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68『レリエートの魔女会議 2』

「今日はマリンのやつはいないのかよ」


「そういえば最近見ないわね」


 フィーナ達がマリンを破り、レンツに連れて行った頃、レリエートでは幹部魔女による会議が開かれていた。

 アレクサンドラは会議に姿を見せないマリンに騒ぐ会議室で静かに口火を切った。



「マリンはレンツの見習い魔女に負け、捕虜となった」


「はあ!?」


「キャハハ! マリンは弱すぎなのよね!」


 アレクサンドラの発言にアマンダは驚き、ベラドンナは嘲る。二者の反応を伺いながら、アレクサンドラは詳細を説明した。


「儂がマリンにレンツ襲撃を唆した。マリンは幹部の中で最弱といっても優秀な魔女である事には変わりない。マリンが戦う中、儂はレンツの戦力を測る為に監視をおいたのじゃ」


 アレクサンドラが短的に説明し、口角を釣り上げる。マリンはアレクサンドラに捨て駒にされたのだ。アマンダとベラドンナはそれをすぐに察した。


「でもよ、見習い魔女にやられるなんてありえないぜ?」


「もし負けるんだったら、とんだ恥晒しよね」


 アマンダとベラドンナは半信半疑と言った風に頷きあった。


「それがな……。その見習い魔女達は特殊魔法を扱っていたそうじゃ」


 アレクサンドラの言葉に二人の顔が凍る。特殊魔法はアマンダやベラドンナも扱う、口伝のようなものだ。

 レリエートでは特殊魔法を扱う魔女を代々優遇していた。それがレンツの見習い魔女なんかに使われては面目丸潰れである。


「聞き捨てならないね。何かの間違いじゃないのか?」


「そうよ。特殊魔法は先祖代々受け継がれるものよ? 只の見習い魔女に扱えるはず無いじゃない」


 アマンダとベラドンナは険しい表情でアレクサンドラを見つめる。特殊魔法がいかに強力か、自分たちが良く知っているがための意見である。


「見習い魔女は三人いたようじゃ。そのうち一人が肉体強化型の特殊魔法、おそらく活性魔法の一つであろうな。それを使っていたようじゃ。もう一人はよくわからんが、一瞬で別の場所に移動する魔法のようじゃ。もしかすると、新しい特殊魔法かもしれん」


「……」


「……」


 新しい特殊魔法と聞いて、二人は押し黙った。今まで発見されなかったような魔法がレンツで眠っていたのだ。その魔法を見てみたいとも思っていた。同時に、レリエートにとって危険極まりないとも思っていた。

 実際には最近獲得した魔法である事をレリエートの魔女が知る筈もない。


「マリンを囮にして観察を優先させて良かった。あれは一筋縄ではいかん。リーレンもあの娘たちにやられたのだろう。驚くほど手慣れておった」


「そいつらの正体は?」


「わからん。国に放った間諜も、碌な情報を持ってこない。じゃが、レンツを調べている斥候によると、レンツの魔女達の連携が密になっているそうじゃ。そのせいで村には殆ど近づけん」


「いったいどうなってんだ……?」


 三人は厳しい顔をして顔を見合わせた。幹部魔女が続けて撃破され、情報も封鎖されている状況に危機感を覚え始めていた。


「レンツ襲撃は見合わせた方がいいのかもしれぬな」


「アレクサンドラ!?」


 ベラドンナが驚きの声を上げる。


「オレも賛成だぜ。こいつはかなり気合を入れないと厳しそうだ」


「アマンダまで………相手は脳無しレンツよ?」


 レンツの村はおよそ百年前、曽祖が行き場をなくした魔女を集めて作った村だ。栄光や地位を手放してレリエートを出た曽祖を、当時の魔女達は脳無しと馬鹿にした。

 そんな寄せ集めだった村相手に数百年の歴史を持つレリエートが苦戦しているのはありえない事だった。

 既にリーレンとレンツの戦いで多数の手勢を失っているレリエートでは、現在の幹部魔女に対して疑心が働いている。

 

「マリンがいなくなったことも直ぐに気づかれるわよ? アイツは雑魚に慕われてたから、村で反発も起きるかもしれないのよ?」


「マリンに関しては、裏切ってレンツに味方したとでも流せば良いじゃろう」


「納得しないと思うけど………キャハ、私が雑魚共を始末しとけばいいじゃない?」


「やめておけ。既にレリエートでは人材が不足しておる。これ以上手駒が減るのは避けたい」


「まあ雑魚共の言い分なんか聞く奴はいねえだろ」


「ふっ…そうじゃな」


 アレクサンドラは不敵に笑い、口元を隠している布を直した。

 アレクサンドラもいくら雑魚と言えど、魔女には変わりないレリエートの落ちこぼれ達の相手をしたくはない。マリンを唆したのも、マリンが落ちこぼれ達と結託してアレクサンドラの地位を脅かすのを避ける為である。

 当のマリンはそんな事を全く考えていなかったが、長年権力にしがみついてきたアレクサンドラには、そういった思考しか出来なかった。



「兎に角、レンツ襲撃は一旦保留とする。今後は監視と伝達を極め、最高の瞬間を座して待つ」



「わかった」


「わかったわよ」


 謀らずして、フィーナ達が王都に向かう頃に、レリエートではレンツ襲撃を一時取りやめたのである。

 レリエートの魔女達は、幹部魔女が怖気づいたと噂し、苛立ちを募らせていった。



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