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64『相対』

 

 フィーナ達は依頼の途中で、エリーから気になる一言を聞いていた。


「森のトレントから伝言だよー。他国の魔女がレンツの魔女と遭遇しているってー」


 フィーナ達は森の中で凍りついた。依頼はあらかた終わっており、後は報告するだけだが、エリーの言葉は見過ごせない。


「他国の魔女って、多分レリエートだよね?」


「やっぱりまだ諦めてなかったんだね……」


「最近は森で活動する魔女も増えたもんねー」


 フィーナ達は淡々と言葉を交わす。フィーナはイーナとデイジーの目を見た。イーナはキラリと目を光らせ、デイジーはメラメラと闘志を宿らせている。


「行こうか!」


「うん!」


「ほい!」


 フィーナ達はエリーに詳しい場所を聞きながらその地へ向かった。




 マリンと相対している魔女達はサナやジャクリーンを含む狩人達であった。


(あのローブ色……レリエートの魔女か。妙な気配がすると思って落としてみたが、厄介な物を落としてしまったみたいだね……)


 サナは弓を取り出し、浅く息をして目の前の魔女に敵意を向けた。

 周りの狩人達も各々弓やクロスボウを取り出し、マリンを睨んでいる。

 ジャクリーンは初めて見る他国の魔女に度肝を抜かれ、動くことが出来ないでいた。動くことが出来ないジャクリーンを含めてもサナ達は四人。目の前の魔女がリーレンのような強者だった場合、危険である状況だ。


 しかしそれはマリンにとっても同じだった。

 狩人風に見える魔女が四人、しかしあれほど大量に獲物を取れるほどの腕前だ。練度はかなりの物だろうと予想していた。

 それにあの和やかなレンツや宿場町の光景を見て、戦闘をする気が起きないほど混乱していた。



「レリエートの魔女だな? ここで何をしている?」


「……」


 サナの言葉にマリンは懸命に脳を回した。正直に話せば戦闘は必至。かといってここで都合の良い嘘も思いつかない。結果、マリンは沈黙しか選択肢が無かった。


「答えろ」


 サナがマリンを急かす。マリンは背中を流れる汗を鬱陶しく感じながらも、ひとまず話すことで時間を稼ごうと思った。機を見て逃げる。それがマリンの答えであった。


「……いかにも。私はレリエートの魔女だ……。ここで何をしていたか、だったな? それに答えることは出来ん」


 マリンは敵意を向けられる視線がより濃いものとなったことを感じた。冷や汗がどっと増える。引き絞られた弓がギシギシと音を鳴らしている。この距離ではマリンであっても避けられるか判断出来なかった。


「お前はリーレンという魔女と同じく、レンツの襲撃を企んでいるのか?」


 サナがストレートにマリンに聞く。マリンが機を見て逃げようとすると事を狩人の勘で察知したのかもしれない。

 マリンはリーレンの名が出たことに、ぴくりと体を震わせた。


(かなり拙い状況だわ……。リーレンの事があるレンツにとって、私の立場は悪い。リーレンと同じ幹部だと知られれば、再度襲撃してきたと、思うのは必然。最悪、眉間に矢を放たれるわね……)


 緊張した空気が両者の間に流れる。


 ジャクリーンはピリピリとした状況に涙をためて耐えていた。サナ達も冷静だが心中穏やかでは無い。本来狩人は魔物の狩りが職務だ。狩りの基本方法は数人で逃げられないように囲み、徐々に弱らせることである。

 しかし、状況はサナ達に相対する様に正面から立っている。魔女相手に狩りの基本の行動を取れなかったのか、突然の出来事に頭が回らなかったのか、サナは間違いを侵しているのではないかと不安になりながらも、弓を引き絞る力を緩めることはしなかった。



「リーレン……様はレリエートでは雲の上の方。リーレン様が何をなそうとしていたのかは知らない。私はレンツの行動を監視せよと命じられただけだ」


 マリンは立場を誤魔化し、嘘をついた。リーレンを敬うような発言をし、劣等感に苛まれながらも歯噛みして、この状況を脱する事だけを考えた。


「行動を監視する目的は何だ? 命じた魔女は誰だ? 近くにいるのか?」



 サナは弓を向けられても動じず、隙を見せないマリンに警戒を解かなかった。明らかに只の雑用を頼まれるような腕前ではない。


「目的や命じた主を話すはずがないであろう?」


 さも当然と言わんばかりにマリンが答える。サナはギリっと歯噛みしながらも、どうするべきか悩んでいた。力尽くで口を割ろうにも、目の前の魔女は侮れないほどの佇まいをしている。サナは仲間たちの命もある為に、判断を下せずにいた。




「先手ひっしょーお!」


 サナがジリジリとした空気に耐えかねていると、目の前の魔女、否、その後ろから聞き覚えのある声が響いた。


 マリンは唐突なことに反応を鈍らせたが、間一髪防御に成功したようだ。粘性の高い液体が攻撃された部位に集まり、その衝撃を緩和させる。

 しかし、その衝撃が強すぎたのか、割れた水風船のように、液体が弾け飛んだ。


「何だと!?」


 マリンは驚きの声を上げて後方を見やる。マリンが発動した水魔法は、常にマリンが携帯している液体を使った防御魔法だ。その強固さは折り紙つきで、殴打系の攻撃には安定した耐久を誇っていた。それが一撃で粉砕される等、心中穏やかではいられない。


「もーデイジー! 攻撃の時に声出すのはダメって言ったでしょ!」


「あはは〜ゴメン、イーナ」


「デイジーにいくら言っても無駄だよ、姉さん。もう癖付いちゃってるから」


 三人の見習い魔女が姿を現した。



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