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生ける屍達についての日記帖 : Data of the living dead   作者: 230
生ける屍達の日記帖 二冊目
58/90

生ける屍の高速道路



旅 12日目




 結局なんだかんだでわたし達は昨日一日を棒に振ってしまったけれど、今日はやっと高速道路に入ることが出来た。


 そしてわたし達は5人の仮称ゾンビと遭遇したのだけれど……幸い、と言えるかどうかまだよく分からないけれど、とにかく接触にまでは至らなかった。




 高速道路には付きもののサービスエリアとパーキングエリア。詳しくは覚えていなかったけれど地図で確認してみたら、サービスエリアやパーキングエリアってほぼ20km置きくらいに設置されているようだ。

 これはちょうど一日の移動を5、6時間程度に収めるという、わたし達の旅のルールにとっても都合がいい。


 そこで今日のところは一番近くにあるサービスエリアを目的地と定め、わたし達は西に向かってゆっくりと進んでいた。




 それにしてもこの高速道路に入ってから目にするものと言えば、小山のように積み重なる事故車両と、野ざらしのまま白骨化した遺体ばかりだ。それと自衛隊が使うようなモスグリーンの自動車がやけに目に付く。


 そして高さが5メートルはありそうな遮音壁に絡みつく蔓草や、分離帯に生えている草木が伸び放題に伸びていて、わたし達の視界を遮っている。


 全体的にかつての高速道路じゃあ考えられないほど死角が多く、見通しも悪く、えもいわれぬ圧迫感が重くのしかかる。


 「コココッコッ コッコココッ コココココッ」


 っと時折、リズムよく響いているこの音は、コゲラか何かのキツツキが、一所懸命に木をつついているドラミングの音だ。生い茂る木々には他の野鳥もまたたくさん居るようだ。


 春らしく、どこか暴力的なまでの新緑が溢れ、荒々しいほどの「生」が息づく光と、白骨や不動車が醸し出す、静かに絡みつくような「死」の影が、混然一体となっているこの一本道は、まるで浮き世離れした異世界の自然の景色のように思われた。

 

 こんな風に変わり果ててしまった高速道路を、わたし達は進んでいた。




 しばらく歩いていると前方にフラフラ動く人影が五つほど現れる。双眼鏡で確認すると間違いなく仮称ゾンビだった。わたし達はすぐに放置車両の陰へと身を隠す。まだこちらには気づいていない。




 「最近にしちゃあ珍しいよなぁ」


 「え、そうですか?」


 「うん。アタイも今まではあんまり気にしてなかったけど、考えてみりゃあ一年くらい前から、アイツらってあんまツルんでるとこ見たことねーんだよなぁ」


 「言われてみると……確かにそうね。でも、五人か、ちょっと数が多いし、どうしようか」


 「このままジッとしててもラチがあかねーし、ちょっと近づいて様子見すっか」




 そしてわたし達は彼らから丸見えとなる位置へと、ノコノコ出向いたのだけど、なんと。




 仮称ゾンビ達が「逃げ出した」のだ。




 てっきりこっちに向かって来るとばかり思って、待ち構えていたわたし達はこの時一体何が起こったのか、全く理解出来なかった。


 確かなことは、彼ら仮称ゾンビ達が明らかにわたし達を視認した上で、わたし達に背を向け移動を始めた。


 しかしこの一事だけをとって彼らがわたし達から、逃げたと決めつけるのは早計というものだ。

 もしかしたら彼らの向こう側に、もっと彼らの注意を引く「何か」があるのかもしれない。そう考えたわたし達は登り勾配を登って行く彼らを追跡した。




 そして勾配を登りきったわたし達はその先に、彼ら仮称ゾンビ達の注意を引くような対象など「何も」見つけられなかった。




 「……エリカさん、逃げる仮称ゾンビって、見たことありますか」


 「……いや、ねえな」




 わたし達はどんどん小さくなって行く彼らの後ろ姿を、ただ呆然と見送ることしかできなかった。


 そして。




 「なー、キョーコさん、ちょい一休みしようぜ。今はこれ以上考えたって何も分かんねーっしょ」


 「……あ、はい! そうですね、そうしましょう。ちょっと気分を変えましょう。そうだ、わたしコーヒー淹れますね」


 「おっ! やった! まだ残ってたかー、ありがてぇぜ」




 わたし達はここで小休止することにした。

 サマーちゃんがここまで一所懸命に運んでくれたウオータータンク等の重い荷物を降ろし、動物組の水飲み用折り畳みバケツに水を入れ、わたし達用のカップも用意する。

 その間にエリカさんは、その辺に落ちている石や廃材で簡単な釜戸を組み上げていた。


 サマーちゃんは路肩に生えている白詰草を美味しそうに食み、カンちゃんとニャアはその辺の茂みの中を探検している。


 そしてわたしとエリカさんは、淹れたてのインスタントコーヒーを飲みながら、晴れ渡った空を見上げていた。




 「世界は、一瞬で、変わる、かー」


 「そうね、そして世界は一瞬一瞬変わり続けている。なんだかさっきので、わたし、もの凄く、実感したわ」


 「あー、それアタイもだ。アタイもなんか、心がズーンって来たわ」


 


 それからわたし達は、少し長めの小休止を終えて再び歩き出した。そこから当初の目的地であるサービスエリアまでは何事もなく辿り着けた。




 そう言えばカンちゃん、サマーちゃん、そしてニャアの動物組は、いつの間にかとっても仲良さげな関係を築いているみたいだった。


 わたしの印象では、サマーちゃんが一番上のお姉さんで、カンちゃんが……えーっと、カンちゃんはオスなのかメスなのかよく分からないんだけど、多分オスじゃないかなーと思うので、カンちゃんは長男。そしてニャアちゃんは末っ子の次男坊っていう感じの立ち位置で、それぞれが仲良くやっている。


 とくにカンちゃんとニャアの絡みは見ていて飽きないし、とっても面白い。


 さっきの小休止の時もそうだったけど、ニャアはカンちゃん専用のリムジンになりつつあるみたいだ。

 ホントのところは分からないけど二人が一緒に居る時は、どうもカンちゃんの指図でニャアが動いているような節がある。

 まあ、多分気のせいだとは思うけど、やっぱり仲良しなのはもう間違いないと思う。


 そのおかげでわたし達は今、みんな幸せなのだ。




 ただ、今はまだ、今日見た出来事をまだ消化しきれていないけど……とりあえず。




 生きとし生けるものが真に幸せでありますように。




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