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新米魔女のおくすりですよー!  作者: 中島アキラ
荒廃都市と機関編
84/221

83『荒廃した街、ガルディア』

 

 アルテミシアの絵を譲ってもらう代わりに依頼を受けることにしたデイジー。フィーナとイーナはがっくりと肩を落とした。


「ごめん、フィーナとイーナは受けなくていいよ。これはデイジーの我儘だから」


「そういう訳にはいかないよ」


 デイジーが申し訳無さそうにフィーナ達に謝った。

 デイジーはフィーナ達まで受けなくていいと言っていたが、フィーナ達はチームであり、何度も共に戦った仲間である。一人で行かせるわけにはいかない。


 フィーナとイーナはデイジーの手をとって、微笑んだ。双方とも無言だったが、確かに通じ合っていた。


「青春だね~。私もこんな立場じゃなかったら、友達も恋人もできたのになぁ」


 ヘーゼルがフィーナ達を見て寂しそうに笑う。


「ヘーゼルさんっていつからギルドマスターをやってるんですか? 凄く若く見えるので、いつからしているのか気になってしまって…」


「私がギルドマスターになったのは十六の時だから―――今年で三年目だね。代々ウチの家系が王都魔術ギルドのギルドマスターを務めてるんだ。私、これでも貴族なんだよ? 魔女の中でこの国唯一の貴族、ローレンツフェルト子爵とは私のこと! ヘーゼル・ローレンツフェルト! フフフ……驚いた?」


 正直言うと驚いた。それと同時に合点もいった。一介の魔女にしては国王と親しすぎると思っていたが、貴族で魔女だとは思わなかった。


 ヘーゼルはフィーナ達の驚き顔を見て、無邪気に笑った。



 三日後、フィーナ達とヘーゼルはガルディアの街に向けて出立した。この三日間、箒に乗る練習ばかりやっていたので、今はかなり慣れてきている。

 ガルディアには箒で飛んでいく事にし、時間短縮を図る。その気になれば、デイジーが一日で飛んでいける距離だが、初の箒移動にフィーナはわくわくしていた。


 しかし、そのわくわくした気持ちも直ぐに冷めた。箒で擦れて、股が痛すぎるのだ。時折休憩したり、箒に腰掛けるように乗ったりして紛らわせていたが、我慢も既に限界に達している。

 イーナとデイジーも休憩時には足をガクガクとさせて、不満を溢した。


 そもそも、あんなに細い柄に長時間座るなんて、居心地悪いに決まっている。おまけに全体重が股に負担をかけるのだ。痛みで痣ができそうだ。

 ヘーゼルもデリケートな部位に薬を塗っている。子どものフィーナ達より、体の大きい大人のヘーゼルの方が辛そうだ。

 練習時には休み休み飛んでいたので気付かなかった。これはレンツに帰ったら、魔道具分野へ依頼する事が増えそうだ。




 フィーナ達は箒と徒歩を繰り返し、ガルディアへ辿り着いた。

 近付くといかに魔分が高いのかがわかる。蛇の洞窟よりも濃いようだ。肌にまとわりつくような魔分に、フィーナ達は嫌そうに顔を(しか)める。


「エリー、どう?」


「魔分が濃すぎて難しい……。街の中心の方が更に濃くなってるかな? あそこまで行くと、ご主人様達でも危険だよ」


 イーナがフェアリーのエリーに魔分を読み取らせる。イーナが持つ、【散光石】は豆電球の様に光り輝いており、この辺りの魔分の濃さがわかる。

 エリーの話しでは街の中心に近付くほど魔分が濃くなっているらしい。あまりに濃い魔分の大気を吸いすぎると、体に異常をきたすと言われているため、フィーナ達はなるべく早めに街を出ることを確認し合った。


「魔物との戦闘になるだろうから、注意しててね」


 ヘーゼルが真剣な表情でフィーナ達に忠告する。いつも陽気なヘーゼルが真面目な顔をしているので、呑気に構えてはいられないだろう。フィーナはいつでも離脱出来るようにミミを影から出しておき、【黒影】を発動できるよう準備しておいた。

 ミミの【黒影】状態ならば、少女三人と女性一人くらいならば背に乗せて走れる。ミミは影から出されると、不穏な廃墟の空気に小さく身震いさせていた。


 廃墟の街は、放置されて五十年経っているだけあって、どこも風化してボロボロだった。郊外の石造りの家は苔むし、庭は荒れ果て、草が覆い茂っている。放置された水瓶に溜まった水は濁り淀んでいる。

 街を進むと家や店の密集地に辿り着いた。街の中心からもかなり近くなっているようで、イーナの持つ【散光石】が眩い光を放っている。

 この辺りの家々も、郊外の家と同様に荒れ果てていて、雑草が踏み固められた地面から根強く突き出している。

 ふいにヘーゼルが片手を上げ、フィーナ達に止まるよう合図した。


「何か聞こえない?」


 確かに何かが聞こえる。フィーナ達は緊張した面持ちで耳を澄まし、何の音が探った。


 ガシャ……ガシャ……と金属が打ち付けられるような音のようだが、どことなく重厚感も感じられる音だ。


 音を出す正体が曲がり角から姿を現した。

 鎧だ。動く鎧である。兜の中は空洞で、人が入っている様子はない。


「リビングアーマーだね……。戦時中はよく現れたらしいけど、最近はほとんど見かけなくなったんだよね」


 動く鎧はリビングアーマーと言い、騎士や兵士の死後、魂が鎧に定着し、大量の魔分を元に行動を続けるという現象だ。魔物とも動物とも分類されず、大抵は鎧が朽ちると同時に行動を停止する。

 戦時中、魔分が多い場所で戦死した兵士が、リビングアーマーとしてもう一度戦線に復帰したという言い伝えもある。

 リビングアーマーには危険はなく、余程の怨念や執念がない限り、人を襲うことはない。目の前のリビングアーマーもただ街を巡回しているだけのようだ。生前は巡回を担当する兵士だったのかもしれない。

 リビングアーマーは何事もなくフィーナ達の脇を通り過ぎていった。


「ふぅ……リビングアーマーなんて今じゃなかなか見られないけど、生物じゃないっていうのは結構堪えるね。変な汗をかいちゃったよ」


 ヘーゼルが額の汗を拭いながら安堵する。話に聞いていたが、実際に目にすると、かなり怖かったといったところだろうか。ヘーゼルの目にこの先への不安が写る。



「あのリビングアーマーが街を巡回して、魔物を駆逐してるのだったらいいんだけど……」


「ただの鎧が魔物を駆逐できるんですか?」


「リビングアーマーの怖いところは、中身が無いから、バラバラになろうが多少穴が開こうが倒れないことなんだよ。魔分の供給を断つか、鎧を原型を留めないほどに潰さないといけないの」


 この大量に魔分のある街ではリビングアーマーは非常に厄介な存在のようだ。だが、そのお陰で五十年もの間、魔物の侵入を許していないとなれば、少し可哀想な気もしてくる。

 まあフィーナは聖職者ではないので、何もしてやることは出来ないのだが。


「それに、魔物を倒してくれても、死体は片付けてくれないからね………だから………うげ、出たぁ」


 ヘーゼルの視線の先には今にも腐り落ちそうな肉体を引き摺りつつも、フィーナ達に襲いかからんとする魔物の成れの果てがいた。原型がわかりづらいが犬型の魔物のようだ。

 とてつもない腐臭と、嫌悪感に胃液がこみ上げる。


(ゾンビとか勘弁だよ! うえ、気持ち悪い……)


「こういう輩には火魔法が一番効果的なの!」


 ゾンビ犬がヘーゼルの火魔法に焼かれ崩れ落ちる。肉を焦がす音と臭いにフィーナ達が鼻をつまんで顔を背ける。


「こんな感じで、魔分の濃いところは死体すらも動くんだよ。特に魔物の魂の宿る死体は攻撃的で、見境がない。見た目も臭いも不快感倍増で、最悪だよ」


 フィーナは顔を顰めながらも、気になったことをヘーゼルに聞いてみた。


「人の死体も動いたりしないですよね?」


 ヘーゼルは答えなかった。それが答えと言わんばかりに沈黙する。フィーナ達は顔を青くし、今更ながら依頼を受けたことを後悔した。



「そう気を落とさないでよ。封鎖されて五十年も経っているんだから、死体も土に帰ってるよ……」


 そう言いながらもヘーゼルの顔は暗い。ある程度予想はしていたのだろうが、予想以上に精神的にきているらしい。


 フィーナ達が暗い気持ちになりながらも歩を進めると、数体のゾンビ犬が道を塞いだ。

 フィーナは半ばヤケクソ気味に数体まとめて丸焼きにした。周囲の魔分が反応し合い、いつもより強力な魔法になってしまい、家を一軒灰にしてしまった。


「魔力の制限はした方がいいよ。自分にまで火の粉が降り掛かってくるんだから」


 ヘーゼルはそう言うと、水魔法でフィーナの火を消した。熱い水蒸気がフィーナ達の肌を濡らす。

 フィーナは反省し、道すがら火種の魔法から練習することにした。デイジーも戦おうとしたが、どんな疫病にかかるかもわからないので、物理攻撃を主体とするデイジーには戦闘を遠慮してもらった。


「ご主人、ミミはササミが食べられニャくなりそうニャ……」


「ごめんねミミ。今は考えないほうがいいよ」


 悲痛な声で嘆くミミに謝ることしか出来ないフィーナであった。



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