69『王都へ』
フィーナ達はデメトリアの嫌がらせによって、王都へ旅立つこととなった。
王都は馬車を使っても十日はかかる程遠い。その間にいくつか村や街が点在しているので、そこに泊まりながら王都を目指すのが普通らしい。なので、実際には十日以上かかると予想される。
フィーナ達は長旅に備えるべく、市場を廻り、食料や必要品を買い込んでいった。
荷物を口に詰められるガオはパンパンに膨れ上がり、歩くと腹を引き摺るようになってしまったので、デイジーが背負子で背負う形になった。
周りから見ると、少女がライオンのぬいぐるみを背負った微笑ましい光景だが、その実、大木をも粉砕する怪力少女が故である。
フィーナ達はやっとゆったりとした時間を過ごせるようになってきたのに、王都行きが決まったことに腹を立てた。
「あーあ、なんで王都に行かなきゃならないのー?」
「王都でレリエートの件の詳細を報告してこいって言ってたね。両方私達が関わってたから」
「手紙でいいのにー。お昼寝は当分お預けかぁ……」
「デイジーは寝過ぎだよ。 いくら言ってもいつも寝てるんだから」
「暖かくて気持ちいいのが悪い!」
デイジーは頬を膨らませてそっぽを向いた。イーナはため息をついて項垂れた。
「デイジー、あんまり我が儘言ってると、アーニーおばさんに言いつけるからね?」
「あ………ごめんなさい」
フィーナは二人のやり取りを微笑みながら見ていた。同時に微笑みの裏で、デメトリアへの仕返しを考えていた。
次の日、三人はレーナやアーニーおばさん、サナ達に見送られ、村を出た。
マリエッタに陸船を用意してもらったので、旅路は順調だった。操船はイーナとフィーナが担当し、警備は使い魔のミミとエリー、そしてデイジーが担当した。
時々魔物が出てきたりしたが、ミミとエリーがいち早く発見し、デイジーが一撃で処理していくというルーチンが完成し、陸船は止まることなく進んだ。
道中が順調に進むので、夕方から夜にかけてはまったりとした時間を過ごせた。
結晶魔分の研究によって、風呂や水の準備も楽になり、フィーナ達は快適な旅行を楽しんだ。
(王都に行けって言われた時は面倒だと思ったけど、けっこう楽しいかも? でめちゃんへの仕返しは優しいものにしてあげよう)
久しぶりに訪れた【ウィッチ・ニア町】で女神の如き扱いを受けながら一泊し、町で簡単な依頼を一瞬で片付け、感謝されながら町を出た。
「王都ってどんな所かな?」
陸船を操舵しながらイーナが聞いてくる。
「アルフさんの話によると、目が回るくらい大きいらしいよ。他所の魔女村からたくさんの魔女が集まってるんだって」
「え? もしかしてレリエートも?」
「まさか。メルクオール王国内の魔女だけだよ」
「見分けられるのかな?」
「普通はローブの色で見分けるからね……ローブは魔女の象徴だから、他国のローブを羽織るなんてことはしないと思うけど」
「愛着湧くよね。私もレリエートのローブとか羽織りたくないもん」
メルクオール王国に属する魔女のローブの色は漆黒だ。北のスノー・ハーノウェイ王国は灰色で、西のサッツェ王国は深い紺色。南のノータンシア連邦は暗褐色で、レイマン王国は深緑色を採用している。
各国の気候や特色が現れるのがローブの色だが、メルクオール王国が何故、漆黒を採用したのかはわからないらしい。
「ねーねー! なんか大っきな建物が見えてきたよ! 魔術ギルドぐらい大っきな建物が一杯ある!」
陸船の帆の先端に登っていたデイジーが、前方を指さし大声を張り上げる。
フィーナは前方に目を凝らして見つめた。
石の外壁がぐるりと囲うように街を守っている。外壁は家一軒より高いくらいだが、その外壁よりも高い建物がたくさん見える。
外壁の四隅に物見櫓のような場所があり、兵士と思われる男が欠伸をしながら虚ろな目をして立っている。
「止めるよー」
イーナは街の門の前で陸船を止め、門番をしている兵士に挨拶した。
「小さい魔女さんだな。身分証明書はあるか?」
イーナは三人分の身分証明書を見せた。これはリリィが用意してくれた。親であるレーナとアーニーおばさんの署名が入っている。
「うむ、問題は無いな。君達だけか? 成人魔女の連れ添いは?」
「いません。人手が足りなくて、私達がお使いに出される程です」
「そうか……大変だな。確かレンツは成人するまで連れ添いなしで街に来ることは禁止されていなかったか?」
「時代とともに慣例は変わる、私が許可を出す、とギルドマスターが言ってました」
「ううむ……面倒は起こさんでくれよ」
門番は渋々頷くと、道を開けてくれた。門番はすれ違うときに兵士の敬礼をし、言った。
「ようこそ、メルポリの街へ」