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74『交流パーティー』

 

 その夜、パーティーに参加させられたフィーナ達は、客間でドレスに着替えた。ドレスを拒否していても、侍女に無理やり着替えさせられそうだったので、諦めて自分達で着替えた。

 今までドレス等着たことないフィーナ達は、体が落ち着かないのを我慢しつつ、パーティーが開かれる大広間へ向かった。


 大広間には既に何人かの貴族が来ており、談笑していた。どうやら立食パーティーらしく、ワインを片手に話す貴族が散見される。

 フィーナ達はドレス姿なので、どこかの貴族の娘達と思われているのか、あまり目立っていないようだ。

 フィーナ達はピボットから指示されていたテーブルに向かう。テーブルには酒の代わり果実水が置いあり、美味しそうな料理の数々がテーブルの中央に置かれていた。


 テーブルにはフィーナ達の他にも大人の貴族が数人と、少女が一人いた。大人の貴族達は案内されると直ぐに他のテーブルへ行き、貴族間の情報を交流していた。

 フィーナはその会話をいくつか盗み聞きしてみたが、どれも結婚話ばかりでつまらなかった。どうやらこのパーティーは婚活パーティーのようなもののようだ。どことなくこれに招待した王様の意地の悪さを感じた。

 ただ料理は大変美味しく、イーナは真剣に、デイジーは必死に食べていた。


 フィーナが美味しい料理に舌鼓を打っていると、同じテーブルにいた少女からの視線を感じた。

 少女はフィーナが気づくと、慌てて目を逸らし、手元の皿に置かれてある貝料理をフォークで突付いていた。

 少女は貴族の令嬢のようで、歳はフィーナ達と同じくらいに見えた。結婚話にも加われず、同じくらいの歳の子どももいないパーティーでは肩身も狭いだろう。


「こんばんは。私はフィーナです。貴女のお名前を聞いても宜しいですか?」


 フィーナは少女に、失礼にならないよう丁寧に自己紹介した。少女は少し顔を赤くして小さく頷いた。


「……こんばんは。私はオルソン伯爵家当主デーブ・オルソンの娘、シャロン・オルソンです」


(おお、貴族様だー。伯爵ってどの位だっけ? 王様が殿様だとすると……まぁいっか)


「あの、聞き苦しいんですけど、フィーナ様はご家名を名乗らないんですか?」


「家名ですか? 私は魔女なので家名はありませんけど」


 フィーナが答えるとシャロンの目が見開かれた。


(あ、魔女って言ったのまずかったのかな?)



「魔女って、あの魔女ですか!? どうしてここに?」


 シャロンはフィーナの手を取って目を輝かせた。どうやら魔女はシャロンには嫌われてないようだ。


「王都に仕事で来たんですけど、パーティーに招待されまして……出席したんです」


「そうなんですか…………私、魔女に憧れているんです。お空を飛んだり、魔法で魔物を倒したり……とてもかっこいいです」


 シャロンがうっとりとした顔で虚空を見つめた。


「そ、そうですか? ありがとうございます、シャロン様」


「シャロンで良いですよ、フィーナ」


 シャロンの屈託の無い笑顔に押され、フィーナはさらに友達になる事を承知してしまった。イーナとデイジーも友達にされたようだ。

 この押しの強さはキャスリーンに似たところがあるが、キャスリーンと違うのは血走った目をしない事や、息を荒げないことだろうか。



「シャロンは何故このパーティーに来たんですか?」


「私もこのパーティーが何の為にあるか知ってますよ、フィーナ。今日は体調不良のお父様の代わりに私が来たのです」


「そうなんですか」


 フィーナ達とシャロンが歓談する。そこに一人の男が近づいてきた。


 年齢は三十代といったところか。少し長めの白い髪の毛を後ろで束ね、肩で風を切って歩いてくる。その凛々しい姿は悠然と様になっており、温和な表情に対して規律と厳格さを感じさせる。頬に皺が入った柔らかい笑みを浮かべ、分厚い黒いマントをはためかせている。


 シャロンがその男を見た瞬間、跪いた。フィーナが周りを見ると、シャロンと同じように跪く貴族達がいた。男の後ろには、軽装だが屈強な兵士がついて歩いていた。

 フィーナは一目でこの男がかなり身分の高い存在だと認識した。


「ほう、もう友人が出来たのか? パーティーを楽しんでくれてるようで、何よりだ」


 男はフィーナとシャロンを見つめ、その後デイジーの口周りの食べカスを見て意地悪そうに笑った。


「シャロン…この方は?」


 フィーナは隣で跪くシャロンに小声で尋ねた。


「……メルクオール国王陛下です」


「……え」


 フィーナが呆気にとられていると、メルクオール国王が片手を上げ、威厳に溢れた声を発した。


「面をあげよ。今宵は楽しんでくれ」


 その言葉を聞いて貴族達は立ち上がり、各々の歓談を再開させる。国王がこの場にいるにも関わらず、結婚話に花を咲かせることが出来る貴族達は大物だとフィーナは感じざるをえなかった。

 しかし、国王の正面であり、この場に慣れていないであろうシャロンはその言葉を聞いても立ち上がる事ができなかった。極度の緊張で体が震えているようだ。


「落ち着きたまえ。今日は父君の代わりにパーティーに参加してくれてありがたく思う。こちらの魔女達と友人になってくれた事もな」


 国王が膝を折って、そう言うとシャロンは目を輝かせ、顔を綻ばせた。


「お初にお目にかかるかな? 我がメルクオール国王、ヨハン・レーベン・メルクオールだ。今宵は招待を受けてくれて嬉しく思うぞ、レンツのアルテミシア達よ」


 国王の言葉に周囲の貴族達がこちらを向いて、ざわりと声を上げた。魔女がこのパーティーに参加していることに驚いたのか、国王が招待したことに驚いたのか、その両方なのかフィーナには分からなかったが、周囲の目は国王とフィーナ達に注目してしまった。


「レンツの魔女達にはとても感謝しているぞ。他国の魔女を撃退し、王都にも有益な(・・・)情報を送ってくれた」


 国王は『有益な』の部分を強調した。王都には当たり障りのない情報を流しているので、有益などという情報は一切ない。それを国王は『有益な』を強調して言った。本音は禄な情報送ってこないことに腹を立ててるのかと、フィーナは思った。

 

(ピボットさんにも言われたし、パーティーに参加させられたのも、国王なりの意趣返しなのかな?)


「…いえ、王都並びに国王陛下がたくさん手伝って《・・・・》くれましたから」


 フィーナは『手伝って』の部分を強調し返し、ニコリと笑った。もちろん王都にも国王にも手伝ってもらっていない。


 国王とフィーナは互いに腹黒い笑いを浮かべ合った。


「フッ…気に入った! お前達、これから私の執務室に来い。オルソン伯爵の娘もな」


 周囲の貴族たちがザワザワと騒ぎ噂する。


 フィーナ達は仕事の依頼かな?という軽々しい気持ちだったが、シャロンは今にも泣きそうな青い顔をしていた。



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