一話 生ける屍の初心表明
初執筆。初投稿です。
どうぞよろしくお願いします。
20××年 6/18 曇り時々雨
「共食い」
それは自然界では割とよく有ることだ。
それは生きものが生きていく為の必要を満たす営みとして、間々よく有ることだった。
だが俺達人間は生命の維持という、根本的な必要性とは全く関係ないところで、経済、暴力、窃盗、詐欺、権力、搾取、そして戦争と、ありとあらゆる手段を尽くして「間接的」な共食いの歴史を延々と繰り返して来たとも言えるだろう。
そして一年前。
とうとう人間同士での「直接的」な共食いが始まってしまった。
「ゾンビ」としか例えようのない人間が、ある日を境に大量に発生した。
その発生から今まで、約一年が経つも未だに原因は一切不明。
事態の発生当初、その不明な原因について様々な憶測が乱れ飛んでいたが、そのほとんどは妄想、妄言の類に過ぎないものだった。
俺がこのアポカリプス発生当初に自分のこの目で見てきた限りでは、それまで普通に生活していた人々のおよそ五割の人間は、死ぬか、いわゆる仮称ゾンビに変質している。
これから書く事はあくまでもこの俺がこの一年間を生き延びてきた際に見た、主観的な出来事でしかない事は自覚している。
しかし最早客観的なデータなどはそもそも取りようがないという実状もある。それでも今まで俺が見て来た全ての状況を鑑みれば、五割という数字はまあまあ妥当な推測だろう。
勿論いろいろと思うところはあるのだけれど、この一年間を何とか生き残れはした俺自身とて、明日もまた生き延びていられる保証はなく、今までは落ち着いて過去を振り返る余裕など当然なかった。
だが今ここに居る現時点での俺は、ある程度の安全を確保している。
その上で、今日、この真っさらなノートと筆記用具を見つけた時……ふと思ったのだ。
「日記をつけよう」と。
この一年で世界はあまりにも大きく変化した。そしてこの世界は未だ恐るべき速さで刻々と変化している。
そもそも世界は何故いきなりこんな事になってしまったのだろうか?。そういう単純な疑問は常に心に湧き上がってくる。
だがそんな疑問に対する明確な答えなど最早、何処にも無い。
しかしそれでは納得出来ない。
だから俺は俺に出来る範囲でいろいろと行動し、実験し、検証を重ねてはいた、が。
それでも、気がつけば俺の心は、根拠も証拠も、確かなデータなど何も無くとも、妄想の上に妄想を重ねた疑心暗鬼に因る邪見が、グルグルと渦を巻き、いつしか思わず大声で叫び出しそうになってしまうような有り様だった。
未熟。
未だ未熟な俺には、心の整理が何より必要だった。とにかく心に余裕を作りたかった。
これはその為の日記だ。
俺の名は、堀 建雄。
先の大震災に続き、今もなんとか生き残っているだけの只の人間だ。
そう言えば、いつの間にか紫陽花が満開だったことに、たった今気がついた。