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生ける屍達についての日記帖 : Data of the living dead   作者: 230
生ける屍達の日記帖 二冊目
49/90

生ける屍の忍者参上

本日は二話、同時投稿しています。こちらはその二話目となります。


準備 6日目



 友達が出来た! 


 嬉しい! 


 いろいろあって2日ほど日記をサボっちゃったけど、とにかく順を追って記そう。




 一昨日、前回の検証実験の一人反省会を日記に書いてから、ナンバー2さんの様子を見に行って、その後、一昨日の経験から必要性を覚えた物資を調達するためにわたしは出かけた。


 ナンバー2さんを一晩放置した民家の庭先にお邪魔する。ナンバー2さんは多少身じろぐものの、何か攻撃的な行動を起こしそうな兆候は見られなかった。


 仮称ゾンビ化した人々の日常生活がどんなパターンで構成されているのか、それはわたしにも詳しくは分からない。分かるのは、まあお風呂には絶対入ってないわよねって位だ。匂い、スッッゴイもの。でも彼らの食生活ってどうなっているんだろう。


 因みにわたしはこの3年で一日一食生活にももうすっかり慣れてしまった。今は特に不自由も感じないし、体調なんかは以前よりも確実に良くなっている。そう言えば野生のワニとかって一年で一食なんて話を聞いた覚えがあるけど本当かな?、本当だったら羨ましいことだ。


 おっと、話が横道に逸れた。


 わたしがこれからも生きていく上で仮称ゾンビもまた人間であることを認めるなら、わたしがわたしの都合でナンバー2さんを拘束している以上、彼を飢え死にさせる訳にはいかない。


 当初のわたしの計画は、あと一日か二日このまま放置して、それから目隠しをとって食料を与えながら様子を観察するつもりだったけれど、ここで少し迷いが生じた。もしナンバー2さんがしばらくの間何も食べてなくて、このままだと飢え死に寸前だったらどうしよう、という迷いだ。


 そんな迷いか生まれるのとほぼ同時に、わたしの背後から何かの足音と気配を感じた。カンちゃんの動きではない。わたしがサティを働かせながらその気配を探っていると、出し抜けにその気配の主から声をかけられた。




 「なあ、殺さねーのか?」


 随分とべらんめえな口調だけど、これは女性の声だ。


 「はい、絶対に殺しませんよ」


 「んー? あー、あれか? 何だったらアタシが殺してやろーか?」


 「いえ、止めて下さい。良かったら先にわたしの説明を聞いて頂けますか?」


 そう言いながら振り向いて彼女を見る。その彼女の第一印象は鮮烈なる獅子だった。メスではなく、オスのライオンのように圧倒的な雰囲気が色濃く漂う女性だった。決して大柄な体格じゃあないんだけどね。


 「でもさー、ちょっとわかんねーんだけど、何でコイツがこんなに大人しいんだかマジでサッパリわかんねーけどさー。やっぱさ、コイツが大人しい内にサッサと始末しといた方がいいんじゃねーの?」


 そう言いながら彼女は鈍色に底光りする重そうな木刀を、軽々と肩に担いだ。そこからそのまま振り下ろすだけで、その位置エネルギーが無駄なく一瞬で巨大な破壊力に変換され得るような静かな凄みが漂う。


 その彼女の佇まいは武道の達人が決闘の場で見せるのかも知れないような、ごく自然体で、構えてこそはいないが、それは同時に一切隙のない構えであるようにも見えた。この人はかなり強い。この時わたしはそう理解し、サティした。


 「ご厚意は有り難いのですが、わたしは今、ある目的があって、その為にある検証をしています。もしもわたしの目的に興味があれば全部お話しますが、如何でしょう」


 「へえー、このご時世に目的っときたか。いいぜ、俄然キョーミが湧いてきた。聞かせてくれよ、あんたの目的ってやつをよ」


 何だろうこのウソみたいな真っ直ぐさは。彼女の大きく見開いた双眸が興味と興奮でギンギラリと輝いている。うーん、参ったなあ、かわいいよ。


 「いやー実はさ、昨日のあんたの大立ち回りをさ、アタシはチョロッと見てたんだよ。えへへ、そんでな、アタイから見てあんたはそんなに悪いヤツじゃねーって思ってな、だからこうして顔を見せに来たってワケさ」


 「げ! あっちゃー、見られてましたか。全然気づきませんでした。やっぱりわたしはまだまだですね」


 「いや、大したモンだと思うぜ。多分だけど、あんたも初めてだったんだろ。こうやってゾンビを生け捕りにすんのはさ。しかもさ、コイツの手首を縛るにしたってわざわざタオルを巻いた上から縛ってさ、いや、ホントマジでワケわかんねーっつーの!」


 「そんでさ、アタイはさ! 何かオンモシレーって思ったっ!!」


 光輝く満面の笑顔。


 「(ふああ……だ、だめだ、眩しい)」


 この瞬間わたしは悟った。この子は真っ直ぐだ。ちょっと有り得ないくらいに真っ直ぐだ。最初に抱いた警戒感なんかとっくにどこかにふっ飛んでいた。


 「ありがとうございます。じゃあ、もしよければあなたに見せたい物がありますので、わたしについて来て頂けますか。あっ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私は前田京子と申します。よろしくお願いします」


 「おう! アタイは猿飛(さるとび)絵里花(えりか)だ。まあ好きに呼んでくれ」


 「え?! 忍者?! 忍者参上?!! エリカさんはエッちゃんで、ライオンさんじゃなくて、お猿さんで忍びの者なんですか。かっこいい!!」


 「あー、一応言っとくけど、アタイと猿飛佐助の三十三代目子孫の小学生とは全くの、ム・カ・ン・ケ・イだかんな。ニヒヒ」


 「ありゃー、それはちょっと残念です」



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