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75『国王からの依頼』

 

 フィーナ達はパーティーを抜け、メルクオール国王の執務室に招かれることとなった。 

 レンツ周辺で起きた事の数々はフィーナ達に聞けと手紙に書いてあったらしく、フィーナは改めてデメトリアの人使いの荒さに辟易した。


「まずはレンツ周辺の開発について聞こうか」


 国王が執務机に腰掛け、羊皮紙を片手に言い放つ。あの羊皮紙に聞くことを箇条書きにでもしているのだろうか。

 国王の側にはピボットの他、数名の使用人がいた。少し離れてフィーナ達の話を真剣に聞こうとする文官たちがいる。



 フィーナはどこから話したものかと思案する。

 おそらく国王はピボットから大体の事は聞いていて、情報の摺り合わせをしたいのだろう。



「王様はどの程度、情報を得ているのですか?」


「ほとんど何も得ていない。今朝ピボットから報告されたぐらいの事しか知らん。理由あって情報を寄越さないことは分かっていたが、流石に今回は焦れてしまってな。何度か王都に来るよう書状を送ったのだが、今回やっとお前達が来た訳だ」


 国王は深い溜め息をついた。フィーナはデメトリアが面倒臭がって王都に来なかったのではないかと国王に告げ口しておいた。


「しかし、何も知らないのであれば、少し長くなるかもしれませんね」


「そうか? ならばお前たちも座りなさい。茶を用意させよう」


 国王はピボットに指で合図すると、ピボットがきっちり五人分のお茶を入れ始めた。その所作はイーナが感嘆するほどで、熟練の技を感じさせた。


「フフフ…。ピボットの茶は美味いぞ?」


 国王がお茶を片手に自慢する。

 確かにピボットのお茶は美味しかった。お茶菓子も食べたことのない物で、イーナを始め、フィーナもデイジーも一口食べては驚き、一口飲んでは笑みが零れていた。

 その様子をピボットは満足そうに見つめ、誇らしそうに追加のお茶を入れていた。


「おっと…ついまったりとしてしまったな」


 国王が眠たげな眼を擦って、姿勢を正す。フィーナ達もそれに習って説明を開始する。



――――――「うーむ……そう言うことがあったのか…」


 フィーナ達はリーレンによる最初の襲撃から、罠を貼るために情報を操作したことを明かした。そして、その介あってリーレンを撃破したことも簡潔に説明した。


 【蛇の洞窟】で死にそうになりながらも三叉の大蛇を倒し、警邏を救出した事。その間に見つけた結晶が結晶魔力で、その力で現在レンツは類に見ない発展を遂げている事。しかし、人手が全く足りない事を話した。

 

 レンツ周辺で発見された新種の魔物についても説明した。現在は魔女のペットのようになっていると話すと、国王やピボット達は驚いていた。




「ふぅ…しかし、数ヶ月情報が途絶えただけでこの変貌ぶり。全く魔女というものは留まる所が知れないな」


 国王が次々と執務机の上に置かれる文官達のメモを流し読み、頭を掻いた。


「あ、レリエートの幹部魔女の一人を捕まえて、レンツで使ってますけど、これも報告した方が良かったですか?」


「……当たり前だろう。捕虜にしたのならレンツ側で責任を持って扱うように」


「よく働く人で、かなり助かってます」


 国王は深い溜め息を吐き、捕虜に働かせるのは聞いたことがないと頭を痛めた。



 フィーナが全て報告し終わると、デイジーはソファにもたれ掛かって眠っており、イーナもうつらうつらと舟を漕いでいた。

 話に全くついていけなかったシャロンは早々に退室して、客室で先に休んでいる

 外を見ると、空が白くなり始め、小鳥達が羽ばたくのが見えた。どうやら一晩中説明していたらしい。


 流石の国王も疲れたのか、フィーナ達に昼から執務室に来るよう言うと、寝室に戻っていった。その際に、シャロンを連れてくるように言っていた。


 

 イーナがデイジーを背負い、フィーナと共に重い足取りで客室へと向かい、ベッドに倒れ込んだ。

 昼まであまり時間は無いが、出来るだけ寝ておきたい。目を閉じると直ぐに意識が途切れた。



 次の日、眠い目を擦りながらフィーナと比較的元気なシャロンが執務室へ行く。イーナとデイジーには客室で休んで貰った。

 説明は昨日のうちに全て終わらせたので、今日は簡単な質問くらいだろうと考え、二人を休ませたのだ。

 しかし、シャロンを連れてこいと言っていたのが気になる。もしかすると、新たに面倒事を押し付けられそうな気がした。



「また王様の前に行かなければならないんですよね……」


 シャロンは緊張しつつも、フィーナと共に居れることが嬉しいようで、胸に手を当て深呼吸していた。


「おう、来たか。ん? 今日は二人か? まあ、伯爵の娘がいるならいいか……」


 国王は疲れた顔をしていたが、フィーナ達が来ると、キリッとした渋い顔になった。


「報告は昨日の分で終わりか?」


「はい」


「そうか…。実はな、お前に頼みたいことがあるのだ」


 フィーナは内心、そら来たと思っていたが、顔には出さず、ふむふむと頷くだけに留めた。


「そこの伯爵の娘、シャロンにも関わりがあることだ」


 国王は頬杖を付きながらシャロンをちらりと見る。シャロンはいきなり呼ばれた事に目を見開いた。


「近年、貴族の間だけで流行る原因不明の病があってな。シャロンの父君、デーブ伯爵もその病を患っている」


 シャロンは俯いて、唇を噛みしめる。それほど深刻な容体なのだろうか。


「しいては、フィーナ達にその病の原因究明と、治療法を探して欲しい」


「王都の魔女達に依頼はしないんですか?」


 デメトリアに王都にも魔術ギルドが存在していることは聞いたことがある。


「依頼はしたが、解明されなくてな………。貴族に流行る病という事で、民間の治療院にも相談しにくいのだ」


「私達も貴族階級の人達とは面識ありませんよ?」


「何を言う。シャロンと仲良くなったではないか」


 フィーナとシャロンは顔を見合わせ、どう返答するか迷った。シャロンとは昨日会ったばかりで、仲が良いとは言い切れない。

 しかし、国王もシャロンもかなり困っているようで、手を貸して欲しそうだった。


「この一件が片付けば、レンツに人を送っても良いぞ」


 国王は渋るフィーナに色々と便宜を図ろうとした。結局フィーナは断り切れずに依頼を請け負う形になってしまった。

 シャロンには感謝されたが、国王にはしてやったり、といった表情が浮かんでいたのをフィーナは見逃さなかった。



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