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生ける屍達についての日記帖 : Data of the living dead   作者: 230
生ける屍達の日記帖 一冊目
13/90

十一話 生ける屍の潜伏期間

 前項と同日。


 サノバ☆びっち☆デイブめ!。


 あ、次は進撃の阪神を見せてね。




 ある程度予想していた事とは言え、こうもアッケラカンと衝撃発言を口にする龍子ちゃんには本当に敵わない。


 ところで余談ではあるが、彼女はモテる。主に女性から。


 下は小学生女子から上は還暦を越えるオババ様に至るまで幅広く、満遍なく、ご近所の女性陣からモテモテなのである。


 そんな彼女の特徴を三行で紹介すると。


・男前(容姿性格言動)


・そのくせドヂっ子


・あとバイン!バイン!


 という、驚異の三属性持ちである。


 彼女が気を許している時の一人称が「ボク」である事が象徴するように余りにも男前過ぎる藤本先生は、嫉妬深い同世代の女性以外からは絶大なる人気を長年保っていた……とは、ご近所のお婆ちゃんの談である。


 あと、コードネーム「バイン!バイン!」の謎についてデイブには(特に)これ以上の情報開示を制限するものである。


 ……もとい。以下本題。




「まあ……龍子ちゃんならそう言うとは思っていたけど、それでも一応その結論に至った筋道を説明して欲しい」


「当然だね。うん、先ずは……」


「この噛み傷なんだけど、この患部の……うん、ここね。今こうして触ってみても感覚がないんだよ。只の外傷ならこんな事は有り得ない」


「そこだけ?!。それにしてもそこだけ痛まないって事でいいんだよね?」


「ああそうだ」


 包帯にはうっすらと血が滲んでいる。そこを龍子ちゃんは親指でグリグリッと押す。(ウワワワ)


「まあ電顕でもあればいいんだけど、ウチは貧乏病院だから仕方ないしね。とにかくデータ不足はもう仕方がないんだ。多分もう時間が無い」


「実はついさっき、屋上に上がる前にスタッフの五十嵐さんと中野さんからも連絡があってね……なんでも警察が、もう機能していないらしいんだ」


「……」


 一応俺も110番にかけてみると………確かに繋がらなかった。


「……まさか、半日で……とすれば電気やライフラインも何時切れるか……分かりませんね」


「そうだね。だからその意味でもボクにはもう時間が無い」


「この症状はウイルスかそれとも細菌に因るものかすら解らない事はこの際どうでもいい」


「例えば外にいるゾンビ……いや、ゾンビ的な症状を見せている、仮称ゾンビ病に最も近い症例は、やはり狂犬病だろう」


「狂犬病の潜伏期間は噛まれてからおよそ二~三ヵ月。稀に半年以上経ってから発症する事もあるけど、この潜伏期間の間にウイルスは傷口から神経を伝わって大脳にまで到達して発症する」


「堀くんが見た最初の仮称ゾンビの感染経路は不明だけど、うん、多分空気感染の可能性が高いとは思うけれど……今はいい。とにかくほぼ”無傷”で症状を発症している仮称ゾンビ達は、恐らく第一世代の感染者だと考えられる。多分、身体能力が高い個体は皆さん第一世代かも知れないね」


「そしてボク自身が今体験しているこの症状は因果関係的に感染の第二世代だ。ここで狂犬病を目安にするならウイルスの大脳到達まで二カ月ほど余裕があるのかもしれない。しかし美智子の事を思い返してみると、美智子が体調の違和感を訴えていたのはおよそ10日前からだ」


「そして今回の場合は……仮に何らかのウイルスが原因だった場合、脳までどのくらいのスピードで到達するのかというチキンレースがもう始まっている……のかも知れない」


「仮定だらけのこの推論に依るなら、行動は早いほど有利だ。それともうひとつ……」


「今なら電気メスが使える」


「電子顕微鏡は無理だったけれど、先月しつこく営業をかけていた業者から電気メスを買ったんだよ。それが先週届いてね。ホントなら今朝も午前中は電気メスの練習に充てる予定だったんだ」


「電気メスなら切った傍からタンパク質を焼いてくれるんだ。無駄な出血が少しは避けられるから術後の生存率も高い」


「正直当てずっぽうだらけで、タラレバがてんこ盛りな推論による決断だ。それに今日明日は無理にしても、もしかしたら後一週間か二週間もすれば何事も無かったように元通りになるかも知れないというタラレバもある」


「いつだて[今この瞬間]ってヤツは、あらゆる可能性(たられば)の集約点だ。だからボクは生きて美智子と君の力になれる可能性を全力で選ぶ!」


「もしも全部ウソでしたー……なんて感じの元通りの社会が戻って来たなら、その時は間抜けな獣医が慌てて自分の左腕を切り落としたウッカリさんとしてボクは大人しく生きて行くさ。……ああ、望むところだ」




 はあ~。


 ……な、男前過ぎるだろ。


「うーーん、ライフライン、主に電気の使用限界と感染速度の二つの意味合いで……龍子ちゃんには時間が無いことは分かった」


「分かったついでに”オッケー”だ」


「だけど、さすがに少しは練習っていうか手引きというか……やり方ぐらいは教えてくれるんだよな?」


「あぁ!!あははは!もちろんだよタッちゃん!。話が早くてタッちゃんは最高だな!」


「こっちは最低の気分だけどね。龍子ちゃんの左腕を、俺が切り落とすなんて……なあ」


「いや、もう、ホントに堀くんには申し訳ないし、今日一日でこんなにも助けてもらいっぱなしで……正直合わせる顔がもう無いよ」


 そう言いながら真っ直ぐに俺の目を見つめる……龍子ちゃん、か。


「あーもう、いいっていいって。仕方ない、仕方ない、仕方ないったら、仕方ないんだからねー!っと!」




 などと力ずくでふざけながら……


 俺は以前の震災の当日に、やはり知り合いの男から懇願されていた事を思い出さずにはいられなかった。




 「……タ…タノ、ムガラッ……ゴ、ショウ……ダ、ラ…………コロシッ、ッ……テク、レ……」




 全身に火傷を被った男から……普段は録に挨拶もせず、只すれ違うだけだったその男から、そう……何度も、何度も、何度も、必死に懇願された。


 その時の俺は……一度、逃げ出している。


 …………………………………………もう、二度とあんな思いはゴメンだ。


 なら、もうやるしかない……


 そんな風に決意を固めている、と。


「「はあぁ~」」


 思わず俺達二人のため息が重なっていた。


 「ふふ……もうこれ以上の感謝は言葉では無理だな。本当なら堀くんを無理矢理に押し倒してでも濃厚な感謝のベロちゅーくらいしなければ女が廃る場面だ」


「だけど……どう考えてもボクは今、仮称ゾンビ病のキャリアである可能性が極めて高い以上……ベロちゅー……及び粘膜的な接触は残念だけどお預けだ」


「あははっ!。普段は下ネタ厳禁の龍子ちゃんがここまで無理して笑かしにきてくれたんだ。それで充分ご褒美になってるよ(笑)」


「あ……えっ、ええーっ?!そんなー!ボクは本当は下ネタがぁ…………下ネタ大好きっコなんだぞおおぉぉー!!」


「嗚呼……また、爆弾発言ですか」


「……ま、まあ!今までは堀くんの前では、ちょっとだけ!ちょぉーっとだけ……ネコ、被ってたかもだけど……そ、そんな風にやんわり断らないでくれ! ベロちゅーは良いものだぞー!」


「藤本先生!しっかりー!しっかりしてくださーい!!あーハイハイ分かったからね。とにかく美智子ちゃんの為にも頑張りましょうね!」


 そして俺は軽くチョコンとだけ……!。


「ん! …………むはぁ……そ、そうだね………あ、ありがと」




 俺のアポカリプスの初日は、まだまだ終わらない。




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