二十話 生ける屍の攻撃目標
同日×4
こりゃあ無理だな。今日中に二日目は終わらんな。ふう……。
以下本題
グンテは二度の震災を生き延びた議員として国民から絶大なる人気がある。
それは恐らく選挙区や政党がどこであろうとも必ず当選するだけの確かな実力となっている。仮に現在の総理の地元選挙区から無所属で出馬したとして、トップ当選する確率が50%を下回ることは無いと大方の識者達も認めるところで、その辺のタレント議員など問題にもならない。
そんなグンテにもしも弱点があるとすればそれは、あまりお金を持っていないという事ぐらいになる。しかしこの点もまた強み足り得るのが中野孝一郎という政治家だった。
あくまでも本当の庶民であるグンテの言動に嘘は無い。官僚時代に大きな力へ危うく溺れそうになった危機もあったが二度目の震災後政治家に転身する際にグンテは……。
「権力やお金に対する執着をも、津波は一緒にさらって行ってくれました」
と、各種メディアに露出する度にそう言い放っていた。彼の人気が下がる道理など無い。
そんな有名人たるグンテこと中野孝一郎議員が、時々お忍びで俺の山に遊びに来るぐらいならともかく、事も有ろうか個人的に行動を起こし、末端のエージェント達と直接接触し、あまつさえ意気投合し、秘密でもあり公然でもあるという訳の分からん「繋がり」とやらを世界レベルで構築していたとは……お互いに付き合いの長い俺ですらちょっと信じられない話だ。
そして今、俺はその繋がりのエージェント達から強い関心を持たれているらしい。関心ぐらいならまだしも……崇拝って、なんだよソレ……。
とにかく全てはグンテの差し金だった。
グンテが各エージェント達と雑談を交える時の話題は常に俺の話が中心だったらしい。……あー、うー……まあ、いいけどなぁ……。
特に銃社会を当たり前の事として成長し成熟している国々の人間からは、俺が震災時に何度も何度も窮地に追い詰められた状況に遭いながら、未だに一度も人を殺さず、そして今尚仮称ゾンビをも殺すなと、そう言い放つ俺の声を直接耳にすることで、ついに彼らの心にも突き刺さったようだと……グンテは説明してくれた。
そして今回の事態が発生して日本で孤立した各国のエージェント達や各国の大使館の連中も当然無事では済まなかった。そうした時に人間は戦うことか、逃げることか、或いは……現実逃避することに腐心する。
そんな中でゾンビを殺すな、しかも共存しろ。などと言う俺の言葉など大抵の場合良くて無視されるか、悪ければ好戦的な連中から体の良い攻撃目標にされる事が自然な流れだ。
しかしそうはなっていないとグンテは言う。普通に考えればこんな寝ぼけたとしか思えない言葉が高評価されるという異常事態は……やっぱり全部グンテの完璧な根回しがあったからだと俺は理解した。
(……ヴえぇ、……思い出しただけで、またケロケロ……吐きそう……)
「じゃあまた何かあったら連絡するよ。なるべくバッテリーを切らさないようにしておいてくれると助かる。それと可愛らしいお弟子さんにもよろしくね」
「…………ターちゃん……本当にごめんな」
そう言い残してグンテからの衝撃の電話は切れた。
……彼女がスカーフの綺麗な部分を探しながら、俺の汗や口元を丁寧に拭ってくれる。
「すまん……ありがたい。君……っと、そう言えば名前もまだだったな。俺は堀 建雄というんだが好きに呼んでくれていい」
「はい!わたしは山野 意渡子っていいます。おじいちゃんが自分の意志を持ってしっかり世間を渡っていける子になれって意味でつけてくれた、とても大切なお名前です」
「あ、わたしも師匠の好きなように呼んでくれればいいんですけど、イトって呼んでくれたらわたし嬉しいんですよ?」
「はは……じゃあよろしく頼む、イトちゃん」
「はい!はい!はい!!師匠!こちらこそよろしくです!師匠!」
この子の笑った顔を始めて見た。あっちこっち埃まみれで小さな傷まみれの顔が、逞しいひまわりのように咲き誇っている。
「それにしてもちょっと難しくてよく分かんなかったんですけど、お友達ですか?、すごいお友達ですよね!この師匠を言葉だけでここまでぼこぼこに出来るるなんて!」
「ハハッ……まあ政治家だしな」
まあそれはそれとしてイトを仲間に加える以上、俺が抱えている現状の説明は必要だ。これ以上時間を使いたくはないが最低限イトに下ろす必要性の高い話は何になるのか考えながら俺達は動物病院に向かった。
俺はほんの数百メートルという(長い)道中の間、イトには藤本先生親子の容体をやんわりとに伝えた。流石にこれ以上の衝撃情報は不要と判断して話したつもりだったのだが……。
「……それって……やっぱり、師匠が切っちゃったんじゃ…………ですよね……」
と、無駄に勘の良いところを発揮してくれた(苦笑)。
俺達は無事に病院の裏口に到着して確認を済ませた後、今度は簡潔に要点を包み隠さず手短に伝えた。そして…………。
動物病院よ!私は帰って来た!(笑)。




