九・九話 生ける屍はかく語りき(David Diary:B part)
20×× June 25 part 2
writing by David Miura
a long long ……this is a pen……
堀さんを笑わせようと思って頑張ってみました。日本のお笑いのテンドンとはこんな感じかと思ったのですが、如何でしょうか?(笑)。
では、続きです。
出会ったその日に……いとも簡単に、堀さん達の仲間として受け入れてもらえた僕の心には、一つの目的が芽生えました。
その目的が一体僕の中のどこから湧いて来たのか、今思えばとても不思議なのですが、その目的を達成するのに必要なプランも次から次に湧いて来ました。
溢れるアイデアの奔流を一旦押し止め、それからしばらくの間はいずれ対処しなければならない可能性のある「危険なグループ」について話し合いました。
銃器を所持している精神的に不安定な若者たちが この家から15kmの距離に存在している状況についてどうするべきかを話し合っていました。
そして、堀さんはかくの如く語り初めます。
「この先15km程行ったところにある市立の図書館があってな、その近くに最低でも二丁以上、多分以前は警察官が持っていたような拳銃を持ったグループがいた」
「俺は機会があればこのグループを無力化しようと決めたよ」
「え?なんでまたそんな?」
「俺は殺人を目的に作られた武器が嫌いだ」
「特に銃はゾンビ以上に嫌いだ」
「えっ?!ええええええええーー!!」
「分かった、分かった、まあ聞いてくれ……そうだな。先ずここは日本だ。アメリカと違って銃がその辺にゴロゴロ転がっている事はない。そこで例えばだけど……」
「ここに一発の弾が入った一丁の拳銃があるとする」
「さて、今現在、俺とデイブしかいないこの家で争いが起きた場合、”最悪” この拳銃に起因する死体が何体出来ると思う?」
「答えは二体だ」
「ハッキリ言っておくよデイブ。今この瞬間にも俺を殺そうと思えばすぐに殺せる手段を、今、君は一つ以上持っているだろう?」
「…………………答えられません」
「……いいよ、それはお互い様だ」
「俺も初見殺しの切り札は幾つか持っている。今ならユキもいるしね。だから弾が一発しかない拳銃であっても、最悪の場合ここには二つの死体が転がるんだ」
「だからもし、ここに三人いれば死体は三つになるし、十人いれば死体は十個になる。弾がたったの一発しか入っていないにしてもだ」
「もっと最悪な想定をすれば弾が入っていない拳銃であっても、そこに銃が存在するという”だけ”で、その銃には弾が入っていると誰かが誤解すれば、最悪その場にいる全員が全滅する可能性まである」
「(いや!……それは、それは……)」
「よく言うだろ、道具はその道具を使う人次第だとかって……あれもな、真っ赤な嘘だ」
「はあ?!」
「全ての道具ってのは特定の目的を達成する為に人が造り出したモノだ」
「銃は物体に風穴を空けるという機能に特化した道具であり、その機能の究極目標とは常に人間だ」
「もしも銃を使う者が清らかな聖人のような善人ならば、他人に風穴を空ける事で善行を施せるとか、そんな屁理屈をデイブは本気で信じられるのかい?」
「何度でも言う。銃は人間を撃ち殺す為に造られた道具だ」
「そんな事は誰もが知っている常識だ」
「だから心が弱い人間ほど銃を欲しがる。もしここに十人の人間がいて、その十人が全員、心の弱い人間だったなら、その十人全員はたった一丁の拳銃を巡り必ず対立して殺し合い、最後は必ず全滅する」
「仮に惨劇から何人かが生き残ったとしても、もう彼らはもうお互いに決して協力など出来る訳がない」
「何しろ彼ら全員が、自分が生き残る為ならば形振り構わず他人を撃ち殺す人間であることが、もうお互いにすっかりバレているのだから」
「その後、一人か二人がほんの僅かな間を生き延びたとしても、それはもう”死に体”という、何もかもが手遅れになってしまった”生ける屍”でしかなくなってしまう」
「だから、余りにもバカバカしいほど当たり前の事なんだけど、そもそも最初から銃なんか無ければこんな事にはならないんだよ」
「大前提として、本当に”強く幸せに生きる”為には、銃は究極的に邪魔にしかならないんだよ」
「分かるかい?」
その時の僕には何も分かりませんでした。
分からないクセに、言い返したくなったクセに、僕の口から何か言い返す言葉は出て来ませんでした。
ただ僕に分かったのは堀さんの一言一言が今までに聞いたどんな人の言葉より、どんな映画のセリフより、どんな牧師の説教よりも……遥かに深く、強く、情け容赦なく、徹底的に、僕を、僕の弱さを打ちのめしていた事だけしか……それしか僕には分からなかった。
そしてもう一つ。
僕を粉々に打ち抜いた堀さんの言葉遣いが、ひどく優しかったことだけが僕には、ひどくはっきりとよく分かりました。
「殺しちゃあ駄目なんだ」
「例えチンピラやゾンビが相手だとしても、絶対に殺しちゃあ駄目だ」
「たとえ一人でも殺せばそれが’因’となって、同時に今度は自分が殺される’縁’が出来てしまう。こうして出来た因縁からは事実上、逃れる術がない」
「しかし、だからと言ってイザという時にこっちが殺されていい訳じゃない」
「だから、絶対に殺さないし、絶対に殺されない」
「難しいことだか、これが俺達と共に生きる条件だ」
「……え?、え?え?……えええっ!?」
「デイブ、俺は何も今すぐこのグループをどうこうすると言っている訳じゃないよ」
「それに俺はあのグループの一人だって殺すつもりはない。確かに彼らはこの一年を生き延びてはいるけれど、近々彼らが自滅するのは既に時間の問題でもあるからね」
「それは彼らが、殺すことしか出来ないグループだからだ」
「人間関係、食料や燃料の問題、仮称ゾンビ問題と、他にも避けては通れない問題はいつでも山ほどある」
「なあ、デイブ、一人では生きていけないという人間達が、そういう問題を解決するために出来る事はなんだ」
「(それならよく知っている)……殺すこと、ですね」
「そうだ」
「俺はデイブに殺すな、殺されるなと言ったよな。しかしこの面倒な話をせずに俺がここを発つと、”デイブが殺し殺される可能性”をつくったまま俺はお前をほったらかす事になる」
「それに、殺さないように殺されないように何時でも決して諦めずに最善を尽くすなら、自分が殺される妄想に怯える事もいずれは無くなる」
……今までの人生でここまで驚いた事はありませんでした。
ついさっき……ほんの少し前に芽生えたばかりの、自分らしくもない僕の考えを……そのグループを僕一人で殲滅して、僕が堀さん達の役に立つところを見せつけようとしていた……そして、ずっとずっと怯え続けた果てに最悪の生ける屍と化した僕の未熟な心を、全部堀さんに読まれたのだと知り……胴が震えました。
「だから今一度だけ問おう」
「それでも俺達の仲間になるかい?」
膝が崩れそうになる。踏ん張る。今まで感じた事の無い力が漲る。踏ん張る。胸を張る。前を見る。前を見る。手を伸ばす。
──つよい、握手。
僕は今、生まれて初めて自分の足で立てていた。一人の人間として。
堀さんは口元を微かに緩めて客間に向かう。すると僕の足元をスルリと撫でるようにしてユキちゃんも堀さんの後を追った。
ここに一人残り、立ったまま想うのはデイジーの笑顔。
僕の一番は今までデイジーひとりのものでした。
そして今日、僕は信じられない事にデイジーと同じくらい大切に思える人と出会えました。
これはランキングのようなものではありません。だからデイジーが一番から二番に落ちたワケでは断じて無いのです。
単に一番が二つに増えたということです。
今まで僕の心を何時でも暖めてくれていたのはデイジーの思い出だけだったのに……今日、堀さんと出会えた事でそれが増えました。多分これから沢山増えそうな予感がします。
恐らく、堀さんもかつては「生ける屍」だった過去があるのだと僕は確信しています。
いや、今の世の中になる以前から、何処にでも生ける屍だった人は沢山いました。
しかし今の堀さんは間違いなくとても強く優しい人間として蘇っています。
ああデイジー、ベイビー。
パパはね
パパは、堀さんにだけは負けたくはありませんからね。
だからまずは銃器類を分解して処分する事から始めましょう。
あ、それよりも先に新しいスリングショットを探すのが先でしたね。堀さんのはもうフレームまでイッちゃってますから。そうそうゴムのスペアも有った筈ですが……ゴムは使っていないと劣化が早いですし……ああ、それから……それから………あれを………‥ これは ……… …




