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66『マリーナ』

 【豪雨】の魔女マリンを倒したフィーナ達はマリンの身柄を拘束し、レンツの村へと帰ることにした。


 マリンはフィーナの雷魔法で意識を喪失しており、サナの背におぶさってゆらゆら揺れている。


「しかし驚いたよ。こんなに強くなっていたなんてね」


 サナが歩きながらフィーナ達に言った。


「これでも結構な修羅場を潜ってきたんですよ」


 【蛇の洞窟】で三叉の大蛇を倒してからこの数ヶ月の間も、数々の依頼をこなしてきた。フィーナ達はすでにレンツでは一目置かれる存在になっていた。見習いなので外からの依頼は受けていないが、いつも大量の依頼が舞い込んでいる。


「まったく、自慢の妹たちだよ」


 サナの嬉しそうな表情の後ろで、ジャクリーンが歯軋りしながらフィーナ達を睨んでいた。



 一行がレンツの村へと戻った時、村は驚きに包まれた。レリエートの魔女を捕虜として捕らえたのだ。村にとっては重要な情報源になるかも知れない。

 フィーナ達はすぐに魔術ギルドへ向かい、デメトリアにマリンの扱いを聞く事にした。



「まあ、普通は処刑だな」


 デメトリアが呆れ顔で言い放った。


「普通は?」


「ああ、戦時中なら処刑は免れないだろう。だが今回は戦時中でないし、レリエートの幹部魔女という立場を持った魔女だ。そう簡単に処刑は出来んな」


「じゃあどうするんですか?」


「それを今、悩んでいる」


 デメトリアがうーんと眉を寄せてマリンを見つめている。マリンは未だ気を失ったままだが、

目隠しや体を拘束されている。そこまでしなければ危険な魔女であるからこそ、デメトリアも悩み迷っているのだろう。


「あれを使うか…?」


 デメトリアが重々しく口を開く。しかし口角が少し上がっていることをフィーナは気づいた。


(何を使う気なんだろう……)



 マリンはデメトリアに一日預けられ、無力化させられるらしい。フィーナ達はどんな拷問をするのかと戦々恐々としたが、デメトリアは厭らしく嗤うだけで教えてくれなかった。


 次の日、デメトリアのところに向かうと、見慣れない魔女がいた。


 歳はフィーナ達と同じくらいで、綺麗な青い髪と青い目をしている。少しビクビクとしているが、可愛い少女だ。


(ん? 青い髪に青い目? まさか!)


「でめちゃん……若返りの秘術使いましたね?」


「おお? わかるか? 少女にして魔力量の低下と【二つ名】の名告の反動に耐えられないようにしたのだが、存外うまくいったようだ」


 デメトリアは厭らしく嗤い、マリンの肩を叩いた。マリンは小さくなった体を見つめて涙目になっている。


「若返りはもう使わないんじゃなかったんですか?」


 フィーナが呆れ、腹立たしげに尋ねる。


「レンツの者には使う気は無いな。こいつはレリエートの幹部魔女だろう? 私の実験材料として使っても良いではないか」


 デメトリアはククっと口元を抑えながら嗤った。


「はあ……でもどうするんですか? 子どもになったとしても、敵ですよ?」


「こいつの面倒はフィーナ達に任せようと思う」


「「「はあ!?」」」



 フィーナ達が声を揃えて驚く。マリンは良いように実験材料にされ、自分を倒した見習い魔女に面倒を見させると聞いて、青い顔をしている。


「お前達はいつも“手が足りない”だとか、“忙しい”とか言ってただろう? それなら、こいつをこき使えばいいかと思ったのだ」


「……私は背後から刺されるなんて嫌ですよ?」


 フィーナがマリンを見て言う。マリンはますます顔を青くし、カチカチと歯を鳴らして震えている。


「大丈夫だ。こいつはレンツの村から出さんし、そんなことを考える暇もないほど働かせてやるからな。それに弱体化したこいつがお前達に危害を加えられるなんて思えん」



 確かに目の前のマリンからはすでに敵意は消えており、見て取れるのは怯えだけだ。


「はあ、わかりましたよ……。人手が足りないのは事実ですからね。ま、優秀な魔女は歓迎ですよ」


「よし、ではこいつを頼むぞ。使えなかったり、反抗するようなら私に言え。たっぷり可愛がってやる」


 デメトリアが不敵な笑みを浮かべると、ついにマリンは泣き出してしまった。

 何も知らない人がこの光景を見たら、少女達が一人の少女をいじめているようにしか見えないだろう。



「グス…グス……」


 涙を流すマリンにフィーナはため息をつき、手を引いてデメトリアのもとを後にした。


 フィーナ達が向かったのは錬金術分野の薬草園だ。フィーナ達が自分達の研究室を改築して、陽のあたる薬草園にした場所だ。


「いつまで泣いてるの。今日から貴女にはたくさん働いてもらうんだから」


 鼻をすするマリンにフィーナが厳しめに言う。


「……私を実験材料にするの……?」


「何言ってるの? する訳ないよ。貴女にはこの薬草園を管理して欲しいの」 


「え……?」


「貴女は水魔法の達人でしょ? 薬草の水やりとか、空調の管理とか得意でしょ?」


「うん……」


「じゃあ私達が教えるから覚えてね。薬草の種類、肥料、温度、湿度、水やり頻度……覚えることはたくさんあるから覚悟しといてね」


「……」


 マリンは自身無さ気に俯く。フィーナ達と相対したあの勇猛さは微塵も感じられない。体とともに幼児退行してしまったのだろうか。デメトリアがとてつもないお仕置きでもしたのかもしれない。

「まあ、直ぐに覚えられるとは思ってないから。後は……名前を変えよう。あと髪色もね」


「え、でも……」


「貴女が生きていると知ったら、レリエートの魔女はどうすると思う? 助けるにしても排除するにしても、レンツの迷惑になるよ。だから貴女は別人になるの」


 マリンは唖然として固まってしまった。フィーナは頭を掻きながら、少し悩み、ポンと手を叩いた。


「貴女の名前は今日からマリーナ! 元の名前とも似てるし、私の名前とも似てる。どう?」


 フィーナがイーナとデイジーに聞く。


「いいと思う! フィーナの名前に似るってことは私の名前にも似てるってことだよね」


「マリジーは変かなぁ? マイジー、デリン、デイン……うーん」


 イーナは賛成し、デイジーは自分の名前と組み合わせたいようだが、良い名前が思いつかないようだ。


「マジー……マリデイジー………うーん、うーん………あ! デイジーなんてどう!?」


「「それは自分の名前でしょ!!」」


 デイジーは頭を抱え、自分の名前を自信満々に言ったことを恥ずかしがった。フィーナ達は笑い、マリン、もといマリーナも釣られて笑ってしまったようだ。


 薬草園の輝く陽光の中、四人の少女達の笑い声が響いていた。



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