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生ける屍達についての日記帖 : Data of the living dead   作者: 230
生ける屍達の日記帖 二冊目
45/90

生ける屍の選手交代


準備 初目



 この日記をはじめて読んだ時、わたしは最初こんな風に思っていた。


 「(なによ?! このふざけた男は!)」


 「(なにが殺すな殺されるなよ!)」


 「(ふざけるな! 笑わすな! アホかー!!)」


 「(だああーっ! ……でも! でも!!、でも……だけど…………だって!! あーっ! もう! もう! もう! も、っっ………………………………………………………うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁんんん!!)」




 今から3ヶ月ほど前にこのノート一冊分にも満たない、どこかの誰かが書いた日記をわたしは拾った。一気に読んだわたしは、最初こんな風に心の中で悪態を吐きながら、三日三晩に渡り取り乱していたことを今、思い出している。


 本当に今思えば、あの時によくもまあ、この日記をビリビリに引き裂かなかったものだと、自分でも思う。


 わたしの名前は前田 京子。


 わたしは堀氏が言うところの、仮称ゾンビ・アポカリプスが発生した最初の一年を、いや半年くらいで、3人もの人間を、この手で、殺した。


 それから今までのおよそ3年間をわたしは一人で生きていた。ある意味、仮称ゾンビ達のように、生ける屍のように、何度も死にかけながら、わたしはかろうじて意地汚く生きていた。


 「(わたしは悪くない。仕方がなかった。そうしなければこっちが殺されていた。わたしは悪くない。わたしは悪くない。わたしは悪くない。わたしは悪くない。わたしは悪くない。わたしは、わたしは、わたし……は)」


 永い、永い間、こんな風にわたしの心はいつもいつもいつも自己弁護を繰り返していて、その度にわたしはわたしを苦しめ続けていた。


 それは、決して公平でも公正でもない、ただただ自分に都合がいいだけの身勝手な自己弁護だった。これは私の未熟な心が勝手に暴走して自分をごまかしているに過ぎないただの妄想、戯言だと、この日記は容赦なくわたしに教えてくれた。


 わたしがそう素直に思うようになれるまで、およそ二週間ぐらいの時間がかかっていたと思う。


 それにこの日記を読んだ時のわたしは、仮称ゾンビをはじめて見た時と同等か、それ以上に混乱していた。今こうして考えてみても、あの時何をしたのかはっきりと思い出せないことが多い。


 あの時のわたしは正直何をしでかしてもおかしくない精神状態だった。今はあの時わたしが一人で居られて、本当に良かったと、心から思う。


 それからしばらくして、いくらか落ち着いたわたしは図書館に引き籠もった。


 目的はひとつ。


 ブッダが本当は何を語り、何を説いたのかが知りたくなったからだ。調べたくなって、たまらなくなったのだ。


 そして数々の本と出会い、わたしの蒙は拓かれる。


 それからは毎日毎日、堀氏の日記と上座仏教の本を読み漁り、わたしの目からはポロポロポロポロと鱗が落ち続けていた。


 そしてついさっき、覚悟を決めたわたしは、頭を丸めた。




 わたしは人を殺した。


 もうわたしにとって仮称ゾンビ化は言い訳にならない。


 後悔している。反省もしている。でも、やり直しなんかきかない。死者を蘇らせることは出来ない。死者に謝ることも出来ない。死者に許されることもない。


 どんなに些細なことも、どれだけ大変なことでも等しく、過ぎてしまったことは取り返せはしない。


 それでもわたしはわたしが犯した過ちをすべてを背負って、堀氏に会いに行こうと思う。


 堀氏が今も生きているのかは分からない。


 それでもわたしは堀氏を探しに行こうと決めた。


 わたしもまた解脱を目指す生き方を選ぼうと決めたのだから。


 ああ


 こうしてわたしが心に思う、重過ぎる想いを、こうやって文章にするだけで、こんなにも心が整理されて、こんなにも落ち着くだなんて、わたしは知らなかった。本当にわたしは何も分かっていなかったんだ。




 わたしもまた解脱を目指し、日々瞑想をしながら、旅に出ようと思う。


 明日からはその準備を始める。そしてその第一歩として、わたしも先ずはわたし自身の為にこの日記をつけよう。



 そう、選手交代……いや、筆者交代ね。




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