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79『箒に乗りたい! 1』

 

「ねえ、箒に乗ってみたくない?」


 フィーナはデーブ伯爵邸に滞在している、イーナとデイジーに聞いてみた。フィーナの隣にはメイが付いてきており、貴族の邸宅内部を物珍しそうに見回していた。


「箒? まあ、魔女ならいつかは自分の箒を持つよね。でも今じゃなくていいんじゃない? 二人が持ちたいなら私もついて行くけど」


「デイジーはお空を飛んでみたいかなー」


 デイジーは天井を見上げて言った。ここから空は見えない。イーナは二人が箒を持ちたいようだから、付いていくとよと承諾した。


「……フィーナ達はまだ成長中でしょう。……箒は結構大きいのよ」


 メイがフィーナ達には大きい箒を持ち歩く事は出来ないと言った。なら小さい箒を持てばいいのかと聞くと、それもダメらしい。体が成長し、大きくなった時、小さい箒では窮屈になるそうだ。

 だが、箒の持ち運びについては問題ない。ガオがたぶん運んでくれるだろう。他人の使い魔を当てにしているフィーナであった。



「持ち運びについては問題ないよ。メイ、せっかく来たんだから、案内してよ」


「ちょっと待って。……私、一応成人してんだけど……」


「ん? 知ってるよ?」


「…もういいわよ」


 メイは悲しそうに自分の手や足を見る。そしてフィーナ達の姿と見比べて、がっくりと項垂れた。


「……下町に行けば、魔術ギルドに見つかるかもしれないわよ? それでもいいの?」


「言ったじゃない。隠れるつもりはないって」


 メイは嫌な予感しかしないので、なるべく一緒に行きたくなかったが、フィーナ達を止める方法が見つからなかった。それでもメイが渋っていると、フィーナがボソリと言った。


「案内してくれたら結晶魔分を見せてあげ―――」


「行くわよ! 早く!」


 フィーナはメイのあまりに早い変わり身に、苦笑いを浮かべ、イーナとデイジーと共に箒の取得へと向かった。


 貴族街から下町に下りると、途端に騒がしい声があちらこちらから響いてきた。箒屋はメインストリートから少し離れたところに位置するらしい。たが、そこに至るまでにはメインストリートに入らなければ辿り着けないそうだ。

 フィーナ達はメルポリの人混みを思い出し、苦い顔をしたが、王都のメインストリートは広く、()せるような悪臭も臭わなかった。その代わり、店主の大きな声が木霊していた。

 その騒がしさも、嫌になるという訳ではなく、活力に溢れた騒がしさだ。

 行商人が広げる風呂敷には、地方から集められた、たくさんの商品が並んでいる。露店では、王都の職人が作った工芸品や、畑で取れた作物等を販売していた。

 フィーナがふらりとここに立ち寄ったならば、つい財布の紐を緩めてしまう、そんな場所だった。


「なんかいい匂いがする〜」


 デイジーが焼き鳥の様な品の匂いに惹かれ、フラフラとフィーナ達のもとから離れようとする。それをイーナが首根っこを掴んで阻止する。


「デイジー、我慢して! 今日は伯爵様の料理人さんが新しい料理を御馳走してくれるんだから!」


 そう言うイーナも、さっきから袖を引っ張られる様に興味を惹かれている。

 メイはというと――――


「おじさん! この木彫り、凄いわ! サーペントと魔女達を型どった物ね? 鋭い牙、艶のある鱗の一つ一つまで丁寧に彫られているわ……。そして魔女の方は幼いけど、英雄みたいに凛としてかっこいいわ!」


 メイが店の一番目立つところに置かれた、三人の魔女風な者達がサーペントを撃退する場面を彫った木彫りを指差し、輝いた目で言った。


「魔女の嬢ちゃん、さすがお目が高いな! これは俺の知り合いの町で、活躍した魔女を彫った作品らしい。なんでも嬢ちゃんみたく若い魔女で、たった三人でサーペントの群れを丸焼きにしちまったらしいぞ。俺は震えたね……そんな凄い魔女がいるなら、是非とも一度拝んでみたいもんだとね」


「もう! 私、これでも成人よ! でも、この木彫りは素晴らしい出来だわ………。それで? この木彫りは幾らするの?」


「金貨三十枚だ」


「さ、三十枚!? 嘘でしょう!?」


「嘘は言ってねえよ。この木彫りは、さっき話した町で彫られていてな………。特にこの木彫りはこの魔女達が掘り起こした切り株から作られているんだそうだ。二つ作られたそうだが、一つはその町で大事に保管されるほどの逸品だぞ」


「く………いいものだけど、三十枚はとてもじゃないけど払えないわ」


 メイが払えなくて本当に良かった。あの木彫りは間違い無く【ウィッチ・ニア町】で彫られたものだ。

 掘り起こした切り株というのも、畑を開墾した上で邪魔になった切り株の事だろう。

 あんな物をメイが嬉しそうに手にしてたら、フィーナ達は恥ずかしさのあまり、メイに顔を向けることが出来なくなるところだった。


 メイは悔しそうにその木彫りを見つめ、フィーナ達に促されて、ようやく諦めた。


「はぁ……もっと働いていたら、あの木彫りも買えたのに………」


「そ、そう落ち込まなくてもいいんじゃない? たかが木彫りに金貨三十枚は払えないよ」


 イーナが気を使って励ましたが、メイは目を吊り上げて怒った。


「たかが木彫り!? あれは本当に凄かったのよ!? 魔女たちの身長の倍くらいはあるサーペントに、勇敢に立ち向かう姿……。そして、それを凶悪な形相で受けて立つサーペント………。はぁ……何でわからないのかしら!」


「あー、はい、なんかゴメン……」


 メイはその後もぷりぷりと怒っていたが、フィーナが結晶魔分で作られた魔道具も見せてあげるよ、と言うと、途端にケロリとした様に、輝いた笑顔を見せた。


(単純だねぇ………)


 その後、フィーナ達を型どった木彫りは、メイが見ていないところでデイジーが購入した。ガオの口の中に入れ、購入した事を隠すのも忘れない。

 店主には多めに金を払い、デイジーが買ったことを内緒にするように言った。店主はニヤついた笑顔で頷いていた。

 木彫りが売れてしまった事をメイが知ったら、また何かで機嫌を取らないといけないな、と考えるフィーナであった。



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