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生ける屍達についての日記帖 : Data of the living dead   作者: 230
生ける屍達の日記帖 一冊目
8/90

八話 生ける屍の個人情報

20××年 6/24 雨




 この日記をつけ始めてから三日坊主という名の恥さらしな真似は華麗に回避した訳だが、今度は六日坊主を更新しなければならぬでござるよ。ニンニン。


 ……うー、ねみー。


 じ……実は!この図書館にはもう何年も前から月二回ペースで通っているそんな俺様は、建て付けが悪くて鍵のかかりが甘くなっている、超ヒミチュ!の窓の存在をこっそり知っている程のエクストリームな常連さんなのだヨーん!!。


 う……う、ヤバい……眠気でテンションがおかしい、か。


 応ッ!!


 覇ァァー、必殺!眠気覚まし深呼吸第一準備よーし!。


 すはすは、すーはー、すーはー、すーはー、すぅーはあーーぁぁぁ……。


 ……よし。


 おけ。


 やりなおし、やりなおし(笑)。


 


 昨日は夜明け前に図書館を出た。


 しかし、今後もまたこの図書館にはお世話になりに来る可能性が極めて高いので、しっかりと戸締まりを確かめ、秘密の窓も悟られないようにしっかりと偽装を施す。


 図書館からある程度離れた場所まではなるべく音をたてないようにバイクを押して歩いた。そして念の為、一旦家とは反対方向に向かってバイクを走らせる。


 図書館から家まではたった20km程度の移動だが、仮称ゾンビに対する警戒と、万一の尾行などにも警戒しつつ更に偵察も兼ねて、最低でも二日はかけて山に帰るつもりだ。


 ともあれ雨のおかげで音や臭い、それと視界に大きな制限がかかる事は、人間も仮称ゾンビも変わりない筈。この一年間でも雨の日のバイク移動は初めての試みだが、もう行くしかない。


 だが意外にも仮称ゾンビ達は雨の中で盛大に水飛沫を上げながらバイクで走る俺に気がついていないようだった。


 しかしゾンビを一体見つけたらそこには百体がいるものと覚悟しなければならない。十分に用心を重ねながら、俺はなるべく広い通りを選びバイクでひた走る。


 幸いにしてどうやら雨の日は仮称ゾンビ達の索敵能力はかなり鈍るようだ。心配していた尾行も無かったようだし、先ずは良き哉。




 そこからはとりあえず一夜を凌げる借り宿を探しながらの移動となった。


 雨音が反響して重要な音を聞き漏らさないようにヘルメットを脱ぎ、バイクを押して歩きながら空き家と思しい民家を見てまわる。


 この時点で俺は既に昨日とは完全に真逆の立場にある。


 幸いにしてここまで尾行は無かったにせよ、俺は既に何者かから監視されているかも知れないというリスクを意識しながらの探索だ。


 頭は振らず眼球だけを動かしながら良さそうな家を何軒か見つける度に……足を止めずそのまま一旦、通り過ぎる。


 ケージの中でのんびり寝そべっているユキを見ると、屋根を叩く雨音をうるさそうにしながらも大きなアクビを返していた。どうやら人も仮称ゾンビも、超高性能なユキ・センサーの索敵半径にはいないようだ。


 それでも内心の警戒はそのままに、普通に慎重な感じを装ってゆっくり歩き続ける。




 ……何か動いた!。


 進行方向正面、左端の民家の二階の窓の中……多分人だ。


 そっと立ち止まりながらセルを回してバイクを俺の身体に立てかける。カッパ代わりのポンチョの中の左手はベルトに吊っていたスリングショットを握り、右手はウエストバックの中から小石の弾を取り出して握っておく。


 そしてまたゆっくりとバイクを押しながら、さり気なく前に進む。ユキは相変わらずあまり気にしていないようだ。


(((ドッスン!)))


 件の民家からかなりの重量物が落ちたようなくぐもった大音がした。俺はバイクに飛び乗り、スリングショットと弾を握ったままアクセルを開け、一気に音源の民家へと接近する。


 仮称ゾンビ・アポカリプス発生から3ヶ月くらいの間には今回と似たようなパターンが度々有った。


 もしも敵意を持つ人間や仮称ゾンビが近くにいるのなら、現時点でユキが黙っているワケがない。雨天でもユキの鼻は俺の目よりも遥かに優秀なのだから。


 故に件の民家に居るのは、とりあえず敵意の少ない存在である可能性が高い。本当にそうならば素通りしても良さそうだが、念には念を、確認だ。


 バイクで突入。ブロック塀の門をくぐり抜け、玄関脇にバイクを押し込む。必殺のカウンター・足・ブレーキで無理やりに停止。すぐにバイクから飛び降り、スタンドを立て、ブロック塀の外にまで後退。塀を背に身を潜めながら手鏡を玄関先の様子を伺える位置に置き、スリングショットを装填。ユキもいつの間にかにしっかりと俺の背後に回っている。


 わざわざ玄関前に置いたバイクは相手方の視線と意識を誘導する為の囮だ。


 ……だが、まだ生きているっぽい隠しカメラがある事に、その時初めて気づいたので残念ながら気休めにしかならなかったけどな。


 それにしてもユキの頭の良さには本当にいつも驚かせられ、いつも助かっている。特別な訓練など何もしていないのに、ユキはどんな時でも常に俺の死角を警戒してくれているようだ。


 主人の死角を常に警戒するような訓練って一体どうやるんだ?。


 それにしても、もし俺がユキと別れる事になったら……果たしてこの世界を自力のみで三日ですら生き残れるかどうか……うーん、かなり疑問です、ハイ。




「カチーン」


 ……と、小さな金属音が鳴ってから、僅かに遅れて玄関の扉が少しだけ開いた。


 そして、中から恐る恐るといった調子で……何故かカップラーメンを握った腕が伸びてきた。




 「あ、……あのー……そ、そ、そ、そこびっ!……い……らっしゃひ……ますかー」


 緊張し過ぎで噛み噛みのスッとぼけた男の声がする。カップラーメンを持つ手もプルプル震えている。…………なんだこれ?。


「……あ、あ、あのー」


「はい、いますよ。私は貴方との戦闘や敵対行動は望んでいません。今から顔を見せます。よろしいですか」


「……は!、はひーぃ!どぞーー!!」


 恐ろしく噛み噛みの口調に俺は……単なる嫌な予感というよりも、もっとどうしようもなくダメな気のする予感が──全身を駆け巡っていた。


 ともかく俺はスリングショットをベルトに戻し、ゆっくりと両手を上げながら立ち上がった。さっきまで俺の後ろにいた筈のユキは、いつの間にか門の前にいた。


「あ!あ!あー!いいなー!かわいいなー!このコ紀州犬でありますか?!」


「シッ!……大きな声は……」


「あ──っ!!スス、ス、スイママセン……トリアエズ、ナカニドゾー」


 ……最早言うまい。


「(コレハアレダ、ダメナヤツダ)」


 とにかく彼の許しを得た俺達は中に入って……瞠目した。


 表から見たこの玄関の扉は至って普通に見える代物だったのだが、扉の裏には大きな銀行の金庫室に使われているようなあのデカいハンドル式の錠がガッチリとついていた。マジか。


 扉を閉めた彼は、まるで古の海賊船の船長が威勢良くそうするかのように巨大なハンドルをブン回す。


「ゴゴォォォォーー、カチーン!!」


 ……と、ドアはいい音をさせて施錠され、更に驚いた事に扉の左手にあった小窓にも施錠と同時に「鉄格子」が降りていた。


 ……まさか、この家の窓全部に同じギミックが施されているのだろうか。


 彼は誇らし気なドヤ顔を目一杯俺に向けて賛辞を期待しているようだったが、俺はもう彼を見ていなかった。


 それよりも俺の視線を釘付けにしていたのは……階段の前の床にブッ刺さり、そそり立っていた(くろがね)の扉である。


 かなりシュールな眺めではある。


 これはどう見てもさっき聞こえた大きな音の原因はコレだよな。扉が落ちて来た先と思われる階段の上を見ると、案の定鉄扉を支える枠もまた壁から剥がれ落ちていた。


 そもそもこの内装の壁は単なる石膏ボードに過ぎないというのに、鉄扉という開け閉めする時に大きな加重がかかる重量物など到底耐えられる訳がないのだ。


 どのくらいの期間この鉄扉を使用していたのかは知らないが、よくもまあ今まで無事に機能していたものだと妙なところで関心する。


 その辺りを彼に懇切丁寧に説明するものの、最初の内は。


「いやぁ~!、これはいざという時に備えていたブービートラップなんですよ~!(大汗)」


 ……などと、しょーもない言い訳を返す。


 俺が無言で見つめると、彼は途端にプルプル震え出し、ものの10秒もしないうちにいきなり土下座して……。


「スンマセンでしたー!僕ーっ、嘘つきましたー!」って、謝られました。


 いろいろカオスな彼をなだめながらお互いに自己紹介始めるまで、俺たちはここから更に一時間以上の時を要した……(白目)。




 彼の名前はデイビッド・三浦。


 いわゆるハーフという事だが、彼の顔はどう見ても純国産の日本人と言わざる得ない。


 っていうか瓜実顔?。平安時代の御公家様にしか見えないのだ。


 でも、国籍はアメリカ。年齢は32歳。仮称ゾンビ・アポカリプス以前は俺ですら聞き覚えのある超有名な外資系証券会社に勤めていたそうだ。


 そして何故かデイビッドは俺が聞いてもいない彼の個人情報を一方的にまくし立ててくる。まあ、この家の中を見れば彼がとんでもないセレブである事は納得するしかない。


 そしてデイビッドはかく語る。




「僕のアイデンティティはプレッパーであることなのであります!」と。





 あ”あ”ー、疲れた!。続きは明日だ明日。


 あっふん。




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