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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
荒廃都市と機関編
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84『中心部』

 

 フィーナ達は廃墟となったガルディアの街を進む。

 時々現れるゾンビ犬やゾンビ鳥を灰にしながら、街の中心部を目指した。

 今のところ、人も人だったものも目にしていない。やはりヘーゼルの言う通り、五十年の間に土に還ったのだろうか。


「日が沈むまでにはこの街を抜けたいね」


 ヘーゼルの言葉にフィーナ達は三人揃って同意した。正直、既に精神的にギリギリの状態だ。肉体的には然程疲労感はないが、精神的には今にも心が折れそうである。



 一行が街の中心部に近付くと、周囲の雰囲気が一変した。


「なんだか景色が変わってきてませんか?」


 フィーナがヘーゼルに尋ねる。ヘーゼルもそう感じているのか、怪訝な表情で辺りを見回しながら歩を進めている。


 街の中心部はこれまでと違って、より一層緑に覆われていた。地面からは木々が突き出し、家々は苔と雑草に覆われている。この場所だけ百年以上放置されたかのようだ。自然にほとんど還りつつある街の中心部を、フィーナ達は雑草を切り開きながら進んでいく。


「いくら人の手が入って無いからって、これは異常だね……。中心部には一体何があるのやら……」


 ヘーゼルは門にまとわりつく植物の(つる)を燃やして引き剥がしながら言った。

 

「この先は貴族街だね。この街は中心部に領主の館を含める貴族街が広がっているみたい。原因はそこで起きてるみたいね」


 貴族と聞いて、フィーナは頭によぎるものがあった。この依頼を出してきたというローデン男爵家の印を持つ若い男の話しである。

 もしその男がローデン男爵の弟ならば、この先の前ローデン男爵邸に居たはずだ。


 フィーナ達が気を引き締めて門をくぐると、魔分の濃さが一層増し、フィーナは息苦しさを覚えた。


「魔分が濃すぎる……! こんな所すぐに出ないとどうなるかわからないよ!」


 イーナが手元の【散光石】を見つめながら、苦々しい顔で言う。【散光石】はギラギラと光り輝き、辺りを眩く照らした。その異常な明るさからも、この場所の魔分の濃さがわかる。

 

「これは急ぐ必要がありそうね。魔法を使う時は注意してね。今まで以上に強力な魔法が発動されるから」


 ヘーゼルはフィーナ達に注意を促す。

 フィーナは指先に魔法で種火を作ってみる。すると、指から火柱が上がり、フィーナの前髪の一部をチリっと焼いた。嫌な臭いがフィーナの鼻をつく。


「魔法の威力が数倍になってそうです」


 フィーナは燃えた前髪を気にしながら報告した。イーナやデイジーもそれぞれ魔法の威力を確認し、驚きの声を上げる。


「私もここまで魔分の濃い場所は初めてだよ。どれくらい滞在できるかもわからないから、先を急ぐよ。危なくなったらこれを使って」


 ヘーゼルはバッグから三つの結晶を取り出した。結晶魔分ではなく、フィーナ達も見た事ないものだ。


「これは転移の魔結晶、一度しか使えない上に、恐ろしく高価なものなんだ。普通の魔女はその存在すら知らない秘宝級の品だよ」


 転移の魔結晶はかつて、リーレンが初めてレンツを襲撃した時に使用した物である。

 フィーナの特殊魔法である転移魔法と同じ効果を得られるが、フィーナの目視できる範囲という制限がなく、この街の外まで転移出来るという優れものだ。

 フィーナ達が珍しそうに転移の魔結晶を眺めていると、ヘーゼルは万が一の時に使ってねと念を押された。おいそれと使う事の出来ないほど高価なのだろうか。


「この魔結晶って、幾らぐらいするんですか……?」


 イーナが恐る恐る尋ねる。


「市場に出ることはまず無いけど、値段をつけるとしたら―――」


 ヘーゼルはそう言って指を五本立てた。


「金貨五十枚ですか?」


「いや……五千枚だよ」


 ヘーゼルの返答にイーナは青褪めて息を呑む。この小さな魔結晶一つに、フィーナ達が今まで生きてきた中で使ったお金以上の価値があるのだ。イーナが青褪めるのも無理ないだろう。


 フィーナは転移の価値の高さと、希少性をこの時初めて理解した。そして、その魔結晶を三つもフィーナ達に渡すことができるヘーゼルを、これまた凄腕なのだと実感した。


「一応箒で離脱することを考えていたんですけど……」


「この魔分の濃さじゃ、箒がどんな機動をするかわからないよ? 箒に魔力を流した瞬間吹っ飛んでいくかもしれないし」


 フィーナの考えをヘーゼルがきっぱりと否定する。確かにヘーゼルの言う通りだと、フィーナは最近調子づいていた自分を諌めた。やはり上には上がいるらしい。



 転移の結晶魔分を懐に大事にしまい、フィーナ達は先を急ぐ。鬱蒼(うっそう)と生い茂った木々や雑草に行く手を阻まれたが、強化された風魔法や火魔法で悉く払っていった。

 当時の貴族が住んでいたであろう屋敷は、すべからく朽ち果てており、今にも崩れ落ちそうなものばかりだった。文化が自然に呑まれていく光景に、フィーナは軽く感動しながらも、どこか寂しさを感じた。



「伏せて……!」


 ヘーゼルが小声でありながらも、はっきりと伝え、フィーナ達の頭を抑える。フィーナ達は何事かわからず混乱したが、ヘーゼルの視線の先にいるモノを見て、理解し、恐怖した。


「グリフォンの群れ………」


 フィーナ達の視線の先にいたのはグリフォンと呼ばれる頭と翼は鳥類で、胴体は哺乳類の魔物だ。最低でもラ・スパーダに分類され、群れを形成し、集団で襲ってくるため、危険性物として王国に広く認知されている。

 ヒカリの世界のように、鷲と獅子、といった決まった個体ではなく、頭は鳥類で、翼を持ち、胴体が哺乳類であればこの世界では全てグリフォンと呼ばれる。その為、グリフォンでも千差万別で、獰猛で強力な個体もいれば、臆病で弱い個体も存在する。

 しかし、個体の差はあっても、外敵が現れれば一斉にして襲いかかるのだから、あまり個体の差は意味をなさない。


「あいつが群れのリーダーかな?」


 ヘーゼルが指した先には大翼と鋭い嘴を持ち、馬の胴体には艷やかなウロコが鈍く光っている。尾は二股に別れており、後ろ脚が異常に発達している。頭には角まで生えており、獰猛な目がギラギラと煌めいている。

 フィーナにも他のグリフォン達がそのグリフォンに付き従っているように見えた。


「あの体躯、最低でもジ・スパーダはありますよ? 撤退するべきでは?」


 フィーナはヘーゼルに意見したが、ヘーゼルは首を振った。


「グリフォン達もこちらに気づいたようだよ……。腹を決めるしかない……」


 フィーナがもう一度グリフォンの群れの方を見やると、グリフォンリーダーを筆頭に、けたたましい鳴き声を上げながらフィーナ達に迫る、グリフォンの群れが目に入った。


 荒廃した街と、生い茂る草木の中で、フィーナは意を決したように深呼吸した。




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