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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
大会と魔女王と三人の襲撃者編
99/221

98『イベント』

 

 キャスリーンから改良型箒【リシアンサス】を受け取ってから数日後、フィーナ達は王城に呼び出された。

 前回のようにガチガチに緊張した兵士が手紙を届けに来た。中身を確認すると、いつも通りの遠回しの文体で「話があるから来い」と書かれていた。


 報告することも特に思い浮かばなかったので、フィーナ達は首を傾げたが、王様に呼ばれたならば行く以外選択肢は無い。

 機関の寮を出て、王城へと向かう。


 機関から王都の中心街へは馬車が出ているので、遊びに出歩く魔女達とともに、スクールバスのような感覚で乗ることができる。ちなみに機関に所属していれば、馬車の料金は無料(タダ)だ。

 機関に所属している事を示す身分証は、こういった交通機関を無料で使用できたり、道具や必要品を買う際に、割引にできたりする。機関謹製で王城の印も押されているため、複製は困難を極める。フィーナ達の持つ身分証は、さらに教官用のものなので、魔女としてトップクラスに実力ある証にもなっている。


「ご苦労様です」


「これはフィーナ様、それにイーナ様とデイジー様。王城へようこそ」


「国王陛下からの招待なんですけど、通っていいですか?」


 フィーナが国王の出した手紙を見せて尋ねる。この兵士とはもう何度も顔を合わせているので、ちょっとした顔見知りだ。初めて会った時はローブの色から、サッツェ王国の魔女と間違われそうになったものだ。その時は普通に会話をしていたが、フィーナ達が爵位に就いてからは軽々しい会話は出来なくなった。

 フィーナとしては、またぎこち無く敬礼して笑い合いたいのだが、一兵士である門番からは敬意を持って接せられた。


「どうぞ、案内を呼びますので少々お待ちください」


「はい!」


 フィーナがピシッと敬礼すると、門番の兵士は苦笑し、敬礼を返してくれた。


「嬢ちゃんは変わらないな。あの頃より少しは背が伸びたんじゃないか?」


「成長期ですからね。そりゃ背も少しくらいは伸びますよ。それに、敬礼も上手くなったでしょ?」


「いや、まだまだだな。俺達は毎日敬礼してるんだぜ? 見られるようになるには、ちょいと練習が足りねえな」


 兵士は白い歯を見せて笑った。懐かしいやり取りにフィーナは大口を開けて笑った。


「おっと、案内が来たようだ。ほれ、さっさと行きな。国王陛下に失礼の無いようにな」


「それは約束できませんね」


 フィーナは手をヒラヒラと振り、王城に向かって歩く、案内役の兵士の後ろにつく。イーナは門番の兵士にペコリとお辞儀し、小走りでフィーナの横に並んだ。デイジーは眠たそうにあくびをしながら、最後尾をついてきている。


「ねえ、フィーナは男の人と喋りなれてるよね? どうして? 私はまだちょっと怖いよ」


「あー、悪魔に比べれば全然怖くないよ。姉さんはゆっくり慣れていけばいいと思う」


 フィーナは適当に返事をし、直ぐに話題を変えた。フィーナとしては、同年代の見習い魔女達よりも、大人との方が話が合う。精神的には既にアラサー世代となりそうなだけに、イーナやデイジー以外の見習い魔女と会話するときは変に頭を使ってしまって、疲れてしまう。


 イーナは納得いかないように口を尖らせたが、国王の執務室に着くと、キリッと気分を入れ替えた。


「お、よく来たな。お前達は手紙を送ってから来るのが早くて本当に助かる。他の貴族連中はやたらと時間がかかりおるからな」


「はぁ、それで何か用でしょうか? 正直に申しまして、なぜ呼ばれたのかわかりません」


 国王の愚痴を聞くためにわざわざ休みを貰って来たわけではない。フィーナ達三人が同時に休むと、それなりに機関としては混乱するのだ。国王からの依頼で教官を務めているが、今は受けて良かったと思えるほど満喫している。

 さすがに国王に対して面と向かって言える内容ではないが。


「そう嫌そうな顔をするでない。少し聞きたいことがあっただけだ」


 どうやら顔に出てしまったようで、国王に注意されてしまった。国王の傍らで、ピボットが笑いをこらえている。


「お前達、また面白いものを作ったらしいな」


「面白いもの?」


 フィーナは“面白いもの”と言われ、考え込んだが、特に思い浮かばなかった。


「リシアンサス……お前達の乗っている箒のことだ。聞けばグリゼルダという魔女の営む箒屋で買った箒を改良したそうではないか。ヘーゼルが詳しく知りたがっていたぞ」


 フィーナは「ああ」と思い当たり、手のひらをポンと叩いた。思い当たると同時に、グリゼルダになんの報告もなしに改造してしまったので、怒ってないだろうかと不安になった。しかし、自分達で買った箒なので、それほど気にしないでもいいだろうと楽観的に構えることにした。


「あれは私が魔道具分野にお願いして作らせたんですよ。私達が作ったわけではありません」


「そうなのか? 作った者の名前は?」


「あー、えーっと」


 フィーナは言い淀んだ。

 キャスリーンの名前を出すのは簡単だ。しかし、キャスリーンの名が売れれば、必ずキャスリーンの父親である公爵、そして公爵家にも伝わってしまう。そうなれば、いろいろと厄介な事になってしまいそうで、フィーナは応えることができなかったのだ。


「なんだ、訳ありか? 安心しろ。公表はせんし、その者に何かしてもらおうとは思ってはおらん。厄介事ならば相談に乗っても良いぞ。お前達には感謝しているしな」


 フィーナは一瞬言うのを躊躇ったが、最高権力者である国王が相談に乗ってくれるならば心強いと考え、話すことにした。




「―――うーむ。その公爵というのはレイクラウド公爵のことであろうな。前に魔女と駆け落ち寸前までいったと噂になったことがある。レイクラウド公爵は情熱家で名が通っていてな、なんでもその魔女の事が忘れられず、未だ独身だそうだ。……まさか子がおったとはな」


 キャスリーンの父親はレイクラウド公爵と言うらしい。

 国王は思ったよりも難儀な話だと判断し、国王側からレイクラウド公爵家には目を向けると言ってくれた。なかなかに心強い。正直、貴族関係のゴタゴタにはフィーナ達は何の手出しも出来ないところだった。首を突っ込まないようにしていても、キャスリーンに危険が及んだ時、出しゃばってしまうのが自分達であろうと判断していたので、国王側が注意を払ってくれるというのは非常にありがたい。


「なにかあれば直ぐに連絡しよう。お前達はそのキャスリーンという見習い魔女と、母親の魔女をいつでも避難できるよう準備しておけ」


「助かります」


「そこで本題だが」


 国王が執務机に頬づえをつき、話題を切り替えた。


「魔女による魔術大会を開く」


「へ?」


「前に話しただろう。魔術大会を開き、各村から参加者を募り、優勝者には褒賞を用意すると。その前段階として、まずは箒での競争競技を開きたいたのだ」


 フィーナはデーブ伯爵のダイエットを成功させた報告の時、国王と話したことを思いだした。

 確かにあの時国王は魔術大会を面白そうだと言っていた。


「養成機関も作られたが、現在王都では魔女の実力について疑問視する声も少なくない。その声に応えるべく、魔術大会を開くのだ。同時に、狩猟大会も開くぞ。前話したとおり、参加者からは参加費を取り、盛大に行おうと思う。もちろん、魔術大会でも参加費をとるからな」


 

 普通、平民は魔女との関わりが少ない。魔女の作る薬や魔道具は、高級品として店頭に並ぶため、平民には手が届かない。そのため、平民にとっては魔女という存在があまり重要視されていないのだ。そんな中で魔女に対してそれほど理解のない者が、魔女の実力に疑問視する声を上げているらしい。

 機関の食堂に、地域の住民が一人も来ないことも、魔女への理解の浅さが原因なのかもしれない。


「狩猟大会では騎士や兵士の実力を王都内外に響かせ、魔術大会では魔女の実力を示す。国民はその実力を見て、王国の力を信じ、民としての誇りを身につけてもらいたいのだ」


 国王は大層なことを言っていたが、最後に「参加費で国庫も潤うしな」と呟いたのをフィーナは聞き逃さなかった。




100話で閑話を入れようと思いましたが、話がぶつ切りになってしまうので、一段落してから載せようと思います。

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