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62『非常呼集』

 

 フィーナ達は魔道具分野の一際大きい部屋の壇上で、緊張した面持ちの魔女達を眼下に見下ろしていた。

 隣にはマリエッタが立っており、優雅な物腰で魔道具分野に所属する魔女達の集まり具合を見ていた。

 魔女達の中にはキャスリーンやその取り巻きたちもいるようで、フィーナを目にしたキャスリーンが「フィーナさーーん!」と厚顔無恥ぶりを発揮して、大声で手を振っていた。フィーナは苦笑いしながら手を振り返すと、キャスリーンは感極まったのか、鼻血を垂らしてくねくねと奇妙な腰の動きをした。



「皆さん、本日は急な招集に応えて下さってありがとうございますわ」


 鼻血を取り巻き達に拭いてもらっているキャスリーンを尻目にマリエッタが挨拶を開始する。


「先程、こちらの方達、フィーナさん、イーナさん、デイジーさんから結晶魔分をお譲り頂きました。十年前、鉱脈の枯渇と共に衰退した魔法武具の再生を依頼されましたわ」


 眼下の魔女達からどよめきが起こる。見習い魔女と思しき魔女達はよく分からないといった顔をしていたが、成人した、特に歳をとっている魔女程驚きが強いようだ。


「最近ではレリエートからの襲撃の件や、新種の魔物の件もありますわ。いつ、わたくし達も危険な状況に陥るか判りません。ここで備えを万全にするべきですわ。レンツは変わりつつありますが、まだまだ先は長いですわ。ここは古きを興し、新しき物と融合させる好機だと思いますの」


 集会所はシンと静まり返り、マリエッタの言葉に注意を向けている。中にはマリエッタの言葉に頷く者も多い。最近の状況の変化に、一番対応を迫られているのは魔道具分野だ。そういう理由で、どこか思うところがあるのだろう。


「わたくし、魔道具分野、分野長マリエッタは結晶魔分と魔法陣を用いた新しい魔法武具の作製を、魔道具分野の今後の活動指針にすると宣言致しますわ!」


 マリエッタが声高に宣言する。新しい文化の始まりに魔道具分野が揺れる。宣言と同時にあちこちで何が出来るかの話し合いが行われる。

 結晶魔分についてよく知らない若年層は、先達に教えを乞う。

 集会所全体がガヤガヤと議論と授業が行われ、研究心旺盛な魔女達はフィーナ達から結晶魔分を借りて、早速手持ちの魔法陣との親和性を検証し始めた。



「フィーナさん! 凄いですわ! アイデアが溢れて止まりませんの!」


 いつの間にかキャスリーンはフィーナ達の間近くに来ていた。キャスリーンが結晶魔分を片手に興奮して赤い顔をフィーナに向ける。


「キャシーには作って欲しいものがたくさんあるんだけど、頼んでいいかな?」


 普段はキャスリーンを避けてるフィーナだが、魔道具製作の腕前は買っている。分野長の娘という立場のコネや伝手を持ち、フィーナの為ならブラック企業も真っ青な活動時間も(いと)わず、創意工夫を凝らした魔道具を作り出すこともできる。

 いつもは素っ気ないフィーナの頼みと聞いて、キャスリーンは噴き出す鼻血とともに気絶しそうになったが、すんでのところで耐えた。キャシーと呼ばれたことにも、さり気なくタメ口で話しをされたこともあり、キャスリーンはリンゴのように頬を染め、フィーナの頼みを聞き漏らさんと真剣な表情を造った。鼻血はたらたらと垂れていたが、その目は異彩を放つ匠の様だ。


「まずは私達の魔法武具を作って欲しいの。原案は書いてあるから、後でミミに運ばせるね」


 一瞬、影の中のミミがぴくりと動いたような気がしたが、フィーナはそれを気にしない事にした。


「それから滅菌乾燥機………火の結晶魔分と風の結晶魔分の混合石を使って、私達が使う道具を乾燥させる機材を作って欲しいの。数時間高温を維持できる様な物にして欲しいから、魔法陣の構築も大変だと思うけど、お願いしたいの」


 フィーナの要望をキャスリーンや取り巻き達がガリガリとペンを走らせ、メモを量産させる。何に使う物かなどと言う者はいない。フィーナが欲している、それだけで充分な理由となる者達がキャスリーン達である。


「他にも色々と作ってもらいたい物は有るんだけど、取り敢えず今言った物を作って欲しいかな」


「お任せくださいですわ! わたくしの全身全霊を賭けて作らせて頂きますわ!」


 キャスリーンはメモを胸に携え、自信に満ちた表情で答えた。フィーナは満足そうに頷いて、キャスリーンに依頼書の写しを渡した。ここに来る前に受付で書いてきたものの写しだ。

 フィーナはキャスリーンなら断らないだろうと踏んで、すでに依頼書を提出している。腹黒い少女である。


「それじゃあお願いね。詳しい注文はまた後日するよ」



 キャスリーンはメモが鼻血で汚れないように、鼻に布切れを詰め込み、端正な顔立ちを崩しながらも破顔して研究室へと向かった。その後を取り巻き達も追う。

 集会所の床にはキャスリーンの鼻血による血溜まりが出来ていて、周りの魔女が驚いた顔でその血溜まりを見つめている。


 (片付けていきなよ……)


 フィーナはため息をつきながらも、キャスリーンに鼻血を噴き出させたのが自分であると自覚していたので、血溜まりを綺麗に片付けた。

 後日、そのことをミミから聞いたキャスリーンが、あまりの嬉しさと恥ずかしさから鼻血を噴出させ、ミミを血塗れの猫に変えたのは、また別の話である。




 フィーナは結晶魔分を魔道具分野に無償で全て提供し、今後手に入る結晶魔分も格安で買い付け出来ることをマリエッタに話した。

 【蛇の洞窟】で採れる資源はどれもフィーナ達に権利が有ったが、金を取っても使い道が無いので、ほとんど無償提供だった。場所が【ウィッチ・ニア町】の近くなので、町に還元する様にとデメトリアと約束している。

 マリエッタはフィーナに抱きついて喜び、これから起こる文化の大革新に胸をときめかせていた。





「なんだか私達置いてけぼりだね……」


「フィーナがやらかす時はいつも置いてけぼりだよ」


「まあ、私達じゃ作って欲しい物なんて簡単に思いつかないし、大抵はフィーナがすでに頼んでたりするからね……」


「多分新しい調理器具もフィーナは頼んであると思う。デイジーは魔法武具が気になる! すっごく!」


 イーナとデイジーは置いてけぼりにされて落ち込みながらも、これから作られる物を夢想してニヤついた。




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