73『王城の中へ』
「凄い……これが王都」
フィーナ達は順調に旅路を進め、王都に着いていた。
城を取り囲むようにして建つ家々は、整然と並んでいる。道はメルポリの街より数倍広く、馬車も通過する事ができた。
城下の街並みは綺麗で、様々な店が通りに沿って構えている。
「綺麗な街だね」
「うん、メルポリの街とは大違いだね」
町長のアルフから、目が回るほどの大きさと聞いていたので身構えてしまったが、圧倒されてしまい、目が回るほどの余裕は無かった。
「メイ、目的の王都に着いたけど、これからどうするの?」
王都に着くまで行動を共にしてきたメイに今後の予定を聞く。
「私は私の用事を済ませてくるよ。また会ったら声掛けてね!」
メイが元気よく手を振りながらフィーナ達の元を去る。
あまりにもあっさりとした別れに感傷にひたる暇も無い。メイにも急ぎの用事があるのかもしれない。
「私達はでめちゃんから預かった書状を城に届けたら、お使いは終了だね」
フィーナ達は王城に向かって歩きだした。城の壁は日に焼けてクリーム色になっている。赤い屋根が特徴的だ。
城に続く門を守護する兵士に要件を伝える。兵士はフィーナ達の背丈を見て訝しんだが、書状が本物であるため、城に確認の使いを送り出した。
「見習い魔女とは珍しいな。紺のローブだから、サッツェ王国の者かと思ったぞ」
フィーナ達は自分達のローブを見て、首を傾げた。
「何故見習い魔女のローブがサッツェ王国のローブと被ってるのでしょうか?」
「さあな。詳しいことは王様や君たちの村のギルドマスターに聞かないとわからない。だが、この国が建国される頃、サッツェ王国に色々と物資を送ってもらったらしい。その中には魔女用の服もあったという話だ」
「なるほど。その名残が今も、見習い魔女のローブ色として残ってるんですね」
「そうじゃないかと思う。まあ、一兵士の独り言だからな。違ってても文句は言うなよ」
兵士はニヒルな顔で笑みを浮かべ、フィーナ達に軽い敬礼をした。フィーナ達もたどたどしい敬礼をお返しし、「わかってますよ、兵士様」と顔を綻ばせた。
フィーナ達が談笑している間に遣わされていた兵士が戻ってきて、参城を許可された。
「では私についてきてください」
遣わされた兵士がそのままフィーナ達を城に案内する。城壁門をくぐり、整備された中庭の石畳を通って城門を抜ける。
城内部の一階は吹き抜けになっており、二階、三階へと続く階段が見えた。各階の廊下の手すりには、騎士の紋が入ったタペストリーや、魔女らしき紋が入ったタペストリーが垂れ下がっていた。
時折、階下を覗いている城の者達に珍しそうに見られながら、フィーナ達は応接室と彫られた石版を提げられている部屋に案内された。
中で待っていたのは丸眼鏡を掛けた細身の老紳士だった。一見温厚そうだが、目はフィーナ達を品定めするようにキラリと光っている。白髪が多量に混じった髪を綺麗に纏め、口髭と顎髭も整えてあり、几帳面そうな雰囲気が感じられた。
老紳士はフィーナ達に会釈すると、椅子に腰掛けるよう促した。
フィーナ達は少々高い椅子に、よじ登るようにして腰掛け、老紳士と対面するように座った。テーブルを挟んでいるとはいえ、まるで就職面接のようだ。
「始めに、この度は遠い所からお出で下さり、誠にありがとうございます。私、この城の使用人を束ねるピボットと申します」
ピボットと名乗る老紳士は椅子に座ったまま器用に礼をした。釣られてフィーナ達も礼をしたが、中途半端で不格好になってしまった。
「次に、今回私がお話しのお相手をさせて頂きます。本来ならば城の役人がお相手するはずだったのですが、あいにく体調不良でして、代わりの者も見つからないので、私がお相手する事になりました。至らない点は在りますが、そういった点は遠慮なく申し付けて下さい」
ピボットはこの城に三十年以上務めている執事で、普段は使用人達の教育をしつつ、王族の世話をしているそうだ。現皇太子を幼少期から面倒を見ているらしい。かなり王族に信頼されている人物のようだ。
ピボットも、それを理解してもらうために話したのだろう。
「次に、本題です。書状には、村一番の優秀な魔女達と書かれていますが、これは本当ですか?」
フィーナ達が自慢するようで、答えを渋っていると、ピボットが険しい顔をした。
「ふむ。お答えするのは難しいですかな? では最近討伐した魔物を教えて下さいますか?」
それなら、とフィーナ達が答える。王都に来る途中で遭った魔物や、依頼で討伐した魔物を述べる。
ピボットが顎髭を指で擦りながら目を細める。
「なかなかの強者達のようですな。では、レリエートの魔女が襲撃してきた事を詳しく説明してくれますか?」
フィーナ達は初めにリーレンが襲撃してきた事から、作戦やリーレンを罠に嵌めたことや、最近のマリンを撃退し、捕虜にしたことを詳しく説明した。
「ほう……二度も襲撃に合うも被害は無しですか。問題はなさそうですね。しかし、作戦とは言っても、王都に情報を寄越さないのは良くありません。間諜を気にされるのは解りますので、今後は私ピボットを通して報告するようお願いします」
ピボットは深々と頭を下げた。難しい要求をしている自覚があるのか、頭を下げた姿勢に誠意が篭って見えた。
「ピボットさんが敵に通じてるとは思えませんが、渡す情報には気をつけてくださいね。ピボットさんが狙われる可能性もあるんですから」
フィーナが注意すると、ピボットは「心得ております」と自信に満ち溢れた顔で返答した。眼光は鋭く、歳を感じさせない圧力は、ピボットがかなり腕も立つという証明だろうか。
デイジーでさえ、圧力に喉を鳴らすほどだ。
「最後に、今夜は王城のパーティーに参加されては如何ですか? 私から話しは通してありますので」
フィーナ達は王城のパーティーに半ば強制的に参加させられ、客間へと案内された。
貴族や王族が出席するパーティーでは、どんな問題が起こるかわからない。フィーナはなるべく目立たないように隅っこでじっとしていようと三人に提案した。