていない場所なのだろう。

 どうしたものかと悩んだところで魔法の存在に思い当たったのだった。


「明かりを灯すだけの魔法に二時間か」


 そうひとりごちながら手の中の石を放る。

 照らし出された先には何も見えない。

 この弱い光では届かないほどに広大な空間なようだ。


「魔法ってもう少し簡単に使えるものだと思ってたけど」


 見れば、光は修二が石で削って描いた紋章の形に沿って発している。

 そばには書き損じた紋章のなり損ないがいくつもあるところから何度も失敗したようだ。


 見た目は地球で魔法陣と呼ばれるものに似通っており、実際魔法陣のイメージの通り、文字や記号を組み合わせることで超常の現象を引き起こす紋章魔法もんしょうまほうと呼ばれるものだ。

 異世界に来て修二が使えるようになった技術だった。

 呪文を唱えたりもっと手軽に使えるものだと考えていたが、魔法の知識はこの紋章魔法しかないようだった。

 魔法陣には浪漫を感じるが、使う度にこのような労力を必要とすると思うと辟易とするものがある。


 とにかく、周囲がかなり広い空洞であることはわかった。

 問題はこれからどうするかだ。

 洞窟ならば出口を探すべきだがいかんせん広すぎるし暗すぎる。

 闇雲に動き回っても迷うだけだろう。


 ならばやはり魔法、と思うのだがあいにく使える魔法は紋章魔法だけである。

 さらに、修二には知識だけがあるだけで紋章魔法をマスターしたわけではない。

 いわば教科書を持っているだけであり、それを理解し練習しなければ使えるようにはならないのだ。

 明かりを灯すためだけに二時間もかかる紋章魔法で脱出のための魔法を使うなど一体どれだけの時間がかかるのか。

 脱出する前に体力が尽きる可能性が高い。


「あれ?これって詰んでる?」


 思っている以上に状況は悪いらしい。

 だがまだ慌てるような時間ではない。

 なぜなら修二が得た能力は魔法だけではない。

 恋来から貰ったチート能力「シルタの瞳」。

 大天使ララがこれは探知系でも最上位の能力だと言っていたのを修二はきちんと覚えていた。


「この能力を使えば出口を見つけるくらい御茶の子さいさい!」


 暗闇と孤独の恐怖を紛らわすためか、やたらと独り言が多くなっている気がするが、今はテンションを上げなければやっていられないのである。

 修二は早速シルタの瞳の能力を確認した。

 そういった能力の知識は魔法やこの世界の知識と一緒に受け取っている。


「探知、ナビゲート、解析、看破、なんでもありだな。他にも遠視、魔視、暗視……ん、暗視?」


 試しに発動してみれば、瞳におそらく魔力だろう力が集まる感覚とともに視界がクリアになる。

 まさかと思いながらも首を巡らせてみれば、紋章魔法では照らし出されなかった遠くの景色まではっきりと確認することが出来た。

 暗視スコープのような緑がかった景色でもなくノイズもない、明るいところで見ているのと何ら変わりはなく、それでも不思議とあたりがどれ位の暗さなのかははっきりと知覚することが出来た。

 せっかく発動した"あかり"の紋章魔法はもとより不必要だったということだ。

 くわえて、少し離れたところにチョークのように使える白い蝋石があることもわかった。


「俺の、二時間の努力はいったい……?」


 二時間ひたすら石を振るい続けた作業が全くの無駄だったことに、修二は膝から崩れ落ちた。

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